対訳詩集を味わう
vol. 2 2023-12-12 0
「『アイルランドの風の花嫁』コース」で応援いただいた方へお届けする一冊、
津川エリコの第一詩集をご紹介します。
書名は、『アイルランドの風の花嫁 Bride of the Wind』。
本プロジェクトで再出版をめざす『雨の合間 Lull in the Rain』と同じ、対訳詩集のスタイルです。
二つの詩集の異なる点は、『雨の合間』は詩人自らが対訳したのに対し、『アイルランドの風の花嫁』は、アイルランド文学研究者諸氏が日本語に訳されました。
表題作Bride of the Windの冒頭をご紹介します。
Crimson was the colour of the dress
he gave me, just to undress me.Myriad autumn leaves, most bright,
kissed me and smothered me in the woods.When I struggled for breath,
he sighed, to expose me again with a whisper.彼が ただ脱がせるためだけにくれた
ドレスの色は深紅色だった無数の秋の葉が とても明るく
森の中で口づけをして わたしを窒息させた懸命に息をしようとすると
彼は吐息をつき 囁きながら私を再び晒した
——Bride of the Wind 風の花嫁 より抜粋、高野正夫訳、『アイルランドの風の花嫁』(金星堂)所収
Crimson で始まる英語バージョンは、視覚的にも劇的です。
「和訳は後ろから訳せ」とよく言われますが、日本語は重要な部分が後に置かれる言葉なのだと改めて思います。
さて本書の構成は、つぎの5章から成っています。
Ⅰ The Boy 少年
Ⅱ Bell and Tree 鐘と木
Ⅲ Bride of the Wind 風の花嫁
Ⅳ Typhoon 台風
Ⅴ My small garde 私の小さな庭
子どもへの目線、街角やご近所のできごと、自然観察などから生まれた、親しみやすい詩篇です。
ヨーロッパなど移民社会では、外国ルーツの作家が活躍するのはもはやあたりまえかもしれません。しかし遠く極東のアジア人による詩篇が詩人の国・アイルランドで読まれていることに、文学の奥深さを感じます。
津川さんの英語はシンプルで、とてもわかりやすいことも魅力の一つです。
AI翻訳で、事務的なコミュニケーションは事足りる時代。
もっとゆたかな英語を身につけたいという方へ、津川エリコの対訳詩集はうってつけのテキストです。