「ひとりじゃないんだって、わかった(ハウジングファースト)」-森川すいめい医師
vol. 4 2017-09-26 0
©MdM Japan
こんばんは。ハウジングファースト東京プロジェクトです。
プロジェクト代表医師・森川すいめいが「ハウジングファースト」への想いをつづります。
住まいを失った(「ホームレス」)状態にある人たちは、日本でも30万人以上いると推計されます。
その多くの人たちは劣悪な環境で過ごし、かなり多くの人たちは先の見えない中で暮らしています。その背景には、失業だけでなく、虐待、いじめ、DV等の暴力から精神を病む人たちも少なくないことがわかっています。アルコール問題や薬物問題から抜けられなくなってしまっている人たちもいます。
障害をもつ方の生活を支えるための地域支援資源の不足や家族への支援が極端に少ない等の理由で長期に精神病院に暮らすことを強いられている人も20万人近くいるとされています。
世界中で同じような問題は起り続けており、各国でその対策が行われてきましたがこれまでは十分な成果が得られていませんでした。
こうしたなかで、1980年代から米国ではじまった「ハウジングファースト(Housing First;以下HF)」の試みが注目されています。
支援の対象者を、既存の支援ではホームレス状態から脱することができていていなかった長期にホームレス状態にある精神の病とともに生きる人たちとし、彼ら彼女らの支援を開始したのです。
考え方の基礎には、一人一人を、一個の特別な人間として尊重し、一人一人のニーズを丁寧に聴き取りながら、そのニーズに沿った支援を、ゆっくりと、本人たちのペースを大切にしながら行うというものがあります。
既存の支援は、本人たちの声やニーズをほとんど聴くことなく、支援側の考えで支援が組み立てられている部分が多いのではないでしょうか。
この結果、これまでホームレス状態から脱することができなかった人たちのうち90%の人たちが、1年以上アパート生活を維持することができるようになりました。しかもこの成果は、フランスでもベルギーでも、フィンランドでもカナダでも、そして小さく始めた私たちのチーム内の支援でも同様でした。
今回の国際シンポジウムでは、フランスから、HFに関しての国をあげて行われた調査結果の報告と、ベルギーから、路上に暮らす人々への支援についての報告をしてもらうことで、日本で、またそれぞれの現場で、どのように応用していけるかを一緒に考える時間を作っていきたいと思います。
冒頭のタイトルは、日本でHF型の支援を受け、20年近くホームレス状態にあった、ある若い人のことばでした。ここにHF型支援の本質があると思っています。
「ひとりじゃないんだなってわかった」
当日、皆様にお会いできることを楽しみにしております。
森川すいめい
森川 すいめい 氏
ハウジングファースト東京プロジェクト代表医師
精神科医・鍼灸師・みどりの杜クリニック院長
©MdM Japan
1973年、池袋生まれ。老年期の内科・精神科の往診や外来診療を行う。2003年にホームレス状態にあるひとを支援する団体「TENOHASI(てのはし)」を立ち上げ、現在は理事として東京・池袋で炊出しや医療相談なども行っている。2009年、認定NPO法人「世界の医療団」ハウジングファースト東京プロジェクト代表医師、2013年同法人理事に就任。東日本大震災支援活動を継続。
一般社団法人つくろい東京ファンド理事。NPO法人認知症サポートセンター・ねりま副理事。NPO法人メンタルケア協議会理事。オープンダイアローグネットワークジャパン運営委員。著書に、障がいをもつホームレス者の現実について書いた『漂流老人ホームレス社会』(朝日文庫、2015)、自殺希少地域での旅のできごとを記録した『その島のひとたちは、ひとの話をきかない』(青土社、2016)がある。