Earth Oven-アースオーブン-制作秘話
vol. 21 2015-04-20 0
「家」完成セレモニーで展示した「ノコ・デザイン」。
「家」は住。では、食は?
その一角を担うのが「アースオーブン」だった。
その指揮をとったのは、安曇野のシャロムコミュニティ・臼井健二さん。
現地に入ってから何が出来るかを考えます、と日本でのミーティングで話していた臼井さん。現地入りして3日目に、「アースオーブンは、こうやって作るんだよ」と、夕飯を食べ終わった後の土間で空間デザイナーの酒匂さん、チーフディレクターのおおくにと話を始めていた。アースオーブンは、臼井さんたちが運営する安曇野のシャロムヒュッテ、シャンティクティにもあって、美味しいごはん作りに欠かせない。
いつものWall Art Festivalの時もそうだけれど、私たちWall Art Projectは、毎日のごはんをとても大切にしている。ご飯をきちんと食べて、精一杯の力を出す。いいものを作る。シンプルだけど、確実な方程式。
その場で現地で手に入る材料は何か、ラジェーシュさんを交え話合い。構想が固まった。翌日、材料を調達しに行くことに。いきなりすごい早さで動き出した。思い立ったらすぐに行動することが出来る。それが自分たちで何かを作る時の醍醐味かもしれない。ダハヌの町で材料を調達。首尾よくジュート製のジャガイモと玉ねぎを入れる袋、岩板、オーブンの型用竹カゴ、煙突用空き油缶などを手に入れることが出来た。それから数日間、アースオーブン作りは、家作りと並行して一つのプロジェクトとして進んでいった。
土運び、チョップナーなどハードワークな家作りに疲れたら、ゆっくりコツコツ進んでいくアースオーブン作りに参加する、という息の合ったパートナーのような関係。
まずは、基礎を作る。土台の土台だ。岩を並べ、土を入れ、砂利を敷き、水をまいて、チョップナーでたたく。「家」の土間本番へ向けて小さな予行演習。大工チームのアシスタントのシータさんとジプリーさんに習いながら見様見真似でやってみる。飛び散る土で全身泥んこになる。チョップナーでたたいた土台の上に、ジュート袋に土を入れ、四角くととのえた“アースバッグ”を積んでいく。焼きレンガのような固形ではないので、必要に応じて形を調整しながら使えるのが便利。
アースオーブンは文字通り、土と砂と藁からできている。その3つをうまい具合に水で混ぜ合わせ、レンガ状にしていく。それをこねて、成形しながらオーブンとして形作る。藁は、納豆を作る時と同じ原理で、発酵すると粘性が出て、粘土が乾燥した時のつなぎとしての役割を果たす。アースバッグの土台の上に石板を敷く。水平は、ペットボトルの水で確認。竹かごをオーブンのドーム型として、濡れ新聞紙をかけ、3つの素材でできたブロックで第一層を作り出す。
粘土作り。
淡々と、オーブンを形にしていく臼井健二さん。数多くのアースオーブンを作ってきた経験に裏打ちされた安定感。
アースオーブンに並んで、オンドル式2連かまども作られた。空気の抜け道を計算して作られたかまどは、少ない木で高火力を実現する。臼井朋子さんと代表のおおくに。技が光る。
4日後、アースオーブンは形になり、ピザを試し焼き。おいしい!!
そして、来るチューズデーマーケットに出品するクッキーも続けて焼かれた。のりちゃんの大活躍。(チューズデーマーケットについては、別記事にて)
しかし、アースオーブンは一旦完成したものの、火を入れることでひびが入ってしまい、第2層を作ることに。造形をどうするのか。ここで白羽の矢が立ったのは、美大で彫刻を学ぶ平山くん。彼は現地入りしたその時から、粘土をいじり、小さな生き物の像をコツコツと作り続けていた。
現地の土と親しくなった彼に、皆で作ったオーブンの形を任せよう、とミーティングで決定。平山くんはデザインを考え、モデルをつくり、満を持して制作へ。しかし、どうしてもひびが入ってしまい、砂や牛ふんを混ぜるなど工夫しても、思ったように形になっていかなかった。粘土そのものの質を上げることが必要、と気付いた平山くんは、素材の土をふるいにかけて、出来るだけきめ細やかな粒子になるように、サポートする他のメンバーと改善していった。うまくいかなかったら、じゃぁ、どうすればいいのか。試行錯誤が次への一歩を生み出す。
乗って来た平山くん。徐々に造形が進んでいく。
オープニングセレモニーの前日、ついに完成!早速翌日の試食や下ごしらえが進む。
平山くんはピザも焼ける。
写真で火が噴出しているところにやかんを載せればお湯が沸き、鉄板を置けばチャパティというパンが焼ける。さらに、溜めた雨水が煙突部分にとおっているパイプを通り、お湯となってお皿洗いやシャワーにも使えるという、多機能ぶり。これが臼井式アースオーブン。
この屋根を作るのも、一大プロジェクトになっていた。建築家の石井瑞穂さんを中心に、みんなで組み上げた。最後の方は、夕方暗くなっても、「あと15分だけ!」と熱が生まれていた。
アースオーブンを見た学校の先生が、「うちの学校でも作ってもらえないだろうか。給食をつくるためには、多くの薪が必要なのだが、アースオーブンが木の消費量を減らせるというのは素晴らしいアイディア。材料も身近にあるものばかりだから、子どもたちも自分の家で作れるでしょう。他の学校にも広めたいです」と申し出てくれた。「火のあるところに、人が集まってくるんだよ」と臼井さんは言う。このアースオーブンがあるかぎり、ノコプロジェクトはいつも賑やかなものであるだろう。
text by okazu
photo by akko