技術監督・黒太『王子小劇場の思い出⑧後編〜ありがとう舞台写真祭り〜』照明図面つき
vol. 52 2020-04-28 0
https://motion-gallery.net/projects/sakichi2020/updates/28705(前編)
なんと、後編に突入してしまいました!
メイン以外のシーンの話です。
から、続きます。
今回、藤口圭佑さん演じる 埋葬虫、というキャラクターが本当に好きで、つい作ってしまったシーンです。電車のシーンから、置屋でじっと床を見ている埋葬虫、というシーンへの繋ぎの明かりでしたが、本当に気持ち悪く見えて最高でした。藤口さんはこの直前に僕の照明ワークショップに来てくれていて、なぜオレンジなのか→気持ち悪いなら緑とかじゃないの?という話題でしばらく盛り上がってました。僕は割と直感的に濃いアンバーを選んでいたんですが、その直感をちゃんと言語化する、というなかなか稀有な体験でした。(緑は日本のホラーによく使われている色で、これはそういうホラーじゃなくて人が気持ち悪いからそれに合う色を選んだ、とかいう話をしてました。)G388のダブルとL158って、今考えてもかなり変態ですね。
大宮二郎さんもとても好きでした。スタジオ明かりによく映えること…。
たぶん彫りが深めのイケメンが好きな照明家なんだろうとは思うんですけど。Mrs.fictions「伯爵のおるすばん」@吉祥寺シアターでご一緒した時とは役柄も全然ちがうけど、あの時もすごい好きな役でついついこだわって「穴倉の底に届く明かり」を作ったんですよね。(四角い明かりをちょっとずつ角度を変えながら昼・夕方・夜と花火を3色分作りました。岡野さんも別の立ち位置で同じ空間内にいたので別の窓の明かり作ったりして。12台のソースフォーを贅沢に使いました)もちろん演技もお上手なんですが、明かりに入るだけで絵になってくれる役者さんっていうのは素晴らしいしずっと遊ばせてほしいですね。好きな役者さんを並べて照明家が舐め回すように明かりを当てまくる遊び、というのが中世フランスでは流行っていたそうですよ。(もちろん嘘です)
照明で 人を燃やしたのは初めてだったと思います。大田彩寧さん。
でも割とLEDだったからそんなに暑くはなかったんじゃないかな…。でもスモークをぶちまけ続けました。ずっと心配はしてたんですけど、本番中はなかなか煙がうまく立ち上がらなくてガンガンに出してました。大田さんの役は出稼ぎに来ている小さい子供のいるママで、子供のいる僕だったら、と思うとオペがブレるのでやばかったですね。必死にイズコの気持ちになってました。たぶん音響の伊坂さん含めあのシーンは人殺しの目してたと思います。まぁ ガソリンに火種が投げ込まれて炎が立ち上がる、っていう表現は本当にセンシティブなキッカケだったんですけど。僕も伊坂さんも人燃やしたこと無かったのでどうキッカケを組むのがリアルなのか、試行錯誤しましたね。
車のハイビームはただのFootだったけどいい明かりだったなぁ…。
ハケ口の絶妙なとこにあったのでいつも蹴られないかヒヤヒヤしてました。かといって「山を登ってこれ以上は車では入れない」という場所なので高い位置から当てたくなかったんですよね。そして 車のライトの色にはやはりこだわりがあります。もともとこの場所に来ていた交通手段は電車、ということはレンタカーなのか?→じゃあHIDとかLEDじゃなくてハロゲンがいい。観光地としては栄えていないそうだしそれならレンタカーもたかが知れている→ハイビームならなおさら、という流れでした。もう今更ですが、もちろんハロゲンランプの車の方が好きなんですけどね。
この車が去ったあとの夜の森、は仕込み図で言うとch67.68のP68夜山1.2がそれぞれ10%と20%で点いていただけでした。L202のダブルだったのでもう目視できるギリギリで、役者さんのシルエットだけがぼんやりと見えている、みたいな状態でした。映像と違って舞台照明は目で見たもので作れるから、単純だし分かりやすくていいですよね。
あとこれは照明関係無くて、言いたくてしょうがないだけなんですけど…。殺人を録画したビデオを見ていたシーン、パソコンが僕の私物でして。役者さん達が実際見ていたのはたまたま入っていた僕の披露宴のオープニングムービーでした。めちゃめちゃ恥ずかしかったので本番中は思い出さないようにしてました。
・2020年2月 やみ・あがりシアター『ロケットペンシル×ドレッドノート』
佐藤佐吉演劇祭の公演延期が決まる前に公演することが出来た作品です。これも王子小劇場での思い出ですし、なかったことには出来ませんので、書かせて頂きます。もしお気を悪くする方がいらっしゃいましたら、ここから先は読まないでいただけると助かります。よろしくお願いします。
【画像/202002_ロケドレ_LightingPlot_吊】
【画像/202002_ロケドレ_LightingPlot_置】
テーマは「ぼくのかんがえたさいきょうのうちゅうせんかん」でした。
