フィリピン映画ブームを作りたい
vol. 11 2020-05-22 0
こんにちは。「Purple Sun」共同プロデューサーの今井太郎です。
クラウドファンディング、残り3日となりましたが、おかげさまで53名の方々から合計430,000円のご支援を頂いております。目標達成に向けて引き続きご協力よろしくお願いします。
昨日は重いアップデートを書いたので、今日は楽しい話題を書きたいと思います。
Vol. 9でも書きましたが、ここ数年、国際映画祭ではフィリピン映画に注目が集まっています。しかし、日本ではまだまだ馴染みが薄いと思います。それは何故なのか、考えてみました。
私が子供の頃、映画と言えば、ハリウッドのアクション映画かジャッキーチェンの香港映画でした。私が小学生〜中学生の80年代後半〜90年代前半の事です。
その後、90年代後半になって、アクション映画に飽きてきたという風潮と共に、中国のチェン・カイコー、チャン・イーモウ、香港のウォン・カーワイ、台湾のホウ・シャオシェンといった中華系の文学的でおしゃれな映画が出現します。映画祭では賞を取るし、雑誌でも大々的に特集されるし、劇場での興行でも成功していたと思います。私の田舎の高校(男子校)でも講堂で「恋する惑星」の上映会があったり、アジア映画好きだけに受けていたのではなく、当時はもっと若者の文化に浸透していたと思います。
2000年代になってからは「シュリ」を皮切りに、韓流ブームが始まります。ちなみに私は1998年に高校を卒業してアメリカに7年間留学していたので韓流ブームには乗り遅れましたが、アメリカでも韓国映画の特集上映が組まれたり少しずつ韓国映画が知られるようになっていました。ちなみに私が生まれて初めて観た韓国映画は、2000年頃にハリウッドの映画館で観たキム・ギヨン監督の「下女」でした。
当時はアメリカでもアジア映画ブームで、私も劇場に毎週足を運んでいたのですが、アン・リー監督の「グリーン・デスティニー」、ウォン・カーワイ監督の「花様年華」、北野武監督の「HANA-BI」、黒沢清監督の「CURE」、青山真治監督の「EUREKA」、是枝裕和監督の「ワンダフルライフ」はLAの劇場にも長い行列ができていたし、LA Weeklyというフリーペーパーにも大きく掲載されていました。
香港、中国、台湾、韓国映画は90年代後半〜2000年代前半にかけて世界的なブームが起こり、その土壌が今でも続いているのだと思います。当時、面白い作品がたくさん生まれ、今に続く才能が発掘され、映画祭の後押し、業界の後押し、メディアの後押しもあって、ブームになったのかと思います。
その後も東京国際映画祭、東京フィルメックス、大阪アジアン映画祭、福岡アジアフォーカス等で素晴らしいアジア映画が国内で紹介され続け、国際交流基金もアジア映画上映に力を入れています。しかしファンにはたまらないイベントなのですが、東南アジア映画はなかなか映画祭や特集上映の枠を超える事はありません。私が東南アジア映画について興味を持ち出したのも、5年ほど前に大阪アジアン映画祭でボランティアスタッフとして参加したのがきっかけで、それまで恥ずかしながら映画祭の存在すら知りませんでした(笑)
ウォン・カーワイという名前を田舎の高校生まで知っているという、そういったブームを作り出した当時の配給会社の人たちはすごかったのだと思います。そしてその時代に活躍した配給会社の人たちが今でも日本の映画業界を引っ張っています。
もしかしたら、今、若い世代が新しい配給会社を立ち上げ、新しいブームを作るべきなのかも知れません。しかし時代の流れなのか、若い業界人はほとんどサラリーマンで、自分で何かを始める人はほんの一握りです。
私がそこまでアジア映画に詳しくなかった頃、香港、中国、台湾、韓国以外で聞いたことがあるのはタイ映画でした。アピチャッポン監督という名前はなぜかよく聞きました。これはアピチャッポン作品を配給して名前を広めたMOVIOLAという配給会社の功績ではないかと思います。
ここで、どれだけフィリピン映画がすごいのか、過去10年間のカンヌ、ヴェネツィア、ベルリンでの出品歴をまとめてみました。
カンヌ映画祭
2019年
監督週間 Lav Diaz監督 The Halt
2016年
コンペ Brillante Mendoza監督 Ma' Rosa
「ローサは密告された」としてビターズ・エンドが国内配給
2015年
ある視点 Brillante Mendoza監督 Trap
2013年
ある視点 Adolfo Alix, Jr.監督 Death March
ある視点 Lav Diaz監督 Nortre, the End of History
監督週間 Erik Matti監督 On the Job
2011年
監督週間 Auraeus Solito監督 Palawan Fate
ヴェネツィア映画祭
2019年
オリゾンティ Raymund Ribay Gutierrez監督 Verdict
2016年
コンペ Lav Diaz監督 The Woman Who Left 金獅子賞
「立ち去った女」としてマジックアワーが国内配給
2012年
コンペ Brillante Mendoza監督 Thy Womb
ベルリン映画祭
2018年
コンペ Lav Diaz監督 Season of the Devil
2016年
コンペ Lav Diaz監督 A Lullaby to the Sorrowful Mystery
2014年
パノラマ Eduardo Roy Jr.監督 Quick Change
パノラマ Joselito Altarejos監督 Unfriend
2012年
コンペ Brillante Mendoza監督 Captive
2011年
フォーラム Sheron Dayoc監督 Ways of the Sea
きちんと数えていませんが、数にするとアジアでは中国、日本、韓国に次ぐ出品数ではないでしょうか。にも関わらず、日本で劇場公開されたのは「ローサは密告された」と「立ち去った女」だけのようです。Lav Diaz監督作品は長いという問題もあるのだと思いますが…
日本の配給会社がまだあまり手をつけていないこのフィリピン映画を、若い人が率いる配給会社に手がけてもらってフィリピン映画ブームを作ってもらいたいものです。国際交流基金の助成金も狙えると思うので、始めるには今がチャンスです。フィリピンだけでなく、その他東南アジアも含めてもいいと思います。
そう思えば、なぜ日本には若い人が社長の配給会社が少ないのでしょうか。配給会社の社員としては若い人も多いのですが、独立して自分で始める人が少ないのは不思議です。海外の映画祭に行くと、配給会社の責任者も若い人が多いのですが、日本人であまり若い人は見かけません。
プロデューサーもそうです。東南アジアでは20代のプロデューサーが当たり前ですが、私は40歳で日本では若いと言われます。日本には若い監督はたくさんいるのに、若い配給責任者とプロデューサーがいないのは新しいブームを作り出せない一つの理由かも知れません。
配給もプロデュースも誰かの下で働くと怒られてばっかりで辛いですが、自分でリスク背負ってやるとめちゃくちゃ楽しいので、もっと若い人に挑戦してもらいたいものです。勢いのある国では、若いお客さんに対して、若い配給会社が作品を選び、若いプロデューサーが作品を作っています。
このコロナを機に、新しいブームが来るといいなと思っています。
さて残り3日間、目標達成へ向けて頑張って参りますので、皆様も引き続きご家族、お友達、ご同僚、お知り合いにお勧め頂いたり、SNSでシェアして頂けると幸いです。
harakiri films
今井太郎