二度目の春。いのちの限りで咲かせた花は
vol. 41 2025-04-29 0
新緑を吹き渡る風が心地よい季節になりました。このプロジェクトも、始まりから2年が経とうとしています。
「息をしている限りあきらめない 樹木の緊急避難プロジェクト!」を掲げ、国立市教育委員会、校舎改築工事請負業者さんとのギリギリの交渉の末、5月3日から6日までの4日間のチャレンジを正式に許可されたのが2023年5月1日。矢野智徳さん率いる大地の再生ネットワークの職人さん、ボランティアの皆さん(のべ200人以上)のおかげで桜、梅、金木犀、銀木犀、モミジ、マテバシイなど40本、そして13日には追加でヒマラヤスギなど6本を「避難」させることができたことは、いま振り返っても奇跡のような出来事でした。
こんなことができるなんて! と見学に来られた方々は一同に賛意を示され、新聞各紙、TV、雑誌等多くのメディアでも報道されました。そして、皆さまには目標額を大きく超える多大なるご支援応援をいただきましたこと、改めまして、プロジェクトメンバー一同、心より感謝申し上げます。本当に、ありがとうございます。
この2年、さまざまなご批判やご心配の声も頂戴してきました。樹齢を重ねた大きな木を校内に仮移植した危険性を指摘する声、そもそも老木は伐採して若木を植えるべきだという強いご意見……。国立市議会への陳情が3回、意見書は10通を軽く超え、その声を聞くにつけ、私たちはこのプロジェクトの正義を疑わざるを得ない状況にも追い込まれました。そんな私たちを励まし、支えてくれたのは樹木であり、子どもたちでした。
私たちは理屈抜きで「木をきらないで」と声をあげた子どもたちと一緒に、仮移植された樹木の水やりや養生をしながら、樹木があればそこに鳥や虫やネズミやあらゆる生きものが集まってくることを知りました。37℃を超える猛暑日でも、仮移植帯の森の中は気温が6℃も低く、風が生まれ、暑さが和らぐことを体感しました。
結局、二小校庭(実際には隣地の東側緑地)に本植できたのは2本の桜だけでしたが、全ての樹木が廃棄されることなく、もちろんチップになどされることなく、「里親さん」に引き取られました。大きく重い樹木の引っ越し作業は想像をはるかに超える大変さで、2024年3月から7月にかけて大地の再生ネットワークの皆さまには何度も足を運んでいただき、東京、埼玉、千葉、静岡、茨城、栃木、長野の14箇所へ樹木を移送し、本植していただくことになりました。その作業の多くは職人さん含めボランティアで成り立っていたことも後から知ることになりました。このプロジェクトに関わってくださった全ての方の想いと行動に深い敬意と感謝の念が込み上げてきます。
昨年11月22日、市長、教育長、子ども家庭部長に直談判した子どもたちは、樹のいのちを軽く見ないこと、子どもの意見を聴くことの大事さを訴えました。そして最後に言いました。「このプロジェクトを伝説にしてください」
プロジェクトはたくさんの手間と労力と時間、費用を要しました。関わってくださった方の中には具合が悪くなられた方、大怪我をされた方もいらっしゃいました。避難させた樹木の中には仮移植中、あるいは本植後、息をし続けることが難しくなってしまった樹木もあります。経済や効率で考えたなら、まずやらない事業でしょう。それでも、そんな社会に私たちは、この間学び、感じ、確信したことを胸張って伝えていきたいと思います。それを後押ししてくれるのは、二度目の春を迎えた桜たちの姿です。
秩父Mahora稲穂山に引き取られた2本の桜とマテバシイ。森のホールの駐車場で訪れる人を出迎えてくれます。里親の長谷川信枝さん、秩父に引っ越したかつて国立の住人と。
