YIDFF2019監督派遣 報告その3(新庄・最上編)
vol. 16 2019-11-20 0
山形県舟形町では毎年、縄文祭りが開催されています。今年は祭りの中で、ドキュメンタリー映画『縄文にハマる人々』の上映会が開催されました。
上映会の運営メンバーは舟形町や隣の新庄市の陶芸家や農家、花屋にコーヒー屋など、映画を仕事にしているわけではない、仕事も年齢もバラバラな人の集まりです。ここら辺ではよくあることですが、何かやろうと思った人が声をかけて集まった友人とその友人たちというわけです。
大いに盛り上がった上映会の打ち上げの席上で監督派遣事業の話が出て、僕たちは2度目の映画上映活動に取り掛かることになりました。話し合いの結果、次の舞台は新庄市に決まりました。
稲刈りもほぼ終わり、何かホッとした空気の漂う新庄にジジ・ベラルディ監督と、通訳の山之内悦子さんがやって来ました。
まずは新庄北高校で、高校生たちに向けて映画の上映とトークセッションを行ました。
ジジ監督の『山の医療団』は紛争地帯の村々で医療活動をする人々を追った映画です。といっても、悲惨な状況を見せつけ告発する映画というより、なぜ人は人を救うのかという普遍的な想いを観た人の心に焼き付けるような美しい映画です。
普段見るテレビや映画との違いに最初はとまどっていた高校生でしたが、医療を学ぶ若者が豚を使って手術の実習をするシーンになると教室がどよめき、そこからはドンドン映画に引き込まれていきました。その後のトークセッションでは勢いそのままに、次から次へと質問が出ました。足を失った少年は今どうしているかなど、映画に出て来た人たちを友人のように心配する質問が多かったように思います。
次は日本で初めて雪を自然災害として研究した雪害研究所を資料館にした、雪の里情報館での上映会です。普段地域活動などに積極的に参加しているよく会う人たちだけでなく、主婦のかたも多く来ていました。ジジ監督の希望で上映の後は、すぐに質問コーナーへ。紛争地帯の状況に関する質問もありましたが、映画に出てくる住居の構造や食事などについての質問が多かったのは、他の地域に比べて近年まで昔ながらの生活が残っていた新庄ならではなのかもしれません。
北高でも雪里でも、観た人たちが自分の生活と関連づけて映画を見ているのが印象的でした。きっとこの映画を心の片隅に持ちながら、明日からも生活していくのでしょう。
ジジ監督は「映画をよく理解してくれて、鋭い質問が多くて驚いた」と言っていました。
その後は新庄駅のそばの魔窟「味おんち」で親睦会。長年酒屋を営んできたコネクションを活かして、ここにしかないようなお酒が飲める店ですが、なぜか農家のかたが持って来た地酒で乾杯。あとは隣が誰の友人か分からないような状況で、ジジ監督と山之内さんを囲んで映画祭の歴史、ジジ監督の次回作など色々な話で盛り上がりました。若い頃に映画の自主上映をしていたかたが第1回のYIDFFのパンフレットをジジ監督にプレゼントすると、監督ははじけたように笑って大喜びしていました。
次の日は、ジジ監督と山之内さんに新庄を案内しました。まずは民具が所狭しと並ぶ新庄ふるさと歴史センターへ。今では何に使ったか分からなくなった民具たちを実際に使って生活してきた御年92歳の伊藤佐吉さんに来てもらい説明をしてもらったのですが、ジジ監督も山之内さんもついでにアテンド役の僕たちも、あっちの民具はなんだ、こっちの民具はと、競うように佐吉さんに質問を浴びせかけ、まるでおもちゃ屋に子供を数人放ったかのような状況でした。佐吉さんには昔の生活の基本である、縄ないの実演もしてもらいました。
その後、新庄のなかでも城下町だった「マチ」を離れ、周辺の農村地帯である「ザイ」へ。景色が住宅街から、遠く杢蔵山まで続く一面の田んぼに変わります。ザイのさらに奥、山沿いの集落と山奥の集落の間にある古峰神社に行きました。
どこまでも続く杉並木に挟まれた細い道には縄文時代の囲炉裏の遺跡があり、それを踏みながらしばらく歩いた先に立っているのは、文字の刻まれた大きな石。拝殿も本殿もありません。自然を神と崇めていた時代の残り香が漂うような空間です。ジジ監督も佐吉さんの真似をして参拝をしていました。
続いて縄文時代の家からいっきに近世の家にタイムスリップ。江戸時代に建てられた農家の家をそのまま移築した旧矢作家に。土間のあちこちを指差しながら佐吉さんに質問するジジ監督を目で追いながら、アテンド役のひとりが戸に手をかけて待機。やっと監督が戸に近づいてくると、バッと戸を開けました。「おおっ」と声をあげる監督。そこには昔話のような空間と、囲炉裏の周りにズラッと並んだ新庄の郷土料理が。新庄市食生活改善推進員のかたたちが作ってくれた郷土料理はどれも絶品で、例えば昔と同じように納豆をすりつぶして作った納豆汁は佐吉さんも太鼓判を押すほど。ジジ監督はおかわりをしていました。監督は映画祭の随分前から来日して、日本の色んなところを回ったのそうですが、「日本で食べたものの中で、これが1番美味しかった」と言ってくれました。
その後は、新庄の農村の苦しい生活を今に伝えるまかどの地蔵をお参りし、駅につきました。
「また2年後の山形国際ドキュメンタリー映画祭で再会しよう」と約束し、ジジ監督は手を振りながら新幹線に乗り込みました。
参加監督:ジジ・ベラルディ 氏 Gigi Berardi、英語通訳:山之内悦子さん
YIDFF監督派遣事業 地元主催者:『山の医療団』を観るMOGAMIの会
報告:岡 健太郎さん(『山の医療団』を観るMOGAMIの会 メンバー)