アニメータートーク アクション編②
vol. 27 2022-08-26 0
今回は、監督川村とアニメーター稲積のインタビュー後編です!
川村:
稲積さんの中で一番大変だったシーンとかありますか?
稲積:
アクションのラストシーンなんですけど、それは大変さの意味がちょっと違くて。2日で終わるはずのところが結局5日間かかってしまって、そのために土日も稼働してたんですよ。それで、途中僕がスタジオのカーテンを開けて外に出てくると、制作の内田あやめ氏が、ずーーーっと香盤の前に座って今後の香盤について考えてるんです。で、動かないんですよ、地蔵のように(笑)。明らかに香盤が押しちゃってるわけだから、僕もどんどん追い込まれていって...。クオリティを担保しようとすると自分が思っていたよりも時間がかかる。でも最後のアクションシーンですし、もうやりきらないといけないという気持ちと現実的な状況に挟まれて苦しかったですね...。
川村:
でも妥協はしてないですよね。
稲積:
そうですね。
川村:
それがすごいですよね。微に入り細に入り、全部絵になるポージングでアクションしてくれているから、どこを切り取っても美しいのは本当に素晴らしい。
稲積:
僕の師匠の及川功一さんは、とにかくポージングが美しいんですよね。その及川さんが「完璧なポージングさえできれば、アニメートなんて必要はない」ってかっこいいこと言うんですよ。
川村:
すごい。動いてなくていいんだ。
稲積:
止まっててもいいんですよ。実際僕が参加した「死者の書」という川本喜八郎先生の作品で及川さんもアニメーターをやってらっしゃるんですけど、最後になればなるほど、人形が動かなくなっていくんですよ。
川村:
究極だ。
稲積:
川本喜八郎先生の作品で「不射之射」というのがありますけど、要は弓矢の達人が、達人になればなるほど弓を打たなくても人を射つという話なんです。
川村:
バガボンドもそうですけど、最強の剣豪は剣を抜くことさえしないみたいな。
稲積:
はい。そのエネルギーを僕は若い頃にものすごく浴びていたので、最悪動かせなくてもポージングさえ決まっていれば、なんとか人がたぎるものができるんじゃないのかって気持ちはすごくあるんです。そういうのがコマ撮りの中ではおざなりにされているなって、ずっと思っていたんですよ。
川村:
わかるな。キーフレームとその他みたいなかんじになってて。
稲積:
そうそう!
川村:
今回は全フレームがキーフレームみたいなポージングにしてくれてるから、どこを切り取っても画角然りポージング然りすごいんですよね。
稲積:
そう言っていただけると嬉しいです。僕の中ではキーフレームが一番大事で、間はそこそこで大丈夫っていう考え方。セルアニメでいうところの原画ができるアニメーターと動画ができるアニメーターって種類が違うじゃないですか。僕は原画をやれるアニメーターになりたいと思っていて。それはやっぱり川本先生、及川先生に教わった「ポージングというキーフレームがすごく大事」というところからきていますね。コマ撮りの特徴っていうのは、1コマ1コマ積み上げることがベースだから、間のキーフレームを作って間を補うっていう撮り方ができないんですよね。
川村:
そうですよね、ちょっとずつ進めていかないといけないですもんね。
稲積:
ちょっとずつ進めて滑らかなアニメーションとかリアルな動きをやればやるほど、完璧なレイアウトからちょっと甘くなっちゃうんですよね。レンズにめっちゃ近づきたいのに、ちょっとずつ動かして滑らかにやると、最終的に攻めた絵にならないこともあるんですよ。僕は攻めきった動きにするのがアニメーションの全てだと思ってるんで、間がどれだけガタガタになっていようがそこまでいくって思ってやっています。
川村:
そこまでいくぜって気持ちだ。アニメーションする時のメンタルの構造というかプロセスが違うのかもしれないですね。
稲積:
そうですね、セルアニメ寄りというか。
川村:
いやー、なるほどなぁ。そのメンタルモデルはみんなに伝授したいですね。
稲積:
そうですね、今回アシスタントで来てくれてた陸人君には伝授しました(笑)
川村:
あーいいね!TEAM HIDARIには伝授していかないとね!