駐車場にぐるりと水脈を施した3月26日のメンテナンス講座には国立から二小の子どもたちも参加。
こちらは東京・Morc阿佐ヶ谷の才谷さんが建設中のギャラリー&カフェ。テーマは「都市の森」。ギャラリー内はさまざま貴重な木が使われ、中庭と屋上緑化を矢野さんたち杜の学校が手がけられたそう。才谷さんとスタッフの皆さん。
練馬区にある武蔵学園に引き取られた、根がくっついて離れなかった八重桜とモミジ。
モミジは元気に「青楓」に。
武蔵学園には2箇所2本ずつ計4本引き取ってもらいました。2本の桜は枝を伸ばし、見事に咲いていました。
「染井吉野」の看板を下げていましたが、「本当にソメイでしょうか?」と聞かれました。
二小から埼玉の中央園芸さんに再度仮移植され、二小の本植と同じ時期に世田谷「たまよんガーデン・コミュニティ」に本植された桜。重度のしょうがいがある方のシェアハウスと地域の憩いの場をご実家を改装してつくられた速水さんが、大切なお庭に引き取ってくださいました
うさぎ幼稚園さんは現存する日本最古の幼稚園。3園に4本の桜を引き取ってくださいました。品川区にある大井うさぎ幼稚園では園庭の真ん中で2年目となる花を伸びやかに咲かせていました。
一方、洗足うさぎ幼稚園の八重桜は夏の間に葉を落としたまま春になっても芽が出てきません。
こちらは千葉・市原うさぎ幼稚園。広い園庭で大きなソメイヨシノに見守られ、子どもたちの声が響く中、大島とソメイヨシノが愛らしい花を咲かせていました。
千葉・館山の別荘に引き取られた桜は枝を伸ばし、花が咲き始めたところでした。
八重だと思っていましたが、大島のようです。
こちらは中伊豆、セキデンファームさんの田圃に引き取られた大島(上の桜)とソメイヨシノ(下の桜)。
田圃の隅の水の集まる場所への植え付けは2日半かかりましたが、可憐な花をたくさんつけてくれました。
「いきなり出現した桜の門にご近所さんも驚いていらっしゃいます。本当に嬉しい!」と里親の石田さんご夫妻。
日光・幾何学堂さんの急斜面に道をつくりながら植え付けたソメイヨシノは昨夏に葉を落としてしまいました。でも、「この桜が来たことで周辺環境のことを真剣に考えるようになりました。ちょっと手をかけると途端に音や表情を変える自然の姿に毎日感動しています」と小坂さんご夫妻。
桜を植えつけるために1日でつくった道は、心地よい風が通る遊歩道になりました。
昨秋、新しい家族が増えた田野辺さん御一家。この桜は最後に救出された「船長さん」。この時はまだ蕾でしたが、ご近所の方も開花を楽しみになさっていると伺いました
その後、「咲きました!」と送ってくださった写真です
桜の絵を描いてくださった英(はな)ちゃん。ありがとうございます!
広い校庭には大きな桜もいっぱい。訪れた4月21日は満開でした
大日向小中学校(長野県佐久穂町)とのご縁を繋いでくださったのは、国立の小学校から大日向小を選んで転校された山下洋子さんと愉堂くん。「大日向はどんな子でもひとりの人として受け入れて、その子自身の学びを応援する学校。国立の小学校にいられなくなった桜に、うちにおいでと言いたかったんです」と洋子さん。中学2年になった愉堂くんは「大地の再生実践マニュアル」を熟読中
国立から桜を見に訪れた応援する会の方々と山下さん。
国立市内「やぼろじ」に本植された普賢象。白から淡い紅色に変化する可憐な八重桜で、伸びやかに枝を伸ばして細い路地に咲きました
「やぼろじ」に事務所を構えるWAKUWORKSさん。里親になってくださり、移植も自ら手がけてくださいました。ご近所の方も「綺麗な桜だねぇ」と喜ばれているようです!
