【プロセスレポート2】劇つくラボ、キックオフ!日常と劇場をむすぶには?
vol. 6 2021-04-20 3
プロセスレポート第二回目は、ゲストクリエイターを交えたキックオフミーティングの様子をお話します。レポート担当は、THEATRE for ALL事務局の山川陸です!
(オンラインミーティングの様子。Zoomで資料を共有しながら話しています)
三人のゲストクリエイター「劇場をつくるラボ」は視聴環境づくりのプロジェクトですが、そこには空間のこと、機材のこと、そしてそれらの演出のこと、さまざまな観点での思考が必要です。
今回、このプロジェクトを立ち上げるにあたって、THEATRE for ALLでは三人のゲストクリエイターに加わってもらいました。
(左から順に赤い服を着た板坂さん、白シャツに黒いニットの梅原さん、白黒写真で黒い服の渡辺さん)
建築家の板坂留五(いたさか・るい)さんは、ドローイングやコラージュを用いて設計を行っており、家具から都市空間まで横断的に思考しています。今回はオリジナル機材のアイディアから空間的な体験につながる提案をしています。
美術家 / 音楽家の梅原徹(うめはら・てつ)さんは、大学院まで建築を学ぶ一方で実験的な音楽作品を発表してきました。今回は視聴環境づくりを機材選定からそのセッティングまで、テクニカルな設計を主に担っています。
セノグラファー(舞台美術家)の渡辺瑞帆(わたなべ・みずほ)さんは、舞台の空間設計から芸術祭の会場構成、劇場外の舞台づくりと幅広い環境づくりをしています。今回は生活の場に劇場的な体験を生む空間演出や作品選定をしています。
三人とも建築設計をバックボーンに持つクリエイターですが、空間を考えるための切り口はさまざまです。得意分野でそれぞれがリードすることはありつつも、三人チームで福祉施設の現場にあるニーズやヒントを考えています。
それぞれの考える視聴環境
キックオフミーティングにあたって、三人のゲストとたんぽぽさんには宿題をお願いしていました。
ゲストの三人には、視聴環境づくりにあたってヒントとなる事例やアイディアの共有、たんぽぽさんには、施設で普段おきている視聴にまつわる出来事や状況の紹介をお願いしました。
(一軒家を舞台にした演劇作品の分析。建物の使い方から、お客さんに配られたお菓子も含めて体験を分析しています)
板坂さんのプレゼンは、「劇場らしさ」と「その場所らしさ」という二点のバランスに注目したさまざまな事例の分析と紹介でした。
今回の視聴環境づくりは、日常空間に劇場を立ち上げる試みでもあります。ただ作品を再生しても、見慣れたものや好きなもののようには楽しんでもらえません。どうしたら特別な体験として作品に出会えるか、それとふだんの暮らしをなじませられるか。矛盾するようなこの状態について考えるヒントをもらいました。
街中のちょっとした空間を劇場に変えた事例やアイディアは、飲み物を置ける穴が開いているといったちょっとした操作からできることもあります。様々なスケールで試したいことが出てきます。
(髪留めのような形をしたOntenna、抱きかかえられるボール状のSoundhug。それぞれ音を振動と光で伝えます)
梅原さんのプレゼンは、最新の音響機材がどのような設計思想でつくられているのかの紹介から、音響機材の性質を利用したアート作品の紹介まで幅広いものでした。
なかでもバリアフリーに関わるOntennaやSoundhugのような機材、まくらやクッションと一体化したようなスピーカーは、視聴体験をぐっと広げてくれそうです。
視聴環境を、視ることと聴くことのかけ合わせとして考えると体験のバリエーションは増えていきそうです。気楽に観ることと音に引き込まれるような体験はどのように作れるのでしょうか。
(色とりどりのかぶりもののようなゴーグルとヘッドホンで作品を視聴する人たちの様子)
渡辺さんのプレゼンは、さまざまな芸術祭で発表されたアート作品の事例から、作品体験のさまざまな形を紹介してくれました。いわゆる劇場とは異なる環境での体験には、作品に入り込むきっかけから没入まで様々なつくり方がされています。
空間にいくつも置かれた中から自分の視聴する機材を選んだり、ドライブインシアターで車を運転して見る場所へ駐車したり、画面より手前の時間にも視聴環境の設計が必要なことが分かってきます。
(佐藤さんがカメラで見せてくれた施設の中の様子。吹き抜けの上から、ショップコーナーを見下ろした様子)
たんぽぽさんからはメンバーの普段の生活から、印象的なものを写真で見せてもらいました。
大きなテレビでドラマが流れている隣で自分の好きなYoutubeを観ているメンバーの方、車いすについた机でノートパソコンをさわっている方、カーテンで仕切られたスペースで一人でスマートフォンを眺める方。それぞれ自分の思う快適な状態があります。
ヒントはながら見?出会いは設計できるのか
ディスカッションは白熱し、分析・紹介されたアイディアについての意見交換から、次第にアートセンターHANAではどうするかのお話へ。
たんぽぽの家・佐藤さんからは「さまざまな状態の人がいて同じものを同じときに見ることはなかなかできないので、まず作品を体験できること、それぞれの記憶が共有できたらいいと思う」、中島さんからは「ドライブインシアターのように、映像は遠いのに音は自分の車のラジオから聞こえて来るのが面白い」というコメントも。
(テレビを見るメンバーもいれば、隣でパソコンをさわるメンバーもいる)
一緒にいながらにして自由に過ごす、HANAでの当たり前の風景を、視聴環境につなぐヒントが見えてきました。注目したのは佐藤さんが見せてくれた吹き抜け。吹き抜けの下にはメンバーがよく集まるスペースがあり、ベンチやテーブルがあります。どの部屋に行くにも必ず通る場所は、作品とうっかり出会うのにもちょうどよさそうです。
二階にいる人も一階にいる人も一緒に見るにはどうしたらいいのだろうと思っていると、床にプロジェクションするという案が出てきました。「車いすのメンバーは一階で過ごすことが多いのだけれど、身体が不自由で下の方を向いている人も多い。床に映した方がむしろ見やすいかも」とたんぽぽさんも乗り気になり、HANAでの視聴環境の大事なプランになりました。
みんなが眺めたり通りやすい場所であれば、作品全部を見なくても、気になる作品があるかもしれない。視聴環境が作品へのアクセシビリティの第一歩になるかもしれません。大きなスペースで何人かで見ることを考える一方で、一人で見ることについても話題になりました。まわりの情報が多いと混乱してしまうメンバーは一人で落ち着いたスペースで過ごしたいこともあるそう。しかし施設でスタッフがみんなの様子を知るには、閉じこもりきったスペースをたくさん作るのも難しい、とジレンマがあるようです。
一人で落ち着いて楽しむけれど、他の人にも様子が見えたり気になる姿になる。一人視聴の環境はそうしたポイントを考えていくことになりそうです。
どちらの場合も、いい意味で没入しきらない、ながら見のような状態をつくることがヒントになりそうです。
THEATRE for ALLの作品の多くは、メンバーもスタッフも馴染みのないものが少なくありません。どこで、どのように、どの作品を流すのか。その組み合わせも含め、この日のディスカッションは続いたのでした。
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次回レポートでは、ディスカッションを受けてつくられたアイディアをご紹介します。
トライアルが近づく中、ゲストクリエイターたちはどんな環境を提案したのか。
お楽しみに!