【プロセスレポート3】どうつくる?あたらしい「劇場」への試行錯誤
vol. 7 2021-04-28 0
プロセスレポート第三回目は、トライアルに向けたアイディエーションの様子をお届けします。
レポート担当は、THEATRE for ALL事務局の山川陸です!
(オリジナル音響機材の実験風景です。ポール状の物体の改造方法を梅原くんと板坂さんがZoomで説明しています)
キックオフ以降も、ゲストクリエイターの板坂さん、梅原さん、渡辺さんの三名と、たんぽぽの家の佐藤さん、中島さん、大井さんで意見交換を続けながらアイディエーションを続けていきました。キックオフで話題にあがったアイディアを軸に、どのような機材のセッティングをするか、どんなもので空間をつくるか、具体的に詰めていきました。
作品との出会い、入口になる一手
まずひとつめのアイディアは、プロジェクターで映像を床に投影するアイディアです。
・下の方を向いているメンバーが複数名いて、壁に投影するより見やすいこと
・一階にいることの多い車いすのメンバーも、二階にいるメンバーも同時に見られること
から、複数人で集中”しないで”見られる環境がつくれそうです。
(アートセンターHANAの吹き抜けに面したコンクリートの壁があります。脚立に登ってプロジェクターを取り付ける位置を検討しています)
見慣れない作品に出会うきっかけづくりとして、通りがかりに見られることや無理なく目に入ることは大事と考えました。
今回のトライアルはお昼休みの90分を利用して毎日実施する想定でした。毎日映像が流れる中でだんだん見慣れてくることを重視して、繰り返し見ていられる、ある意味ではストーリーの起承転結が分かりづらい作品や、画の印象が強い作品を組み合わせることにしました。
現代演劇やコンテンポラリーダンスは「わかりづらい」と言われることもありますが、それゆえに最初から見ないといけない!というプレッシャーなく体験できるのではないか、と考えました。ここでの上映を目にしたメンバーやスタッフが、あとで全部観ようと思ってタブレットやパソコンに向かうかもしれません。
(床に投影された映像をまわりから見るアイディアの初期構想のスケッチ。テーブルに投影するアイディアも出ました)
アートセンターHANAに吹き抜けがあることから発送した床投影のアイディアでしたが、これはほかの場所でも試してみたいアイディアです。いろいろな場所でも試せるように、ちょっとした工夫から発想することを今回は大切にしています。
一人で観るけれど、独りにはならない
一方で、ひとりでスマートフォンやタブレットを操作してふだんから映像を見ているメンバーも多くいます。どのように見るか、と、何を見るか、はとても密接です。わたしたちも普段意識していないだけで、なんとなくしっくりくる組み合わせがあるはずです。
(個人ブースに必要な要素を洗い出すスケッチ。ポールが立っていて上からテントが吊るされています。このほかにもいくつかの金具のアイディアが出てきました)
そんな慣れ親しみを超えて、画面の向こうのあたらしい体験に引き込まれるために考えたのは、タブレットを見るための一人用ブース。半透明の吊り下げ式テントで、見ている様子が外からも見えるものです。街中や一軒家など、劇場ではない場所で演劇を上演したりしてきた渡辺さんが、ブースのつくり方をいくつも考えてくれました。
タブレットに組み合わせたのは一般的なヘッドフォンだけでなく、耳をふさがず音を届けるネックスピーカー、ネックスピーカーよりも首のホールドが強くより自由に動けるネックピロースピーカーの三種類です。
(テントを吊るす機構を実験しています。椅子に座って、正面に設置されたタブレットを見る高さなどチェックしています)
音を聴く機材はブースの外に持ち出して使うこともできます。装着している人以外には音があまり聞こえませんが、何かの世界に入り込んだ姿はほかの人とのコミュニケーションを生むかもしれません。
タブレットで映像を見ながら施設を歩いているメンバーは、映像を見ていると思いきや周りの人と話始めたり、画面だけに集中しているわけではなさそうです。メンバーのそんな姿は、なにかを視聴することと日常の繋がり方がさまざまなことに気づかせてくれました。
みんなで見る、一緒にいる
