コロナ後の映画撮影スタッフはどうなるのか
vol. 10 2020-05-21 0
こんにちは。「Purple Sun」共同プロデューサーの今井太郎です。
クラウドファンディング、今日含めて残り5日となりましたが、おかげさまで46名の方々から合計324,000円のご支援を頂いております。目標達成に向けて引き続きご協力よろしくお願いします。
同じ映画関係のクラウドファンディングでは映画館支援のミニシアター・エイドが3億円を突破し、ロビー活動のSave the Cinemaは8万筆の署名を超えました。今度は配給会社を支援するHelp! The 配給会社プロジェクトも始まっています。私もミニシアター・エイドに作品提供及び応援させて頂き、Save the Cinemaにも署名させて頂き、Help! The 配給会社プロジェクトの見放題パックも購入しました。全て素晴らしい取り組みだと思っています。
一方、劇場経営の事に無知な私がこういう事を書くのもどうかと思いますが、ミニシアターが生き残るかどうかは経営者の意思次第だと思っています。しっかりとした事業計画書を提出すれば政策金融公庫や銀行は実質無利子でお金を貸してくれますし、200万円の持続化給付金もありますし、更に素晴らしい結果を出したクラウドファンディングもあります。
赤字経営の私の個人企業でさえ、政策金融公庫から1千万円借りる事が出来たので、ミニシアターだと数千万円借りる事は可能だと思います。Twitter等でこういった支援はクラウドファンディングではなく、国がすべきだという意見をよく見ますが、政府の支援はスピード感は遅いものの、思ったよりも充実した支援策が出てきていると思います。
クールジャパン戦略を批判している人々も多いですが、クールジャパン戦略に劇場や配給会社や製作会社も応募できます。実際に私の個人企業でも入念に応募用紙を作り上げて応募すれば通るので、そこは経営努力だと思います。ぜひ以下のリンクをご参照ください。
https://www.cao.go.jp/cool_japan/corona/corona.htm...
クールジャパンと言うと芸術とは関係ないように聞こえますが、それは応募用紙の書き方次第です。しっかりと応募要項を読んで、入念に応募すれば通る確率は上がります。こういった芸術への大きな支援があるにも関わらず、調べもせずに欧米と比べて日本は芸術への支援がないと批判するのは違和感があります。
補助金等は複雑で使いにくいのは事実ですが、それを取りに行くのが経営者の仕事だと思います。大きな問題点は、芸術に対する大きな補助金があるにも関わらず、アーティストがその存在を知らず、又は知っていてもそれを否定し、知っている人だけに補助金が消費されてしまう事です。Twitterで議論されている論点と、現実はかけ離れていると感じます。
そこまでして劇場を続けたいかどうかは経営者次第だと思います。大きな借金を背負ってでも劇場を続けたい人もいれば、やめた方が楽だと言う経営者もいると思います。我々外部の一映画ファンはミニシアターには続けて欲しいものですが、その気持ちは経営者にしか分からないと思います。私も経営者として多額の借金を背負っていますが、精神的にかなり辛いです。それでも続ける意義があるかどうかです。
無能な政府を批判したくなる気持ちはよく分かりますが、実は我々中小企業にとってはほぼ無制限の政府の支援があるので、続けるかどうかは経営者の思い次第です。仮に倒産や廃業したとしてもミニシアターを買い取りたいと言う資産家はたくさんいると思います。ミニシアターファンはそもそも私のように映画は劇場で観たいと言う人々で、コロナごときで消え去る存在ではないはずです。もともと規模の小さいミニシアターはファンに支えられて生き残ると思います。
一方、多くのスクリーンを保有する大手のシネコンはどうでしょうか。莫大な家賃と人件費を賄えるのでしょうか。東宝は数百億円のキャッシュを持っているそうですが、あれだけのスクリーン数を持っていれば数百億円はすぐになくならないでしょうか。東宝と言えば、映画だけでなく宝塚歌劇、阪急電車、阪神電車、阪急百貨店、阪神百貨店をグループ企業に持つ日本有数の超優良企業だと思いますが、全てがコロナの大打撃を受けていると思います。TOHOシネマズやイオンシネマは持ちこたえたとしても、その他の大手シネコンはどうでしょうか?かなり壊滅的な状況が待っているかもしれません。
配給会社も同じ状況だと思います。Help! The 配給会社に参加している配給会社は生き残ると思います。それは経営努力であり、生き残ろうと言う意思が感じられるからです。そしてファンに素晴らしい作品を提供してくれています。しかし、大手の配給会社はどうでしょうか?生き残ろうと思っても、規模が大きければ大きいほど打つ手がないと思います。私が大手のシネコンや配給会社の社員だったらどんだけ頭をひねっても、規模を縮小する以外上司に提出できるいい案は思い浮かばないかも知れません。今後数年はスクリーン数を減らそう、配給本数を減らそう、製作本数を減らそうとならざるを得ないと思います。
そして次に心配なのは製作会社です。撮影ができない今、作ってなんぼの製作会社は苦しいと思います。社員が多ければ多いほど苦しいでしょう。撮影中断中の作品や、撮影開始間際で延期になった作品を抱える製作会社はキャッシュフローに行き詰って倒産する恐れがあります。撮影再開してもコロナ対策で予算が倍増する可能性があります。その予算は誰が負担するのでしょうか。
大手シネコンに観客が戻ってくるのには今後数年はかかると予想され、そうなると東宝ですら製作本数は減らさざるを得ないと思います。唯一成長の望みがあるのはネット配信でしょうか。NetflixやAmazonはコンテンツがまだまだ足りないと言われていて、世界ではまだまだ新たな配信プラットフォームが誕生しています。東宝がNetflix向けの作品を今まで以上に作ったり、Netflixに対抗できるような配信プラットフォームを始めるのも戦略かも知れません。TOHOシネマズとバッティングしてしまいますが、Amazonが世界最大のシネコンAMCを買収すると言われている世の中なので、シネコンと配信は共存できるのではないでしょうか。
何れにせよ大きな戦略変更には数年はかかるので、今後数年の映画の制作本数は激減すると予想されます。そうなると、困るのは現場の撮影スタッフです。
私が危惧するのは、誰も現場のスタッフの事について議論していない事です。撮影再開に向けて新しいガイドライン設定等については議論されているのですが、そもそも今までのように仕事が戻ってくるのでしょうか?