(アクションシーンでレンズギリギリまで寄れるのもコマ撮りならでは)
稲積:
そうですね!
動画が上手い人というのは五万といると思うんですけど、原画っていう考え方ができる人は少なくて。僕自身も自然に育ったらそんな考え方にはならなかったと思うんです。川本喜八郎先生、及川功一先生という偉大な先生方の教えがあったからこそ、この考え方ができるようになったんです。それが今回の左で開花できたっていう。感謝しかないです。
川村:
すごいなー。本番の撮影の時はドワーフの完さんが撮影監督として入ってくれてるけど、テスト撮影の時って、稲積さんがひとりで人形動かしながらカメラも動かしてたじゃないですか。
稲積:
そうですね(笑)
川村:
自由にやれるって天才ですね。頭おかしいと思いますよ(笑)人形動かしながらカメラも動かして途中でレンズ変えてたりとか全部やってるから。
稲積:
手描きアニメを作っている人とか、絵画を描いてる人のスタンスに近いのかなと思います。
川村:
そうですよね。それを単純にパペットと実写のカメラでやってるっていうかんじだ。
稲積:
そこに一軸、動きが加わってるっていうだけなのかな。
川村:
「だけ」っていうか、3人分のハイブリッドですけどね(笑)。これをメソッド化しないと、本編を作る時に稲積さんに全部のアクションシーンのアニメをやってもらうことになっちゃうから、なんとか考えないとね!でも今おっしゃっていた手描きアニメのメソッドに近いというのがヒントなんだろうなと思いましたね。
稲積:
あとはみんな写真をやった方がいいって思いますね。
川村:
構図的なことですか?
稲積:
構図の妙だったり、こうやったらこう写るんだっていうのをやりながら学んでいくと、過去の自分のダメだった部分を感じられて、それを経て構図の妙って出来上がってくるんですよ。その上で、じゃあ人形をどう見せるか、どうやってカメラを動かすのかを考えていくんです。コマ撮りやってる人達はアニメーションに特化してて、あまりレンズに興味がないなって思うんですよね。
川村:
僕は最初の頃に失礼なことを言っていたなと思うんだけど、こうしたくないというリファレンスとして、極端な話、止め絵でスタティックで、舞台の上で人形が動いてて、必要な演技はしてるけど絵的にフラットなものにはしたくないって話をしていたんですよね。そこから切り離すために、カメラは動かさないといけないし、レンズも変えないといけないし、妙なところにカメラが入っていたり手ブレ感を出したりしないといけないんです!って、それがどれだけ大変なことかわからずに言ってたんですよね。でもそれをグッとまとめて消化してくれたのが稲積さんだったんですよ。
稲積:
そう言っていただけると嬉しいです。
川村:
それをかつ、あの動かしづらいパペットでやってくれたっていう(笑)
稲積:
なんかあの、動かしづらい動かしづらいって散々言ってましたけど、どこが動かしづらかったか、もうもはや記憶がないくらい...
川村:
もう馴染んだ?
