冬母神、オン カイヨック〜津川エリコのダブリン便り03
vol. 10 2024-02-04 0
「冬母神、オン カイヨック」津川エリコ
ドロヘダという人口4万の小さな町へ行ってきました。新聞で見た壁画、ケルト神話の冬の神、或いは母神、「オン カイヨック」が気に入って、実物を見たいと思ったのです。
窓のない妻壁全体に大きく描かれていました。7,8メートルはあるでしょう。絵は右手に接続した平屋の壁にまで伸びています。
オン カイヨックは地形と嵐と冬をつかさどる神です。イラストによってはギリシャ神話の女神のように、ゆるやかなローブをまとった若い女性として優美に描かれている場合もありますが、この壁画では数百年生きて来たかのように見える老婆です。
美しい女神というのは皆、似ていて区別がつかないのですが、この老婆には見間違うことのない個性があります。何か私の気持ちにぴったりはまって来る神話的な存在感を感じさせます。山を崩し、山を盛り上げ、川を溢れさせ川を干からびもさせる神です。彼女の逆鱗に触れれば厳しい冬が来て2度と冬は去らないかも知れません。
この壁画を描いたアーチストは ベラ・ブガッテイさんというイタリア人で、彼女はストリートアーチストとして、舗道や壁に絵を描きながら、世界中を回っています。http://www.verabugatti.it/
このオン カイヨックは、目下、インターナショナル・ストリート・アート賞の最終候補にあがっています。ベラさんが目下このアイルランドに居るということだけでも、私を興奮させてしまいます。
ローマ帝国が最大の時、イギリスは南半分がその支配下にありましたが(AD43-AD410)、アイルランドは帝国の支配を受けなかったのです。ローマ軍がアイルランドに向かった時、あまりの寒さに怯んだと言われています。古代ローマではアイルランドは「ヒベルニア」と表記されていました。冬の国、と言う意味です。