冬至に寄せて〜津川エリコのダブリン便り02
vol. 5 2023-12-21 0
津川さんからまたまた原稿が届きました。
みなさまとシェアさせていただきます。
「冬至に寄せて」津川エリコ
アイルランドには冬至の日に開口部から朝日が入りこむ世界最古の建造物、ニューグレンジがあります。ギザのピラミッドより500年、ストーンヘンジより1000年古い3200BCに建造され、通路のある古墳ということで、英語ではpassage graveと呼ばれています。
入り口の上部にルーフボックスと呼ばれる長方形の窓があり、そこから日が入り、19mの狭い通路を通って十字の形に3つに分かれた小室に光が届きます。私は、ツアーガイドをしていたことがあるので、この通路を何度も通りました。身体を少し屈めて19m進んだ先は入口より2m高くなっていて、ルーフボックスと同じ高さになります。専属ガイドが電灯でシミュレーションをしてくれます。
3つの小部屋のある円形の部屋は6mx5m位の広さで、詰めれば30人ぐらいは入れるでしょう。平たい石を少しずつ前にずらせた「持ち送り積み」という建築技法が用いられ、最後に大きな石で丸天井の穴が塞がれています。5000年以上も防水なのです。
椀を伏せた形のニューグレンジを全体的に見ると、直径は85mもありますから、19mの通路と内部の小部屋を作るためにこれだけの大きさのものが必要だという建築上の計算がなされているわけです。石器時代の人の平均寿命は35歳ぐらいだったそうで、ニューグレンジを建造するために60年以上かかっているのは2世代にわたった大プロジェクトです。ケルト人がヨーロッパから渡ってくる以前のことです。
天文学的上の知識があったこと、強力な指導者がいたこと、このようなプロジェクトに従事するための余裕があった、つまり生活が安定していたことなどが、想像されます。ピラミッドは王のためのものですが、この古墳はどうだったのでしょう。内部から火葬になった骨が発見されています。内部で火を使った形跡はないので、外で火葬になり、内部に収められたようです。冬至の日の翌日から、また日が伸びていくわけですから、ニューグレンジを作った人たちは、冬の終わりに死者の甦りを託したかも知れません。或いは死者へ春の到来を託したでしょうか。春を待ち望むことと死者の蘇りを望むことは同じものです。内部には、17分間しか朝日はとどまりません。
冬至の日に中へ入るためには、その年の秋に行われるくじ引きに当たらなければなりません。私は、息子が小学校へ入ったばかりの頃、冬至の日に思いついてニューグレンジへ行ったことがあります。ダブリンから車で1時間とかかりません。古墳の入り口付近をうろついてみたかっただけなのです。ちょうど、くじに当たったグループが出て来るところでした。全く予期していませんでしたが、専属のガイドの人が、「中はまだ明るいです。入れてあげましょう」と言って、私たち家族と近くに居た人数名を中へ入れてくれました。機転のきくガイドさんに「ああ、ここはアイルランドだ」と思ったのを覚えています。
暖かい蜂蜜色の自然の光の中で、春待つ心を石器人たちと分け合った朝でした。