循環を再生する-モバイル・コンポスト・トイレ-
vol. 22 2015-04-25 0
ノコデザインの中で表現したのは、食と農だけではない。
人は動物なので、食べたら、排泄する。「トイレ」は、ノコプロジェクトで家を作ることを考え出した当初から、ミーティングの度に話題になっていた。「またいつの間にかトイレの話になってるね」と何度笑いが生まれたことか。「暮らし」を考えるうえで、絶対に切っても切り離せない、トイレ。
インドの田舎で、朝、外でよっこらしょっと腰を下ろしている人をみかけたら、90%以上の確率で、トイレ中。蝶々のように、いきなり遭遇する。屋外で、囲いも何もない中で、よっこらしょっと、やることは気持ちのいいことだ、と聞いたことがある。水は、川から汲んだり、家から持ってきて、お尻を洗う。
でも、日本人の私たちにとってオープンアウトドアトイレは壁が高すぎてなかなか乗り越えならない。インドを旅する中で、トイレを探す力、あるいはタイミングをとらえてトイレにいく直観は必要不可欠といっても過言ではない気がする。最近は公衆トイレも増えてきたけれど、まだまだ数は少ない。
インド全体のトイレ事情について書き出すときりがないので、このへんにして、ワルリ族の人々はどうしているのだろうか、ということに話を進めよう。ワルリ族の村でもトイレが普及してきた。個人の家にあるのは、まだ少なく、レンガで作られた共用トイレスペースが村に点在している。地中に、2層から3層式のタンクが作られていて、排泄物はそこに溜まっていく。とある家では、一年に一回、タンクに水を流して、たまり、土の様になった排泄物を田畑に流す清掃をする。一方、そのままにしておく仕組みになっているものもある。
僕たちは、「ノコなトイレ」はどんな風であるべきなんだろうか、と答えを探しあぐねていた。なので、現地で臼井さんが、「モバイル・コンポスト・トイレも作れそうだよ」と話してくれた時のテンションのあがりっぷりは、言葉では表せない。長いトンネルに、一筋の光が差しました。
現地にあるものを使う。
現地の人たちが自分たちでも新しく作れること。
メンテナンスができること。
それが大事。
加えて、使いたくなる、美しくあること。
チャロティという村から15km離れた町で、モバイル・コンポスト・トイレの要になるタンク、そして、ダハヌの町で便座を入手できたことは僥倖でした。機能的に優れていても、見た目がちょっと…では、使いたくなる気持ちも減ってしまう。
この記事の一番上の図が、モバイル・コンポスト・トイレの仕組み。
モバイル・コンポスト・トイレのポイントは、いくつかあります。
一つは、小便と、大便が入る場所が分けられている点。
大便は、乾燥してしまえば匂いがなくなります。しかし、トイレ内で、小便と大便が混ざると、腐敗が始まり、悪臭の原因となります。モバイル・コンポスト・トイレの大タンクの中には、乾燥した土と、葉っぱが予め入っていて、大便はそのまま大タンク内へ。小便は、小便受けから別の小タンクへと流れ込むように作られています。
この小便受けを取り付けるのが、最も臼井さんが苦戦していた部分でした。
大タンクは、回転させることでフタの開け閉めが出来るようになっており、トイレをする前に半回転(閉まっている状態から、開いている状態へ)、した後に半回転(開いている状態から、閉まっている状態へ)します。
中身がたまってきたら、大タンクは、木の枠から引っ張り出し、堆肥置場へ。ふたを外して中身を堆肥置場にだして、また乾燥した土をいれます。枠に戻してまた利用。
小タンクにたまった小便は、水で3倍ほどに薄めることで、そのまま畑にまけます。もともと、小便は消毒されていて、窒素分も豊富に含まれています。
モバイルであることが、このトイレの大きな利点です。どこにでも設置が可能で、現地の素材で作ることが出来ます。
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という説明を、ノコデザインの展示の時に、100人のインド人、日本人に向けて行った。その前に、学校の子どもたちが見学に来た時にも、伝えたから、口頭で200人位には伝わったことになる。テレビでも取り上げられ、紹介されたそうだ。
当日、実際に使えるようにセットアップ。トイレのすぐ隣に洗うところ。テラコッタのツボと緑で飾り付け。
使えますよ~のポスター。瑞穂さん作。
制作中、地元の人が様子を見に来た。コンポスト・トイレなのだ、ということを話すと、「あぁ、コンポストね。おれが子供の頃にもあったよ。最もシステムは全然違っているがね。仕組みが悪くて、広がっていかなかったんだ。でも、この仕組みならば、上手くいくだろう。自分でも作ってみようかな」と、意外な事実を教えてくれた。
今回「家」を建てた大工の棟梁のピタージー曰はく、
「政府から補助で、肥料がもらえるんだが。それを使うと、土地が次もその肥料を欲しがるんだ。そして、作物の味が、落ちる。牛ふんと、人ふんを使った肥料が一番いいんだ」。ピタージー、御年70歳、長年自然と付き合ってきた彼のセンスは、ちょっとやそっとじゃごまかせるようなものではなかったらしい。
すでに、循環の土台はあったのだ。でも、その仕組みはグローバリゼーションの足音とともに、森の奥に眠る遺跡の様に、人々の記憶から薄れて行ってしまおうとしていた。モバイル・コンポスト・トイレは、循環を再生する役割を果たす。今回作ったのは、限られた時間の中で、最大限できるものだった。すでにokazu塾のメンバーは、この土地にさらにマッチするように改善ポイントを見つけ出している。
外でするトイレはやはり気持ちがいい、ということも分かった。
(これは試しに座っているところ)
illustration by Katsuyuki Sakoh
photo by Naoko Watanabe
text and photo by okazu