【街の先輩たち #03】スタディスト|岸野雄一さん
vol. 3 2023-06-22 0
「おでんディスコ」の生みの親・岸野雄一さんに聞く、街と人と店の公共
1000RENから歩いて3分ほどの場所にある、私たちの最初のお店「Sandwich and Oden 三/十」では、昨年から定期的に「おでんディスコ」というDJイベントを開催してきました。
「音、出汁、沁みる」を合言葉に、老若男女がおでんとお酒を楽しみながら音楽に酔いしれる、開かれた場。
これをプロデュースしてくださったのが、日本各地で音楽で街と人とをつなぐ活動をしてきた岸野雄一さんです。
生まれも育ちも墨田区の岸野さんは、音楽業界のレジェンド。しかし、街と人々との営みを豊かに変化させるためには快く一肌脱いでくれる、自称「お節介」な下町のアニキ的存在です。
そんな岸野さんが考える「公共」について、改めて伺いました。
岸野雄一さん
ー 岸野さんと初めてお会いしたのは、一昨年の京島の空き地でしたね。「すみだ向島EXPO」の会期中に僕らは「不死鳥ディスコ」として音楽イベントを企画していて、たまたまその前日に同じ場所で岸野さんプレゼンツのDJイベントをしていたというご縁でした。
その後、ウチの忘年会に来てくださった時に、「三/十でおでんと音楽のイベントをやりたいんです」とご相談したのが「おでんディスコ」のはじまりで。
うんうん。特にディスコミュージックをかけるわけではないんだけど、「おでん」と「ディスコ」っていう言葉のアンバランスさがいいなと思って名付けました。
ここ(三/十の店舗)のいいところは、店構えのほとんどがガラス戸になっている所ですよね。そうすると外からも何をしてるか見えて、入りたいと思える。僕にとっても、地域に対して「開かれている」ってことが大事なんです。だから一緒にやりたいなと思って。
そうじゃないと、仲間内だけで盛り上がっている貸切パーティーみたいになっちゃう。音楽イベントはどうしてもそうなりやすいんだけど、地域の人たちが入りづらくなってしまうことは僕はしたくないんです。
不死鳥ディスコの様子
開かれた間口の三/十
ー 最近この辺りは僕らのように外から新しい人がやってきてお店を始めるケースも多いので、地域の人たちからすると「また若い人が来て何かしている」と遠くから見られがちですが、「おでんディスコ」にはそういう人たちも来てくれるんです。「近所に住んでいて、イベントが入りやすそうだったので来ました」って。
「イベントで入りやすそうだった」っていうのは嬉しいね。逆のことも普通だったら多いから。そうやってお客さんと会話ができているのもいいですよね。新しく地域にやってきて「お客さんとの付き合い方が難しい」って悩んでいるケースって、よく聞いてみるとそもそも店側がお客さんと積極的に関われていないことが多いんです。やっぱり、話さなきゃね。
おでんディスコの様子
ー そうですね。もともと僕らはここに来る前に六本木にオフィスがあって、しかも地上階ではなかったので、今みたいなある意味「生々しい」コミュニケーションってほとんどなくて。
特にこの辺では、防災的にも問題が多いのに路地が狭くて消防車が入って来られないから、自然と近所でのつながりが強くなっていったっていう背景はありますよね。
でも、そういうマイナス面だけじゃなくて、「気持ちが豊かだからご近所付き合いができる」というプラス面のポジティブな部分が動機になるのが理想。それを目指して活動しているところです。
ー なるほど。たしかにこの辺りはあいさつするのが当たり前のコミュニケーションじゃないですか。知らない人とも声をかけ合ったり。でもこれって東京では特に珍しいですよね。
僕も数年だけ渋谷から近い池尻の方に住んでいたことがあったんだけど、やっぱり下町のようにはいかなかったなぁ。でも、欧米なんかは都市部でも結構ご近所とフレンドリーなんですよね。例えばヨーロッパは個人主義が強いといわれているけれど、お隣さんの名前も知ってるしちゃんとあいさつもする。じゃあ個人主義ってなんなんだろうというと、「大丈夫?」と声をかけたときに「大丈夫です」と返ってきたら、放っておいてくれるところなんですよね。
でも、手を貸して欲しそうな人がいたら「大丈夫?どうしたの?」と声をかけるのって人間の基本じゃないですか。だから僕も、手を貸して欲しそうな人がいたら声をかけて「実は…」と話してくれたら「よっしゃ!」と、とことん付き合う。そんな感じですね。
でも、ここ数年で地域に対しての種まきは充分したから、あとはどんな風に育つか見守る側になろうかなとも思っていて。本業というかなんというか、先生の仕事もあるので論文を書いたりもしないとね(笑)。
ー そうでした(笑)。でもたしかに「おでんディスコ」以外にも銭湯や公園でDJイベントをしたりと、岸野さんは音楽と関係がなさそうに思える場所で化学反応を起こす活動をされてきましたよね。お客側として参加させてもらったときもすごく楽しかったです。
単純にDJとして呼ばれてハコで回すだけだったら、もう僕じゃなくていいと思うんです。それよりも「公共のためにそこで何かをやる意義」を大事にしたい。これまでそういうことに使われてこなかった場所で、「開く」ためにトライしたい人がいるんだったら、僕が力を貸す意味があると思っています。
ー 最後に岸野さんの目線で、新しくオープンしようとしている1000RENについてコメントなどいただけたら嬉しいです。
お店の場所が、くねくね道を曲がった先で目につくのがとてもいいよね。そこを行き来する人たちに対して、どう見せていくかをぜひ工夫してほしいです。三/十のように店内が見えるつくりとはまた違うみたいなので、地域に対してどう開いていくか、ですね!
岸野さんよりアドバイスをいただく
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岸野さん、ありがとうございました!
確かに1000RENの店舗は間口が街に開かれた様な建物ではないので、人が人を呼ぶ様な仕掛けや、フレンドリーなイベントなどを通して心理的なハードルを下げる工夫を考えていきたいと考えていきたいと思います。
1000RENの改装はほぼ終わりましたが、現在はプレオープンの準備の真っ最中です。少し遡りますが、有志メンバーで行った壁面塗装イベントの様子です。
左官&塗装を頑張った2日間
木工も少々