出版業界の中から見た、本の流通の現状と将来について
vol. 28 2015-12-06 0
現在まさに出版社で編集業をやっているという方から、WE WORK HERE プロジェクトへの投書をいただきました。出版業界の中から見た、本の流通の現状と将来について。
私たちがクラウドファンディングで前売りの意味も含めて印刷代を集める意図の一つもここにあります。ぜひご一読いただけるとうれしいです。
////////////////
網目を整える出版流通のリデザイン
とある知り合い(その人は元々出版社で取次を回る営業マンでした)と話をしていた時、話の流れから出版物の流通の話題になりました。「今、出版流通に問題ってあるんでしょうか」という筆者の問に対して、即座に彼は「あるね」と一言。以下にそこで聞いた話をベースにした考察を記してみたいと思います。
現在、日本の出版社はおよそ4,000社あると言われています。それに対して、全国に点在する15,000件強の書店を抱える主な大手総合取次(出版物の問屋さん)はわずか6社(今年、事実上の倒産が報じられた栗田出版を含む)。新刊は毎日200~300点ほどリリースされていて、そのほとんどが取次を通して全国の書店にばらまかれています。ちなみに、数度、取次に訪れたことがあるのですが、次から次へと人がやってきては順々に窓口で相談している様子は、まるで役場のようなのです。その様子と発刊量から察するに、取次にせよ、書店にせよ、出版社が作った本をいちいち読み込んだり、その良し悪しを確認・判断する余裕なんていうものはないわけです(元々好きということがなければ……)。
それはランダムに混ぜられたカードを均等に分配するようなもので、過去の成績や実績を元にとにかくさばいていくしかしょうがない。仮に、自分が本を作る立場だとします。とことん入念な取材を行って一所懸命作った本だったとしても、どこの本屋さんでどのくらいの冊数が置かれているかも不明確だし、自分の意図とは全く違う棚に置かれているかもしれない。普通に考えて、そんなギャンブルみたいな売り方されたら嫌ですよね。
※もちろん、ここに営業が交渉しコントロールをするのですが、その話を含めてしまうと複雑になってしまうため、今回は避けさせて頂きます。
突然ですが、この状況を網漁に例えてみたいと思います。言わずもがなですが、網は同じ本数の縦、横の糸などが編まれた、ほぼ均一ないくつもの格子で構成されています。その網目でもって、多くの魚をキャッチすることが出来る。その縦、横の本数がまばらであれば、格子は均一でなくなり、大きな隙間が生まれて魚は逃げてしまいます。つまり、日々大量に生み出される出版物(=縦糸、横でも良いですが便宜上、縦とさせて頂きます)に対しての取次・書店(=横糸)とのパワーバランスが取れず網の均一性が崩れたが故に、現在の出版不況が起きている可能性が高いのではないでしょうか。
んじゃあ、昔はどうだったのか、というと、おそらくまだ海にたくさん魚がいた(=雑誌や本を買う人がたくさんいた)のだと思うのです。網に隙間があったとしても魚はかかっていた。それが次第に、人々の趣向が変わり興味が出版物以外のところに向いていった。それに気づけず旧態依然とした方法を取り続けた出版社は、魚のいない海に網を張り続け、いつの間にやらその網も劣化していった、と考えられるような気がしています。
ただ、魚は全くいなくなったのかというと、この場合の魚は人の例えですから、そんなわけないのは言うまでもありません。皆、新しく出来た楽しい海を自由気ままに泳いでいると思うんですね。その主たるものがおそらくインターネットであり、そこからの派生形(スマートフォンとか、インストールされているアプリとか)でしょう。
これは時代を辿ることによって起きてしまった変化である、と言って諦めてしまうのは容易い。でも、本や雑誌を買うこと、情報に対してお金を払うことを我々が止めてしまったら……これは極論ですが、作る人がいなくなってしまう可能性だってなくはない。あまりに野暮で古臭い考え方かもしれませんが、本や雑誌がなくなって欲しくない、と思っている人も多いはずです。そういう方々にきちんと、気概のある出版物を届けたい。そのためには作り手と販売する人間とが穴ぼこがあいていない、しっかりとした網を張り、皆が泳ぎたくなる上質な本が漂うクリーンな海を作ってあげなきゃいけないと、今、考えているのです。『WE WORK HERE』はそのテストケースとなるかもしれません。