稲積:
いや、一生懸命すぎて、もう記憶がないっていうのに近いかもです。この1ヶ月の記憶、僕本当にあんまりなくて。そういうことあんまりないんですけど(笑)
川村:
1ヶ月ゾーンに入ってたんだ(笑)
稲積:
そうっすね、なんか黒いところにいたなぁって...(笑)
川村:
正しい(笑)
稲積:
で、なんかライト眩しかったなぁみたいな記憶なんですけど(笑)
川村:
なんかもう脳内はドーパミン出過ぎみたいな状況だ。やばいな(笑)
稲積:
一生懸命で楽しくて。苦しい動かしにくいみたいなのもあったんですけど、とにかく楽しくて、ドーパミンとかアドレナリンが出まくってたんで、どう動かしづらかったかは忘れちゃってますね。
川村:
制約とかチャレンジの塊みたいなあの人形を受け取って、稲積さんは常に「じゃあこれをどう料理してやろう?」っていうメンタルで向かい合ってくれてましたよね。通常の斬り方、ポージングもそうだけど、義手で戦うシーンで手の甲の紐が緩んでパシュン!ってなるとこ、「わかるぅー!!!でもそれやるー!?!?」って大興奮しちゃったもんね。あれを観て、あぁ、こいつはもうやる覚悟だなって思ったよ。八代さんから複雑な造形な人形というパスを渡されたら全部活かしちゃうんだな、みたいな。「こう動かして欲しいんでしょ」って感じたら、ちゃんとアニメに入れ込むじゃないですか。
義手の起動シーンの撮影の時も、もう撮影も後半戦に入ってて香盤は順調に押しまくってて、内田地蔵が香盤の前で立ち尽くしてるのに、あのシーン、めっちゃ時間かけて撮ってたじゃないですか(笑)
稲積:
あはははは!そうでしたねぇ(笑)
川村:
八代さんが途中でこの歯車を追加してくれちゃったから、ちゃんとそれも動かしてくれちゃったし、テスト撮影にはなかった、一回脱力してから起動する動きとかやってくれちゃってたり。動かしづらい、動かしやすいじゃなくて、人形が求めてる動きを「求めてくれてるじゃん、だから俺はそう動かすんだよ」みたいな気迫を僕は垣間見ていた気がする。
稲積:
まさかそこまで受け取っていただいてるとは...!
川村:
だからもうほっとこうって思って(笑)
稲積:
あははははは!
川村:
熱量がもうすごいから、しのごの言うよりも、好きなように動かしてもらって、そこの中で抜け漏れてるところだけをなるべく拾って言うようにしてた。照明とか動きのちょっとしたリクエストとか、でも2、3回くらいしか注文入れてない気がする。
稲積:
ありがたいことです。
川村:
いやいや、でもそのぐらいのものを出してくれてたから。いつもは大体細かく完璧に指示出すタイプなんだけど、自分にとってもいい成長にもなったし、それに応えてくれて200%上に行ってくれるチームに大感動っていうか。
稲積:
でも撮影、照明、みんながいて、僕ひとりじゃないですからね。そして何よりもやっぱり八代さんのあの人形ですよ。
今の話とつながるんですけど、テスト撮影に入る前に、殺陣の人を入れるかどうかの議論があったじゃないですか。
川村:
あったね、入れるか悩んだよね。
稲積:
僕は殺陣の人を入れるにしてもテスト撮影後にしたいって思ってたんですよ。なんでかっていうと、殺陣の人は当然ですが生身の人間なんで、動いていただくと生身の人間の動きになるんですよ。生身の人間の動きと人形の動きは違うって僕は常々思っていて、人間が動いたものをベースに人形の動きにしてくださいって言っても、それはできないんですよ。こういうとスピリチュアルな話になっちゃうけど、魂の部分から人形の動きで動かないと、人形の動きっていうのはできないんですよ。だから、殺陣の人を入れる利点はあるから入れてもらってもウェルカムだけど、まずは人形を動かさせてくれ、ポージングさせてくれって思ってたので、テスト撮影を急いでやらせてもらったんです。それって、僕にとっては、「八代さんに作りたい人形を作ってもらう」っていうのと同じなんですよ。
川村:
いい話や。。。。
稲積:
これは人形芸術で、人形から何を引き出すかっていう勝負なんですよね。八代さんが作ったあの甚五郎っていう人形は、とんでもないものを内包しているんですよ。それはなんで内包してるのかっていうと、やっぱり八代さんがアニメートのことを考えずに理想の人形というものを作ってくれたからなんですよね。そこに含まれているものっていうのは、もうアニメーション用の人形を超えた存在なんですよ。それを引き出すっていうのは、もうどんだけ引き出しても、底が見えない。