飲食業であれば、コロナが終息すれば人が戻ってくる事は想像できます。廃業するレストランも多くあると思いますが、すぐに同じ場所で新しい店がオープンするでしょう。しかし映画製作はそうはいかないと思います。去年までの水準に戻るには数年はかかると思いますし、もう戻らないかも知れません。
映画のスタッフは何年もかけて経験を積む職人系の仕事です。そのスタッフの仕事が半減すると、職を失ったスタッフの行き場はどうなるのでしょうか。コロナが終息すれば自粛も終わり仕事が戻ってくると期待しているかも知れませんが、全員には仕事は戻ってこないと思います。
それを考えるのは弱小プロデューサーの私ではなく、業界団体であったり、大手の製作会社だと思うのですが、ミニシアター救済の話題ばかりでスタッフの救済については全く聞きません。日本の映画産業は世界でもトップクラスの製作本数を誇るので、映画のスタッフもかなりの人数がいます。今の現実の問題は、実際に映画を作るスタッフの今後の仕事にあると思うのですが、誰もそこに目を向けません。大手の社員であれ、ミニシアターの社員であれ、フリーランスのスタッフであれ、みんな同じ人間です。しかし、映画業界全体で考えたインパクトでは、取って代わることのできない撮影スタッフへのダメージが一番大きいのではないでしょうか。
映画館はお客さんに近いので、クラウドファンディングでイメージをしやすいと思うのですが、一人一人がフリーランスである撮影スタッフは一人一人がクラウドファンディングを実施するわけにはいかず、厳しい現実が待ち受けています。
個人事業主のスタッフであれば100万円の持続化給付金でしばらくはしのげると思いますが、それでも一時しのぎにしかなりません。個人事業主でないスタッフだと受けられる支援も限られてきます。フリーランスは失業保険も受けることはできません。
フリーランスの方々は今後仕事が戻ってくるのを待つのではなく、自ら仕事を作り出したり、今までのスキルを生かして違う業界でも仕事ができるよう、今まで以上に積極的な行動が求められると思います。
そんな中でプロデューサーとして出来ることは、予算の大きい作品を少しでも多く制作できるよう企画開発と資金集めを頑張る事くらいです。それでも業界全体の中では微々たるインパクトにしかなりません。
ですので、クールジャパン戦略のように大手を支援すると言う戦略は正しいと思います。大手が積極的に大きな予算の作品を作っていける政策を取らないと、フリーランスのスタッフ救済は困難です。大手が今まで以上の大きな予算で、コロナ対策ガイドラインに沿って、いい作品を作っていけば、スタッフの仕事も早く戻ってくると思います。
「Purple Sun」はたくさんの撮影が中止になっている中で、ごく一部の小さな規模のダメージでしかありません。しかし、こうやって一つ一つの作品のプロデューサーが少しの金額でもいいのでとクラウドファンディングをやらないと、今すぐにはスタッフが支援を受けることはなかなか難しいと思います。
皆さんが映画館で映画を楽しめるのも、現場のスタッフがいるからです。普段から過酷な状況の中で、作品と信頼関係の為に頑張ってくれているのが映画のスタッフです。現場に出てこそお金がもらえるスタッフは簡単にテレワークというわけにはいきません。映画が好きで仕事をしているスタッフは簡単に他の業界に転職したくないでしょう。
フリーランスのスタッフは劇場や配給会社や製作会社等の団体に所属していないので、作品毎にクラウドファンディングするしかスタッフを支援する事は難しいと思っています。それでもスタッフからすれば微々たる金額にしかならないのですが、こうやって一つ一つの作品がクラウドファンディングをすることによって、少しでもスタッフの支援につながるいい成功事例になればと思っております。
さて残り5日間、目標達成へ向けて頑張って参りますので、皆様も引き続きご家族、お友達、ご同僚、お知り合いにお勧め頂いたり、SNSでシェアして頂けると幸いです。
harakiri films
今井太郎