(あ、笠浦さんから写真の掲載許可を頂きましたよ!!) 「舞台照明にそういうジャンルがあるとしたら、アニメ明かり」を思う存分にやらせてもらいました。仕込み図書いてる間もずーっとアニメを見てました。宇宙戦艦ヤマトと銀河鉄道999が主でしたね。やみ・あがりシアターを初めて見たのも宇宙の話でした。笠浦さんは劇場職員としては同期なんですが、入って10月に公演があって、チラシが可愛くて気になって珍しく自分から観に行きまして。とても面白くっていてもたってもいられず僕に照明をやらせてほしい、と頼み込んだのです。なので、やみ・あがりシアターの宇宙の話、には人一倍と言っていいほど気合が入っていた自負があります。
ただ、ちょっと細かくやりすぎて大変でした…。こんなに 明かりづくりが終わらなかったのは久しぶりでしたね。仕込みも確かに多かったんですけど、やりたい明かりのイメージが強くてなかなか修正が終わらなかったり、そもそも1シーン作るのに時間が掛かりすぎてしまいました。大変だったなぁ…。
船内の地明かりを全部Par64 5Mにするって決めたのが最初のこだわりでした。
フラットな地明かりよりも宇宙船っぽいですよね!ちなみに、シーン明かりが多い割に音合わせのシーンだったり、 ワープや波動砲など動きの多いシーンが多かったので地明かりも含め出来る限りの仕込みがチェイスに使えるように描いてあります。
舞台美術の金座さんとの打ち合わせで宇宙船にKeytalk( 過去記事をチェック!)を使うのが決まりました。元々美術としてはスリットの明かりっぽいイメージだったようでしたが費用対効果の問題でこうなりました。電球のアナログな感じは良かったですけど、LED蛍光管みたいなやつでも見てみたかったです。
本番中に使うだけじゃなくて、 客入れ中に客席方向に向かってゆっくりチェイスする、みたいなことも地味にやってました。ディズニーランドのスターツアーズに並んでるとこの明かり作ってるみたいで楽しかったです。
黒紗幕裏のUHも好きでした。
宇宙戦艦ヤマトとかの 船内のコンソールをオマージュしてます。古いアニメのコンピューターの画面って色とりどりにチカチカしたりしますよね。机にテープLED貼ったのもそれっぽくて好きでした。ちなみにテープLEDは役者さんが手元のスイッチで操作してました。
ギャラリーのH鋼とか手すりに仕込んでいたCYAN6000XEとDotzParは遊びのメインでした。飛び立つドレッドノートの船尾で火を噴くエンジンだったり、
エンジンの核だったり
波動砲
だったりしました。エネルギーが中心に向かって収束されていくようなチェイス組んだり、波動砲の撃ち終わりをズームが縮んでいくことで表現したり、 敵艦隊のビーム攻撃もこれで表現したりしてました。すっっっっごく楽しかったんですけど大変でしたね。
その他にも細かい遊びはあちこちやってました。 セブンイレブンの色をLEDで出してみたり。
普段はこんなことするー?みたいなことも遊んでやってましたね。ちなみに 台車もコンテナも黒猿のものでした。台車は牡丹茶房「廃優」より引き続きの出演でしたね。
廃優が終演した後、あんまり台車本来としての仕事をせずやみ・あがりシアターの稽古場に向かっていきました。 売れっ子台車です。
アルカディア!の2人のバックサス!
ハーロックの依乃王里さん、エメラルダスの久保瑠衣香さん。この2人のこのシーン専用の仕込みでした。補色のバックは男のロマンですね。この2人も好きだったなぁ。
さんなぎさんがちょいちょい見てる テレビの明かりは笠浦さんにも好きだって言ってもらいました。
テレビに飲み込まれていくような表現をズームが出来るLEDを使ってやったりしました。ホワイトノイズみたいな細かいチェイスもLEDだったのでちまちまやりましたね。
これはもう特にどこから引っ張ってきたってものは無いので、完全に僕のイメージなんですけど、アニメのピンスポットってほぼ必ずシャープエッジじゃないですか?
ピンスポットを配置する客席の余裕も無かったのでムービングでやってました。
こんなに遊んだ仕込みも久しぶりだったような気がします。別の仕事も被ってたので思い切って機材レンタルしたりもして、楽しかったなぁ…。SSのように仕込まれた見せ明かりのLEDだったり、爆発と共に登場する徳川(小寺悠介さん)のスモークマシンを仕込んだり。あ、佐渡(佐藤友美さん)もスモークと共に登場してましたね!やればやるだけ何でもできて、終わらないかもしれない楽しさと共にあった現場でした。
ちなみに 産後初の奥さんのオペ現場でした。「こっちみてるの、しょうこ」の時に出産して、またやみ・あがりシアターで戻ってこれたのは僕も嬉しかったです。ガチガチに緊張してましたけどね。娘は稽古場に遊びに行ったり、ゲネを見たりしてました。ガンガンに音鳴ってるのに寝てた時は笑っちゃいましたね。
本当に長くなってしまいました!書いてるのも楽しかったです。8回もやりました!なんだかんだ楽しかったなぁ。こんな楽しいことが出来る劇場ですよ、ってことが伝わればいいなぁ。そして、もっと楽しかっただろう演劇が見れなかったことを悲しく思います。 公演するはずだった団体が、金銭面で体力不足にならないようにするためのクラウドファンディングです。またうちでやってる公演を見て頂くためにも、どうぞクラウドファンディングへのご協力を宜しくお願い致します。
つたない文章のコラムにお付き合いくださってありがとうございました。さーて明日から何しましょうか。演劇がしたいですね。
花まる学習会王子小劇場 技術監督 黒太剛亮