アートセンターHANAでは、演劇作品をつくったり、アーティストとのワークショップを行ったり、みんなで活動することが度々あります。メンバーひとりひとりの快適さや心地よさと一緒に何かをすることの両立は簡単ではありません。
それは鑑賞においても同じこと。広めの部屋で集まって椅子に座って静かに、というふるまいで生まれる体験が「劇場」のひとつの正解のようなものだとしたら、ほかにはどんな観方ができるのでしょう。
佐藤さんは自身が舞台に立つ役者さんでもあり、「劇場」でしかできない体験の良さもよく知っています。それではみんなとそれを共有するにはどうするか。一緒にいることの自由さと一体感を演出できるかがポイントになりそうです。
(ギャラリーの一角の写真です。天井が高く、外に面した大きいガラスから夕日が差し込んでいます)
アートセンターHANAの空間の特徴は、なんといってもそのゆったりとしたサイズ感です。吹き抜けがあったり、天井の高いギャラリー、外に面して大きく開いた窓。メンバーは土足で過ごしていて、建物の外と自由に出入りをしています。
一般的には「非日常」に思えるこの空間が、メンバーにとっては「日常」です。この空間の印象をひっくり返すことが面白いのでは、と中島さんからもコメントが出てきます。
そんななか、トライアル期間と同じくして、ギャラリーではアーティスト・寺岡波瑠さんの個展用に小屋が設置されるという話を教えてもらいました。大きなギャラリーにぎゅっと小ぶりな空間が生まれることを活かせないか?せっかくある小屋を利用して、使い方を考えてみることにしました。
(小屋での鑑賞方法を検討するスケッチ。小屋の中で見ている人と、外で寝そべって見ている人がいます)
困ったのはそのスピーカー、なかなかぴったりくるものが見つかりません。さあみんなで鑑賞するぞ、という雰囲気と、堅苦しくない印象を両立させたいときに、黒くてゴロッとしたスピーカーは合わないように思えたのです。
「劇場をつくるラボ」はさまざまな施設で一緒に試せることを目指すので、毎回特注のものを作るわけにはいきませんし、気軽に身近なものや簡単に手に入るもので挑戦できることもアクセシビリティです。
しかしこればかりは作るしかないということで、簡単に手に入るもので作ってみることに。板坂さんがスピーカーを組み込むために選んだのはストレッチポール!枕にしたり抱きかかえたり、色々な触れ方ができるちょうどいい大きさです。
(ストレッチポールを枕にして寝そべってみる梅原さん。マスタードカラーの鮮やかなポールが身体にしっくりきているようです)
梅原さんとスピーカーを選び、ポールを削ってスピーカーがはまるように改造していきます。振動性のスピーカーとストレッチポールの材質は相性抜群でした。こうして音に合わせて全体が振動する丸太スピーカーの試作品の製作が、トライアル直前まで続きました。
丸太スピーカーがどのような体験を生むのか観察することで、「劇場をつくるラボ」の思う「劇場」のつくり方が分かってくるかもしれません。
まずは試してもらうところから。わからないことも送ってみる
こうして、さまざまな状況を議論しながら考えたセットがアートセンターHANAへと送られていきました。ご紹介した以外にも、タブレットを首からさげるためのホルダーや、車いすに固定するためのアーム、クッションつきのタブレットカバー、レンタルしてみた特殊なスピーカーなど、色々なものを用意してみました。
(車いすと機材を組み合わせるスケッチ。タブレットの置き方や、複数台をつなぐスピーカーのアイディアなど書かれています)
これらは事前のディスカッションではどう使うか想像しきっていないものも含まれます。しかし「劇場をつくるラボ」は一度で答えの出ないプロジェクト、まず試してみて、そこから考えることが大切です。
HANAでの2週間のトライアルは、90分間のお昼休みを使って行われます。各所の様子を見るために、特別に小型のカメラを設置させてもらいました。このあと、日々共有される映像をもとに、交換日記のように質問と回答が繰り返されることに。スタッフの皆さんにとっても未知の状況、そこで何がおきて何が分かるのでしょう?
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(HANAの各所にスマートフォンと連携したモニタリング用の中継カメラを設置しました)
次回は、2週間のトライアル折り返しのHANAでの様子を、編集者の春口滉平さんのレポートでお届けします。
どうぞお楽しみに!