技術監督・黒太『王子小劇場の思い出⑧前編〜これでラストの一万文字〜』照明図面つき
vol. 51 2020-04-28 0
いつもお世話になっております。
花まる学習会王子小劇場、技術監督の黒太剛亮です。
いよいよ僕のコラムはこれで最後です。変な話ですが1本書くのに大体2日掛かるので、16日間もやることがあって本当に助かりました。読んでくださった方、クラウドファンディングにご支援頂いた方、本当にありがとうございました。
ということで直近の3本です。どの団体も思い入れのある素敵な団体です。書きたいことを書き出しただけですでに山盛りでした。各団体にお願いして写真も盛り沢山です。どうぞお付き合いください。
(いつもどおりですが、図面が見づらかったらこちらからpdfで見てみてください。クラウドファウンディングが終わったら多分消します。)
・2019年10月 ロデオ★座★ヘヴン『アイラブユー/日本演劇総理大臣賞』
【画像/20191001_Rodeo_LightingPlot】
もう最初っから見づらくてすみません。ロデオお馴染み?のセンターステージで2作品、しかも全然関係ないストーリーにテイストも全然違うお芝居でした。
澤口さんにお願いしたら快く写真の掲載許可を頂けましたので何枚か。まずは日本演劇総理大臣賞より。
オープニング
稽古場の昼
稽古場の夜と会議室が混ざるシーン
ラストシーン
アイラブユーより、雨のシーン
ラジオ局と屋外
蒲地とキレリエを見つめる氷魚
ラストカフを上げる氷魚
澤口さんとは僕が20歳かそこらの時に知り合ったので付き合いはだいぶ長いです。その頃はお芝居の上手なイケメンでした。今はお芝居の上手なイケおじ…?ですかね。長身で顔の彫りが深いのでどんな明かりを当てても映える素敵な俳優さんです。あと思慮深くて優しいのでマジで敵いないんだろうなぁって思う。
さて。図面を描くときの順番って人それぞれだと思います。サスとかシーンごとのスペシャルな仕込みから?地明かりから?僕は割とその時の芝居の雰囲気で決めて始めますが、やりやすい順序ってあるんですかね?ワンシーンが長い芝居ならそれに耐えうるように地明かりは強固に作らなくてはならないし、シーン数が多い芝居では地明かりよりも出物を優先しないと終わらない時もあります。
この時は、その両極端のお芝居の仕込みを両方やるような企画でした。通しを見た後稽古場で頭を抱えましたね…。僕は描き始める前にしばらく時間をおいて作りたいイメージを頭の中で構築したり、資料を集めたりしてから描き始めます。これ作ってる時は頭の中取っ散らかって大変でした。描き始めてからは、日本演劇の地明かりをざっくり→アイラブユーのスペシャル→日本演劇のスペシャル→アイラブユーの地明かりは日本演劇の使いまわしで行けるか確認→全体を調整する、という感じで進んでいきました。
ちなみに各チャンネルの名称は明朝体が日本演劇オンリー、ゴシック体がアイラブユーと共有、という分け方になっています。
日本演劇の明かりは大帝の葬送と同じ設定の会議室と、大きな窓のある稽古場、の2つでした。稽古場は掘っ建て小屋、離れというか、木造で太陽の光がしっかり入るような場所のイメージでした。夜は裸電球1つで身を寄せ合って台本を読んでいるような。
稽古場の窓から入ってくる外光に枠のサイズを出すためのソースフォーと、明るさと明かりの重さを出すためにパーライトでビームを足す、というのを実験的にやってみたんですけど、とてもきれいでした。窓から入ってきた光が床に当たり、反対側の壁と天井に当たって跳ね返ってくるような仕込みもありました。この組み合わせ、めちゃめちゃかっこよかったのでまたやりたいですね。夜の時は窓の外から明かりが入っていない状態にしていたのですが、何も点けないと何も見えないので、#72で押さえのCLを入れてました。夜が青い、というのはまぁよくやる手段ではありますけど、あんまり好きじゃないのでこれがどこまで違和感なく出せるかが勝負でしたね。
と、ここまで日本演劇総理大臣賞はすべて一般灯体で作りました。LEDの光が芝居に合わない・変化にLEDの汚さを入れたくない・あとそもそもファンがうるさい、という理由でした。ので、LED灯体はアイラブユーに全振り出来ました。これでもかってくらい隙間を調節しながら機材突っ込んでいくのは楽しかったですね。
アイラブユーのこだわりは停車しているタクシーに乗り込んでいくシーンと捕らわれた倉庫のシャッターが開くシーンでした。タクシーのハザードランプが役者に当たるようにつらFoot、奥の壁をブレーキランプで赤く染める、というだけ、と言ったらそれまでの明かりではありましたが、LED灯体で仕込んだのハザードランプがハロゲンライトに見えるようにチェイスを細かくいじったりして、短いシーンでしたがすごく満足のいくシーンでした。倉庫のシャッターは真っ暗な倉庫の中にシャッターが開いて明かりが差し込んでくる、というシーンだったので舞台部お願いして、パーライト1台に下から開く形のシャッターを作ってもらって実際にシャッターが開くかのようにしました。何人かのお客さんに、あれを見て照明が黒太さんだって確信した、と言われました笑 ありがとう、舞台監督北村太一さん&井草佑一さん!ちなみにシャッター操作は演出助手の宮藤仁奈さんでした!
