アニメータートーク アクション編①
vol. 26 2022-08-24 0
今回は、公開中のテスト映像をはじめアクションシーンのアニメーションを担当した稲積と監督川村のインタビューです!(1ヶ月に及んだ撮影が終了し、甚五郎ロスがひどい...とのことです)
川村:
人形は木彫で、アクションもので、カメラも動かすっていう今回みたいなプロジェクトは、僕にとってもどのアニメーターにとっても、きっと初めて挑戦するようなことだと思うんですけど、今回は稲積さんをアサインできたというのが最大の勝因ですよ!だって稲積さんは過去にこんなアクションものとかやってたわけじゃないですよね!?
稲積:
初ですね(笑)
川村:
なんでいきなりこんなものができたの!?(笑)
稲積:
原体験の話になるんですけど、僕、小学校高学年から多分中二くらいまで、同級生たちに隠れて人形遊びをしてたんですよ。ティッシュでムキムキマッチョの人形を作って戦わせてて。殴るとかやると、ティッシュなんで徐々にボロボロになっていくし、日々遊んでいくとボロボロになって最後は満身創痍な宇宙戦艦ヤマトみたいなかんじの人形になってく。それが美しいって思って僕はひとりで遊んでたんですけど、友達がくると、そんなことやってるって知られると恥ずかしいし女子にモテなくなるから、引き出しの奥底に隠して...みたいなことをやってたんですよ。多分その時の熱が、抑えに抑えられていた熱が...
川村:
あぁ...爆発した...
稲積:
はい、爆発したんだと思います(笑)
川村:
すごい!なるほどね。
稲積:
ゆくゆくは自主制作とか自分の作品で世の中にアプローチしたいという気持ちが昔からすごくあって考えているんですけど、それってやっぱりバトルものなんですよ。
川村:
あ、やっぱり!
稲積:
バトルもので、剣を持っていて...みたいなものなんですよ。その下地を掘り起こしていくと、やっぱりティッシュの人形で遊んでいたからなんだと思うんですよね。
川村:
原体験に立ち返るかんじだね。
稲積:
小学校の頃にやっていたことや、得意だったり入れ込んでたことを職業にするとその人は輝くっていう法則、僕はあるなと思っているんですよ。
川村:
なるほどね。その時はコマ撮ってたわけではなかったんだよね。操演じゃなくて、ブァー!グァー!って遊んでたんだよね?
稲積:
そうですそうです。ティッシュを丸めてセロハンテープでムキムキマッチョくんを作って。甚五郎みたいに上半身がムキムキで、下半身はほっそりしてたから、今思うと甚五郎のフォルムと似てた人物を作ってましたね。
川村:
すごいな、そこから始まってたんだ。
稲積:
でもそもそも恥ずかしい記憶だから、この話も忘れてたんですよ。
川村:
ちょっと封印してたんだ。
稲積:
無意識的に封印してたんだと思うんですよ。友達が来たら引き出しの奥に人形をしまうがごとく。
川村:
すごい、もうこれだけで3時間話せるよ。
稲積:
あはははは!そうですね。
それでこのことに気がついたのは社会人になってからですね。コマ撮りのプロとして2、3年目くらいになった時で、「あ!あれ?そういえば...昔人形遊びしてたわ...」みたいな。
川村:
あれが始まりだったのかって気づいたんだ。
稲積:
はい。今回はそのコマ撮りに、更にアクションものというのがついたんで、多分僕の中の何か封印が解かれたのかも。
川村:
そういうことかー!でもすごいよね、きっかけというか起源があるにせよ、その封印が解かれていきなりこんなレベルのアクションコマ撮りが撮れてしまうというのは、なかなかのミラクルですよね。
稲積:
ほんとですね、ミラクル。
川村:
あ、自分でもびっくりしてる系?(笑)
稲積:
いや、びっくりしてますね(笑)
川村:
やったらいけたー!みたいなかんじだ(笑)いや、テスト撮影の時から既にすごかったしね。
稲積:
いけたという感じよりかは、頭の中にイメージがあって、こういうのって新しいな、自分の作品でいつかやりたいなっていうのがありましたね。バトルものではないんですけど、仕事でもカメラワークとかレンズ感とか、スローモーション入る感じとかそういったことはちょいちょいやってたんですよ。だからイメージは明確にありました。
川村:
なるほどね。その読みはあって、やってみたらいけたっていうことなんだね。僕はこの機会を稲積さんに与えられたことが嬉しくてしょうがないよ。もう、爆発させてくれたよ!