さて、ここまで計13箇所、11の里親さんに引き取られた桜を見ていただきました。茨城・桜川市の「観喜(よろこび)の郷(さと)」さんに引き取っていただいた大島は写真がありませんが、いまは元気をなくしています。追ってご報告したいと思います。
最後に二小に本植された2本の桜を改めて紹介します。
新校舎東側緑道入ってすぐ右側に佇む「サンニュー」。3月29日「さくら鑑賞会」で濱﨑真也市長、杜の学校スタッフの飯島さんとプロジェクト・メンバー。
仮移植帯の中で一番元気だったのに、他の樹木が一本、また一本と引っ越していき、工事で根の近くを掘られたことも重なって元気をなくしていた「七星」。何度も移植され、仲間に去られ、満身創痍で、それでもいのちの限りで咲かせた花は、人生を励ますような輝きを放っていました。
緊急避難(校内と上野原への仮移植)を第1ステージ、本植(二小と里親さん計14箇所)を第2ステージとすると、このプロジェクトはここから第3ステージに入ります。
ここで経済の話をさせてください。第1ステージは仮移植後の養生含め実質約1500万円かかりました(日当を請求されなかった職人さんやボランティアの方の労務費は含みません) 。そのうち850万円をこのクラファンと直接のご寄付で賄い、400万円はプロジェクト・メンバーが負担しました(250万円は杜の学校が負担してくださいました)。
2度目のクラファンにチャレンジする体力も気力もない私たちに代わって、第2ステージは「国立二小樹木保存プロジェクトを応援する会」が立ち上がり、二小と大日向小の本植費用にと約400万円を集めてくださいました。里親さんへの本植費用は里親さんと杜の財団が負担してくださいましたが、11回にも及ぶ搬出後の整地や残った樹木の養生も大変な作業で、その費用として約200万円かかり、それはメンバーが負担しました。
さて、第3ステージです。樹木は植えたら終わりではなく、とくに今回のような老木、しかも2度の移植を経験した樹木には養生が必須。それを子どもたちと一緒にできたなら、何より実践的な環境教育になるはずですが、定期的なメンテナンスにはやはり費用がかかります。それは里親さんも同じです。正直、気が重くなりますが、考え方を変えれば、お金=エネルギー。何に循環させるかで、社会は良くも悪くもなる。これから私たちは良い循環を生み出すために、さまざまな企画にチャレンジしていくことにしました。
第1弾は10月4日(土)「うんこと死体の復権」くにたち上映会。関野吉晴さんの初監督作品です。会場はくにたち市民芸術小ホール。関野監督も駆けつけてくださいます。会場からの質問やご意見も受ける予定ですので、是非いまから予定を空けておいてくださいね。
そして、新たなご寄付のお願いも始めました。「未来をつくる人を、たすける人になろう」を掲げた「Syncable(シンカブル)」というプラットフォームです。
すでにご支援をいただいている皆さまにこんなお願いをするのは厚かましく、心苦しい限りですが、お気持ちだけでかまいません。想いを寄せていただくことが何よりもの励みになります。
このプロジェクトの物語は、記録冊子と記録映像としてまとめていきます。返礼品としての提供予定日を大幅にオーバーして申し訳ありません。記録冊子は「みらもりグッズ」と共にこの夏までにはお送りする予定です。記録映像は今しばらく編集のお時間をいただくことになりますが、必ず仕上げてお届けします。映像がまとまった頃、改めてこのプロジェクトを振り返る報告会を開催したいと思っていますので、お待ちくださいね。
最後にもう一つ経済のお話を。2025年3月、国立市議会定例会で二小改築工事の「契約変更」として約1,000万円の減額が報告されました。それは二小の改築に伴う45本の樹木の伐採伐根がなくなったことで執行されなかった予算だそうです。伐採にもこれだけの費用がかかることを私たちは初めて知りました。
名前の通り、私たちはこれからも、つづく、つながる未来のために、子どもたちが健やかに生きていける環境=杜をつくる活動を続けていきます。つながったみんなで一緒にできたら、どれほどの力になるでしょう。
どうか、共に歩んでくださいますように。今後とも、よろしくお願いいたします。
2025年4月30日 ~つづく つながる~くにたちみらいの杜プロジェクト一同
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