全然関係無いですけど、最近仕込み増員の皆さまにコンモ線アーティストってからかわれています。(コンモ線というのは同じ回路に挿す灯体を示す線のことです)いわゆるホール仕込みで昇降バトンだと灯体が横一列に並ぶのでコンモ線書きやすいんですけど、小劇場で固定バトンだと頑張って分かってもらえるように工夫するしかないんですよね…。コンモ線もお楽しみください!
・2019年11月 牡丹茶房『廃優』
【画像/20191126_廃優_LightingPlot_吊】
【画像/20191126_廃優_LightingPlot_ギャラリーと置き】
6回目のコラム、room42さんの時に話に出しましたが、いよいよシーン数ではピカイチの牡丹茶房烏丸棗さんの登場です。せっかくなのでシーン数を書き出してみました。(芝居の時間軸とは違います。あと、打ち合わせの中で烏丸さんと決めた設定もあるので台本の中には無かったりします)
- オープニングの悪夢
- 置屋(夜2回/朝1回)
- アパートの一室
- 涼泉閣のエントランス
- 電車
- 埋葬虫のサス
- 夕方屋外1
- 夕方屋外2
- 廃屋
- ゆかりのTOP
- 奥が廃屋でつらにサス2つ
- 涼泉閣のロビー
- 下手で宿の部屋
- 上手で宿の部屋
- 奥で宿の廊下(2回)
- 夜屋外(マジで暗いやつ)
- スタジオ(6回)
- 下前でスタジオの別の場所
- 下奥でさらに別の場所
- ギャラリー下手で宿の朝
- 七海電話サス
- 千夏の燃える明かり
- つらでスタジオ別室
- えにしTOP
- ギャラリー下手で屋外夜
- 漆山の隠れているどこかの部屋
- 深夜/山中/車のハイビーム
- ハイビームが消えた後
- 涼泉閣の裏庭
- 深夜/奥深い場所
- 首を吊る洋一郎
大変だったなぁ…。いや、シーン数で言ったらもっと山ほどある芝居はいくらでもあるんですけど、牡丹茶房で難しいのは、これの一つ一つに手を抜く隙が無いところ。小説みたいなんですよね。この作風が本だったとして、その場所自体が怖かったり、その場所が伏線だったり、はたまた事件現場だったり。時間と場所の設定に対する描写が適当ってありえないと思うんですけど、これを演劇でやることの大変さと言ったら。
せっかくなので、烏丸さんに写真を選んでもらいつつ、僕のお気に入りだったシーンをご紹介したいと思います。まず置屋。
置屋と涼泉閣、廃屋とスタジオが登場回数は一番多いですね。置屋は他のエリアと同時進行することが多くて、広いエリアなのに結構区切ることも多くて大変でした。地明かりのL202とブッチのL114がしなびた蛍光灯のイメージを。そしてシーンによってはバランスをL114に傾けることで不穏な感じが出せたのは良かったですね。置屋に朝が来るシーンはロデオの窓にビーム入れるやつを早速使ってました。
皆さんも是非お使いください。涼泉閣はホントに頭を悩まされました。
写真は夜のロビーです。ロビーと廊下の違いとは…。ホテルのエントランスと中庭の違いは…?大体がつら3尺間口いっぱい、というエリアで、場所によっては奥との接続があったり無かったり。エリアを区切るために1台ずつの明かりのサイズが小さくなってしまうので台数を取られるから苦労しました。
廃屋。
写真ではちょっと伝わらないかもしれないですが、細かいひび割れた天井から細かいビームがいっぱい差し込んでいる、という設定でした。壊れた屋根からは木漏れ日も入ってきてたりしています。資料ググりまくってちょっと気分が悪くなったのもいい思い出です。
資料写真たち↓
廃屋というテーマは「レプリカに捧ぐ」@王子スタジオ1とか「山猫/辺獄の葡萄」@新宿眼科画廊とかでパターンを変えつつ付き合ってきたものなので、最早得意な分類に入るかもしれません。
そしてスタジオ。
当時ずっとウォーキングデッド見てたんですよ。Huluで。今まで作業BGMは割とラジオだったりクラシック聞いてたりしてたんですが、あれはいい会話劇ですね。そんなに画面見てなくてもなんとなくストーリーは掴めるし、最早ゾンビは怖くない話だし。なので烏丸さんから廃屋の中のガレージとかで撮影している、って言われた時アレだ!ってなってました。荒廃していて電気もまともに通っていない、切れかけた古い蛍光灯がちらつくような、そんな明かりでした。実際ちらつくのは芝居の邪魔になるのでやってません。薄暗いスタジオの更に薄暗い隅っこの方には、捕まえられた人たちが転がされたりしていました。
牡丹茶房ほど漏れ明かり(ハレーション)が似合う団体もおるまい!と思うし、その暗さを許してくれる演出家で本当に助かっています。とか言いつつ、実際の照明ではそんなに暗いとほんとに見えないしストレスになりすぎるので明るいんですけど、薄暗いという設定だったのでハロゲンのスタンドライトを置いてました。ホームセンターとかで普通に買えるやつです。ゾンビと言えばホームセンターですね。このスタンドは台本には無かったものです。
青白い空間の中では温かい色味は異質なものだったし、いい感じに影を作ったりもしてくれました。
ただ、あんまりお客さんの方を向きすぎると眩しかったりで割とシビアな置き位置だったりして、扱う役者さん達には結構プレッシャーだったようです。ごめんなさい!ありがとうございました!
つづいて、メイン以外のシーンの話です。
というところで、全文が1記事限界の10000文字を超えてしまったため、後半へ続きます!