YIDFF監督派遣:山形県立聾学校での交流(12/20)
vol. 18 2019-12-26 0
山形国際ドキュメンタリー映画祭2019監督派遣事業は未だ続いています。2019年12月20日(金曜)、山形県立聾学校で、日本語字幕付きの「世界一と言われ映画館」(バリアフリーバージョン)を上映し、佐藤広一監督と中等部と高等部の生徒さんたちとの交流会が開かれました。山形県聴覚障害情報支援センターから派遣していただいた2人の手話通訳士さんのサポートで、映画上映後のトークや質疑応答などでも、活発なやり取りが実現しました。
ドキュメンタリー作品「世界一と言われた映画館」は、山形国際ドキュメンタリー映画祭が企画・制作し、YIDFF2017で初公開したものですが、2019年10月に開催された映画祭では、東京田端にある映画館シネマ・チュプキの平塚千穂子さん等が製作したバリアフリー・バージョン(音声ガイド付き、日本語字幕付き)を山形で初めて上映することができました。
今回の山形県立聾学校での監督交流は、このバリアフリーバージョン(日本語字幕付き)を上映して、聴覚障害を超えて、若い世代にも山形の映画や地域の歴史に触れてほしいという趣旨で開催されました。
グリーンハウス(Green House)とは、山形県酒田市中町二丁目にあった映画館。大沼デパート酒田中町店に隣接した場所にあったとされています。1949年に開館、洋画専門館として約27年半にわたって酒田地区における文化の中心的な存在であった。1976年10月29日の酒田大火の火元となり、そのまま消失・閉館しました。電気系統が原因と見られますが、出火原因は公式には不明です。
大 火の火元となって街に甚大な被害を生み出した映画館ではありましたが、消失から40年以上過ぎても、グリーンハウスの思い出やそこで味わった様々な映画と の出会いの素晴らしさを自分たちの人生と重ねて熱く語る人々のの証言と表情を通して、この記録映像は地域で映画文化を花咲かせようとした支配人 故・佐藤久一の生き方にも迫ろうとしたものです。
聾学校に通う中等部、高等部の生徒17名にとっては、酒田大火もグリーンハウスについて見聞きするするのはほどんど初めてだろうと思われましたが、中には酒田の隣 三川町出身の高等部の生徒も居て、家族からその火災や被害の大きさについて伝え知っていたとのことでした。
中等部の或る生徒は、「自分たちの知らない歴史や災害ことが、"映像"という視覚表現を通すと非常に生々しく感じられて、映像で記録することの凄さを感じた、自分たちも他の人や次の世代に何かを伝える時に、映像で記録し伝えるということの可能性とか大事さに気づいた」と、上映後、山形新聞のインタビューに応えていたのが印象的でした。
また、最近見た恋愛映画について自分の体験を重ねて感想を語る女子生徒のキレの良い話ぶりに爆笑が起こったりと、一本の映画を学校内で共有することで、通常の授業とは一味もふた味も違う様々な言葉や表現が次々行き交う交流の場が生まれたように感じます。
聾学校の聴覚に障害を持った生徒たちといっても、当然ながら個人差があること、また口話教育を受けい ることで読み取りと発声でやり取りすることも可能だったり、手話を使ってコミュニケーションすることもできたりと実に様々な表現が飛び交っていて、聞こえ づらい人も聞こえる人も一緒に参加し居合わせて、この交流の場が成 り立っていたように感じられました。
山形県立聾学校での上映と交流に参加した、天童市在住の佐藤広一監督のコメントです。「今回のように自分の監督作品がバリアフリーバージョンで聾学校の生徒の皆さんに見ていただいたり、いろんな感想や反応を受け取れる現場に立ち会うと、やはりバリアフリー作品を作ることの大事さを改めて感じます。それが、そもそも本来の姿なのではないか。聴こえ辛い方にとっては、字幕のない日本映画より字幕のある洋画の方が親しみやすいと言われています。日本映画の世界には、何かが、意識や工夫がかけているのかもしれないと、今回、参加して感じています。自分が、今後作品を作り続けていく上でのある種の宿題を預かった気がします。」