【街の先輩たち #02】元・銀寿司|長谷川正美さん
vol. 2 2023-05-10 0
かつて地元で愛されたお寿司屋さん。カウンター越しの笑顔をふたたび
かつて「京島で上質なお寿司といえば」と名が通っていた銀寿司さん。おしどり夫婦が営んできたそのお店は、ご主人が寿司職人を引退してから10年以上そのままになっていたそうです。
職住一体の下町文化のなごりで、現在も元・銀寿司(1000renになる場所)の2階にお住まいの長谷川ご夫妻。改装中も度々声をかけに来てくださり、1000renのオープンを心待ちにしていただいています。
そんな長谷川さんに、銀寿司が紡いできた歴史をお話ししてもらいました。
【お店を貸してくれた方】元・銀寿司 長谷川正美さん
元・銀寿司 長谷川正美さん
ー 銀寿司さんはいつごろまでここでやっていたんですか?
2011年の4月27日に辞めたんです。震災があって景気も良くなかったしね。お客さんが喜ぶ顔が励みで、それが宝だったから畳むのは辛かったですよ。
ウチは下町の寿司屋だけどいいネタを使って妥協せず仕事をしてたから、周りの人は「閉めるなんて何かよっぽどの不幸があったんじゃないか」って噂してたらしいの。
でも、実際は経営もなかなか大変だったんですよ。「こんな場所で特上寿司を出してるってことは余裕があるんだろう」と思われてはいたけど、いいネタを仕入れるためにはお金がかかるから、特上じゃなくて並や上がたくさん出た方が利益が出るんです。だから苦しかったけど、私の父が始めたお店なので、それをつぶしたくなくって。
たまたま主人とご縁があって、お婿さんに来てもらって。「こんな娘によくこんないい婿さんが来たな」なんて言われるくらい、お客さんにも気に入ってもらえていましたね。
主人はすごく温和な人なんだけど、頑固だって誤解する人もいたのは、妥協のない寿司屋をやっていたから。本当は私の方が頑固なんだけどね(笑)。
営業していた頃の写真
昔から、お得意さんには近所の町工場の社長たちも多くて、よくウチに自分のお客さんを連れてきてくださっていました。そうするとそのお客さんが「京島でこんな美味い寿司が食べられるの?」と驚いて気に入ってくれて。お店に連れてきた側のお得意さんも喜んでくれてましたね。
場所はね、もとは違う所にあったんですよ。ここの斜め前に大きいスーパーができたでしょ。前は家具屋さんで、その前は、端っこからこの辺りまで長屋だったんです。
その中には居酒屋さんやバーがあって、寿司屋の居抜きもあったから、父はそこで銀寿司を始めたんです。それで、この建物はもともと薬屋だったんですよ。ちょうど新しい物件を探していた頃にここが空いたから移ったのね。お得意さんに地元の大工さんがいたから、お願いして改装してもらったんです。
銀鮨さん外観
私は高校を卒業してすぐ店に入ったけど、当時は田舎から出てきて寿司屋の下積みをしている職人が10人くらいいましたね。「握るだけだったらすぐにできる」なんて主人は言うだろうけど、一人前になるまでには10年かかるって昔は言われていたんです。
最初は出前を持って行って下げて洗い物をして、それが終わったら先輩がやっている仕込みを見て盗む。あとはカウンターで、お客様と話をしながら美味しい寿司を握って食べてもらう。ここまでに10年はかかるんですってね。
ー 今回貸していただいた場所は2021年までずっと空いていたんですか?
そうですね。地元の不動産屋さんに募集を出してもらっていて、2組くらい応募が来たのかな? だけど家賃が合わないって。そのときはコロナが流行り出していたからね。10年もここが空いてたなんて、「そんな経ったかな」って思うけどね。
なかなか借り手が見つからないから、この一階をリフォームして主人と私が2階に上がらないで暮らせるようにするか、ワンフロアのマンションなんかに引っ越そうかと子どもたちと話してたんです。それで、売ろうかと思っていたら娘の夢に亡くなったおばあちゃんが出てきて「売るな」って止めたんですって(笑)。
確かに、マンションに入ったらその日から家賃を払わなきゃいけないもんね、なんて言っているうちに皆さんとのこういうご縁があって。
(左)中心に大きなカウンターとネタケース (右)壁に配されたお品書き
ー 血縁もない僕らがここをお借りしたいと話したり、製麺機を引き継いでお店を始めようとしていることに対して、正直どう感じますか?
嬉しいですよ。ここの一階部分を若い人が借りてくれて、意思を持ってやってくれるというのはね。このカウンターもね、邪魔だから壊すとなったら大変だから、これを活かせるならどんなお店でもいいなって思ってたんです。
逆に、寿司屋とはまるっきり違う商売だから、私たちは安心してるんですよ。だってほら、寿司屋で使う生ものって傷むのが早いでしょう? その大変さが分かるからこそね。
だから皆さんの持っているアイデアを積み重ねて、いろいろやってらっしゃったらいいんじゃないですか。楽しみです。
ウチに誰かお客さんが遊びに来たら、ここにお連れしてお茶飲んでご飯食べて、居間みたいな感じに使ったりなんかしたいですね。
長谷川さんよりアドバイスをいただく
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長谷川さん、励みになるお言葉をありがとうございました!
長谷川さんには改装の準備段階から度々現場をみにきてくださっており、応援の言葉をいただいていました。オープン後は真っ先に招待させていただき、私たちのつくるうどんを楽しんでもらえたらと考えています。
今回は最後に改装中の1000RENの様子を添えて終わりにします。最後まで読んでいただきありがとうございました!
改装中の店舗内の様子