川村:
本当に甚五郎と対話しながらやってたってことですね。
稲積:
そうですね(笑)
川村:
お前の体の声を聞かせてくれ!みたいな(笑)
稲積:
いや、どちらかというと甚五郎が「お前、どのくらい俺のこと引き出してくれるんだい?」みたいなかんじで(笑)
川村:
あーーーなるほど、いいなぁなんか(笑)
稲積:
「君にはどのくらいの力があるんだい?見せてもらおうかな」みたいな(笑)
川村:
「お前の本気を見せてみろ」みたいな(笑)
稲積:
まぁ本当、甚五郎爺さんを満足させるために頑張りましたね。
川村:
いい話だなぁ。結果殺陣の人を入れずでいい方向に行ったなぁって思ってます。みんな手探りだったから殺陣の人を入れる必要があるのか?みたいな議論になったわけだけど、殺陣の人を入れてたら、もしかするともう少し保守的な動きになってただろうなぁとか、ここでこんなアクロバティックな動きはさせてないだろなぁとか思うと、純然たる人形をどう動かすかっていうのを稲積さんと積み上げていけてよかったなぁって今聞いてても思う。八代さんの魂を受け継いでゼロから人形で動きを作っていって、すごくいいバトンのつなぎ方をしたよね。そのバトンのつなぎ方が全工程であったっていうのがすごい。
僕の雑なキャラ原案から始まって、小川さんの絵があり、八代化した立体があって人形が出来上がり、アニメーター陣がそれを更に斜め上に動かしていって、ここに至ってる。当然、撮影、照明、美術、空間、小道具もあるわけだけど、全員が全員200%でやってきたっていう。
稲積:
なんか、気持ちの良いマウンティングですよね...。
川村:
そうそうそう!俺の方がやったったぜ〜みたいな(笑)。もうだから俺なんて最底辺よ。どんどん上書きされてくから「みんなもう好きにおやり!」みたいなかんじで気持ちよくやられていってるよ(笑)
でも本当、すごい小さかった種をみんなが大樹に育ててくれてる感っていうのはあんまり体験できないことなんで、それはそれですごく気持ちいいことですけどね。普通どこかでつまずいたり止まったりするんだけど、そういうのがなくここまでこれてるからすごく幸せな現場だったし、まだパイロット版の制作途中だけど、間違いなく見たことないものにはなってるし。
稲積:
僕は川村さんのドラマパートが早く観たいですね〜。
川村:
今回散々切られていったドラマパートね(笑)
稲積:
散々時代考証調べて資料もしっかり作られてたのに、今回は尺の関係でカットされちゃいましたもんね。そこはもう川村さんのクレバーな部分がもうふんだんに活かされるものができるんだろうなと思うと...
川村:
いやーわかんないよ、2時間バトルアクションになる可能性もありますよ?(笑)
稲積:
あはははは!!!
川村:
もうそれがいいんじゃねえ?って(笑)
稲積:
それは...!それはそれで伝説になりますけどね!(笑)
川村:
そうそう。もうマッドマックス 怒りのデス・ロード的なかんじで、「ドラマあったかなぁ?わかんないけど、まぁ走りきったよねぇ!」みたいなかんじ。いいんじゃないかな(笑)
稲積:
いやーーーなんかそれ、すごい左っぽいんですけどね(笑)
川村:
まぁそうなったら稲積さん、3年拘束ですよ。
稲積:
全部アクションだったら3年どころじゃないんじゃないかな。
川村:
確かにそうだね。作り方をなんとか考えないとやばい(笑)でもみんなドラマよりそっちが欲しくなっちゃうかもしれないなぁ(笑)
稲積:
話広がるしスピンオフもいろいろ考えられちゃいますね。
川村:
そうだね〜!まずは今回のパイロットで世界を驚かして、長編を作れるようにしないとですね!
今回3分にアクションを凝縮したおかげで、こんなかっこいい「ストップモーション・アクション」っていうある種の謎ジャンルが生まれたのはある種の発明ですよね。ジャパニメーションxストップモーションみたいな。ここで見えてる新たな兆しをどう膨らましてこれから育てていくかですね。左以外にも活かせる可能性はあるし、これを牽引していくアニメーターとして稲積さんにはどんどん羽ばたいていって欲しいですよ!
稲積:
ありがとうございます。魂はもう甚五郎に売りましたよ(笑)