爆弾が落ちなかった村に残された言葉のアーカイブ
vol. 37 2025-08-15 0
『慰問文集』再々発行プロジェクトの水野雄太です。私たちはいま、伊深親子文庫が発行した『戦争の記録』のデジタルアーカイブの準備をすすめています。
『戦争の記録』は、1979(昭和54)年から2017(平成29)年のあいだ、毎年8月15日に発行された全40巻の冊子シリーズです。田植えがひと段落する6月末から地域の女性たちが集まり、200〜300部を終戦記念日に発行。小学校のPTAや戦没者遺族会を通じて各戸に届けられました。こうした出版活動は、『慰問文集』の再発行をきっかけに、文庫活動が幕を閉じるまでの約40年間、毎年途切れることなく続けられました。
戦時下の伊深村には、ひとつの爆弾も落ちませんでした。『戦争の記録』に載っているのは、そんな村に遺された、戦地と銃後をつなぐ手紙、戦時中のくらしを綴った日記、回想録などです。私たちがこれらをアーカイブしようと思ったのは、伊深での取材をすすめるなか、その重要性を再認識したからでした。86年前の〈遠い〉言葉とどのように向き合えばよいのか。その手がかりがここにある──。
一方、劣化や散逸の危機に直面していることもわかってきました。小部数の発行ゆえ、元伊深親子文庫の方々の手元にも、全巻が揃ったかたちでは現存していません。全国の公共図書館のうち全40巻を所蔵しているのは美濃加茂市立図書館のみであり、その多くは館外閲覧が禁止されています。国立国会図書館(デジタルコレクション)での公開も一部に限られています。
そこで、戦後80年を迎える今年、私たちは当プロジェクトの一環として、『戦争の記録』全40巻のデジタルアーカイブに取り組むことにしました。『戦争の記録』を1ページずつスキャンし、デジタルデータを作成。ウェブサイト上でいつでも読めるよう、関係者のみなさんの協力を得ながら、公開の準備をすすめています。
戦時中に刻まれた言葉。戦後になぞられた言葉。幾重にも重なる筆跡から、今日の言葉を探る。戦争を知らない世代によるアーカイブの試みです。
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書籍化に向けた現地調査も引き続き行っています。
今年3月には、私たちは岐阜県美濃加茂市に滞在し、現地取材を行いました。滞在中にお会いしたのは、伊深親子文庫の元メンバー、『慰問文集』執筆者のご親類、戦没者遺族、博物館関係者、まちづくり活動に携わる方など、のべ21名。
かつて『慰問文集』を書いた38名の“子どもたち”に出会う旅も、あと6名に迫りました。少しずつその筆跡と足跡をたどっています。
2025年8月15日
なぞるとずれる|『慰問文集』再々発行プロジェクト
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