イラストレーター/コミック作家のカナイフユキさんからコメントをいただきました!
vol. 3 2022-02-20 0
イラストレーター/コミック作家のカナイフユキさんから私たちの翻訳出版プロジェクトに対しコメントをいただきました。カナイさんは2017年にグラフィックデザイナーの大澤悠大さんとともに、オードリ・ロードの「Your slilence will not protect you.」という言葉を引用した作品やグッズを制作し話題を呼びました。そのときの経験を踏まえた力強いコメントをいただいています。
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私たちは、自分の意見を持つことよりも、周囲の意見に同調することが良いことだと教えられてきたのではないか。人付き合いにおいて軋轢を生まず、衝突を避けることこそが美徳だと教えられてきたのではないか。自分の意見を押し込めるのは良いことだと教えこまれてきたのではないか。人生のあらゆる局面で、自分の存在や声が無いものにされていると感じるのに何もできず、悔しい想いを重ね、私はそんなふうに考えるようになりました。
「Your silence will not protect you.」というオードリ・ロードの言葉に惹かれたのも、そんな背景があったからです。私は2017年に、この「Your silence will not protect you.」を引用したステッカーやポスターをグラフィックデザイナーの大澤悠大さんと制作したことがありました。当時はロードの存在も知らず、Instagramで見つけたこの言葉にただ感動し、自分のイラスト展の来場者に配布するグッズとして、この言葉をプリントした缶バッジを作りました。それを見た大澤さんがより洗練されたデザインのグッズを作ってくれ、ポスターをメインにした2人展を開催することになったのです。
「Your silence will not protect you.」(東京・高円寺のFAITHでの展示風景、2017年3月)
当時、路上でのデモ活動等が自分と同年代の人々の間でも活発になり、身近なものとして感じられ始めた状況があったため、<声をあげる人を勇気づける>ような意味で、この言葉は広く受け入れられるのではないかという考えがありました。そして実際に、想像を上回る大きな反響がありました。
しかし、抜粋であるこの言葉が一人歩きするのは良いことなのだろうかという迷いもありました。今回の翻訳出版プロジェクトが実現すれば、日本語で原典を読むことができ、多くの人にロードの真意が伝わるのではないかと期待しています。
また、「声をあげられない状況にいる人はどうすればいいと思う?」と尋ねられ、言葉に詰まったこともありました。この問いに関しても、答えが出るかは分かりませんが、今回翻訳出版される本からヒントが得られるのではないかと思います。自分と異なる環境・階級・属性の人々の存在を知り、共存するための思考や実践をひときわ重視してきた(せざるを得なかった)ブラック・フェミニストたちの言葉の中に、いま私たちの学ぶべきことがたくさんあるのではないでしょうか。
私自身、いくつかの社会運動に関与して失敗も経験し、実感しているのは、一言で正解を出せる言葉はなく、力強いスローガンだけでは表現できないことがあるということです。詩人であったロードの言葉から、言葉を尽くしても掬いきれない何かをどう扱えば良いのか、学べるのではないかと期待しています。クラウドファンディングの成功を心から祈っています。
カナイフユキ