稲積:
僕を呼んでくれた松本さんの読みが恐ろしいなと思いますね。
川村:
その嗅覚よね。「絶対チャンバラとかやらせたらすごいと思いますよ川村さぁん!」みたいな感じで言ってた!じゃあ稲積さんにお願いしようってなったら、あのとんでもないテスト映像が上がってきたからなぁ。
(スタッフも驚愕したテスト映像)
稲積:
ありがとうございます。それは委ねていただいたからですよ。
川村:
僕はアニメーター的なことができるわけじゃないから、そこは丸っと委ねることしかできないからね。ディレクターとしてのコマ撮り歴自体もそんなに長いわけじゃないし、そもそもコマ撮り歴って言えるほど多くの作品を作ってきてるわけじゃないし。
この作品をやりながらディレクションの仕方が整理できてきたんだけど、バレエの舞台をディレクションしてるような感じに近いのかなって思ってて。2D/3Dのアニメーターに指示を出してるんじゃなくて、役者に演技指導してる感覚の方が近くて、ここを間違うとダメなんだなって気づいたんだよね。アニメーションみたいにちょこちょこ直しながらじわじわアップデートしていくんじゃなくて、思いの丈とか演技の方針とかを役者さんに伝えるようにアニメーターさんに伝えて、そのアニメーターさんが自分の肉体の代わりに人形を演じさせるみたいな。先に決めのポーズとかアングルは一緒に決めていくけど、間は「お願いします!」って放置する方がいいっていうプレイスタイルになった。
稲積:
おもしろいですね〜
川村:
でもそこまで委ねられる才能というのもすごいと思うんですよ。稲積さんとオカダさんに本当にリードしてもらって、この複雑なアクションシーンを仕上げていただいて。「ザック・スナイダーのさ、ウォッチメンの、ギューン!っていってバキューン!みたいなシーンの〜」みたいに擬音でばっかり言ってたのを見事に昇華してくれたじゃないですか。
稲積:
いえいえ(笑)
川村:
でも上がってきたものはザック・スナイダーとも違う。左のプロジェクトを始めた時に、いろんな侍モノとかのリファレンス画像をまとめていて、無意識的に鬼滅の刃の画像を入れてたんだけど、それを見て稲積さんが「これだ」って思ってくれてたって前に言ってたけど、そこを膨らませてくれたのがよくて。やっぱりザック・スナイダー系って洋物臭がするんだけど、ジャパニメーションではないじゃないですか。バキューンっていうワイドレンズ感だったり、無茶なパースや誇張とか、金田伊功になってない。それをちゃんと伸ばしてくれてるというのがすごいよかったんですよね。それはある程度イメージが描けてたってことなんですよね?
稲積:
うん、今まで見てきたものの記憶があって、イメージはあったっていうかんじですかね。今回アクションをやるってなった時に、スライドにも鬼滅の刃はあったし、木彫で時代劇となったらやっぱりジャパンカルチャーだなと思って。で、ジャパンカルチャーといえばアニメだろうと。じゃあアニメのアクションってどうなんだ?ってなると、世界一じゃないかなって常に思ってたんですよね。その文脈にのっとるためにはどうすればいいのか?っていうのをすごく考えましたね。
川村:
僕は最初の頃からアクションシーンではカメラをグルグル回したいと言ってたんだけど、みんなで話してるとそれは工数的にすごく大変だし、カメラは横方向にだけ動くようにしようかとかひよった頃もあったんだよね。でもそのひよりを横目に、「1投げると10返ってくるチーム」ならではの化学反応が発揮され、すんごいテスト映像が上がってきた。あれはどういうプランで撮っていったの?流れで撮りながら「この辺でこういうポーズしたいなぁ」的なキーフレームみたいなのものを決めながら間を動かしていったの?
稲積:
最初はそういう予定だったんですよね。テスト撮影の1日目、まずは甚五郎という人形に慣れるためにいい感じのポージングを探ってみたんです。川村さんが描いてくださってたアクションシーンのプランがあったので、2日目くらいからは、あれをベースに要所要所カメラを置いてアングルとポージングを探っていこうと思ってたんです。それで最初のポージング作ってみて、ちょっと動かしちゃおうかな...って思って少し動かしてみたら、動かす手がもう止まらなくなっちゃって(笑)。
川村:
あはははは!すごい、封印が解かれた(笑)完全に解放されてる(笑)
稲積:
ここで一旦切って次のポージングにいくっていうのが、もうできなくなっちゃって(笑)
川村:
もうバイブが止まっちゃうな〜ってかんじだ。
稲積:
もうすごい波に乗っちゃったなっていう感じで(笑)
川村:
結局一連で動き撮り切っちゃったもんね。
稲積:
そうですね、もう撮りながら考えてたかんじですね。こう動いてきたらこのままこういこう、このままグインていっちゃおう、拳吸着してこう回しちゃおうとか。
川村:
勢いと熱量だ。
稲積:
日頃からアニメーションをやってる時に持っている感覚なんですけど、観客が映像を見終わった後の気持ちを一から作っていってる感覚があるんです。1枚撮るたびにひとつの感情を作って、また次の形を作っていくみたいなそういう感覚があって。元々いろんなプランを考えてひとつのカットに取り組んだりするんですが、一番大事にしているのは、人形が予想だにしない動きをした時に、それをいかに拾って最初のプランを変えていけるかっていうことなんですよね。
川村:
なるほど。役者の現場でのアドリブ的なのと一緒ですね。
稲積:
そうですね。そういったものをピックアップしなければ、ただ単純に面白いものを超えていけないっていうかんじが常にあって、今回はそのスキルが活かされたんじゃないかなって思います。
川村:
いやー今回めちゃくちゃ活かされたんじゃないですかね。
稲積:
「こう斬ったら次カメラはこう回って、こういうアングルで斬りたいよな」っていうのが先の方にぼやっと見えてて、アニメーションさせてみて、そしたら「こう動いたら、こっちの方がいいな...」って変えていったりとか。
川村:
素晴らしいですね。僕もアクションシーンのコンテをそれっぽく描いてたけど、稲積さんいい具合に無視してくれたなって思ってます(笑)
稲積:
あはははは!すいません(笑)
川村:
いやいや、最初の方だけコンテの片鱗はあるんだけど、いいかんじに更に斜め上にいってくれたんで!でも稲積さんがやってくれたプランの方が絶対よかったと思って見てたんで、ありがたいですよ。普通だと、コンテがあったりするとそれに捉われちゃう人もいるじゃないですか。
稲積:
そうですね。僕の中であのテスト映像は、一応名目としては「叩き台」っていうかんじだったんですよ(笑)。とにかくこれをベースに川村さんや育さんと一緒に考えるための叩き台を作るぞっていう気持ちだったんですよ。叩き台だから自由にやるぞ!っていう気持ちですね(笑)
川村:
コンテに捉われることなく、俺だったらもうちょっと面白くできるっていう勢いで更に上にもっていけたのがよかった。その無言のパス回しが功を奏したなと。どんどんハードルが上がっていく一方だったけど(笑)
稲積:
あはははは!蓋を開けてみたらそういうチームになってましたね(笑)
川村:
だってさ、できたテスト映像を再現するだけでも1ヶ月の撮影期間の香盤入りきらないかも!ってプロデューサーチームが言ってたくらいなのに、結局尺めっちゃ増えてるもんね(笑)。お互いに盛り合う、恐ろしい、素晴らしいチームだなって思いますよ。
(つづく)