古材を使ったセットデザインについて②
vol. 24 2022-08-19 0
能勢:
ちなみに床材は浅草のギャラリーエフさんが、有形文化財の蔵を併設するギャラリーを解体する時にお伺いして、古材を譲っていただきました。譲っていただいた床材、全部使い切りましたよ。
能勢:
最終的には今回のために少し製材しましたけど、この蔵は甚五郎が生きていただろう江戸時代の慶應4年に建てられたものらしいですよ。
川村:
本当に江戸時代の頃に使ってた木材をそのまま江戸を舞台にするセットに生まれ変わったっていう。めちゃくちゃ綺麗な話やな。。
能勢:
あとはセットを二つ作るのか問題*もありましたね。古材にこだわるっていうコンセプト的にも無理があるし、小道具も2セット必要になるから難しいって判断を僕がしたんですけど。
(注:香盤的に2セット同時進行で撮影を進めたかったので、セットも2つ必要か?という議論があった)
川村:
どのぐらいの何なら作れそう?って話になった時に、周りとか作り込めないけど床材だけなら何とかなるって言われたから、じゃあバトルシーンはスポットライトにしようっていうのを僕が言ったんですけど、結果それは大成功だったと思ってます。
バトルシーンはちょっと心象風景で、ゾーンに入った甚五郎を描くイメージで、ちょっとスポットライトになって戦うということにしたら、逆に結構自由度が増したっていうか。セットを作ってしまうと、逆に見切れてしまったり、カメラも今ほど動き回れてないでしょうし、単純にカメワークをどう作るかみたいな制限が多くなってしまったかもしれない。そう考えると、「セットを二つ作れない」という制約が、逆にありがたかったなっていうのが今振り返って思うところですね。
能勢:
ひとつ大きかったのは稲積さんのテスト映像ですね。稲積さんのテストを見て、こんなに面白いアクションを美術で制限しちゃいけないなって思ったんですよね。稲積さんのAステージの美術は床だけなんだけど、全部上手い方に転がったなと。
川村:
すごくいい道筋を見つけたなあと思います。
能勢:いろいろいい方にいきましたね。
あと壁を入れるか入れないか議論になった時に、壁を入れない理由のひとつに予算の問題もあったけど、結局抜けにそっと柱を置くだけで、その空間の広がりが見えたりしてて、これもいい方向に転がりましたね。
川村:
不思議ですよね。壁も仕切られてないんだけど、ちゃんと部屋に見えているし、うまく小道具を配置したり照明を入れることで、遠近感が出て広くも見せられてるから、謎なんだけど、空間として信じられるものになった。
能勢:
謎なんだけど、ビリーバブル。かつバトルシーンのゾーンに入った時との繋がりも良くて、同じ世界として繋げられてるんじゃないかなって思ってます。
川村:
ディテールも効いてるもんなぁ。この梁とかも釿(ちょうな)で削ったの?
能勢:
そうそう。僕のこだわりっちゃこだわりなんですけど、ちょうど良い梁材って長野に行ってもやっぱりないんですよね。それで、津久井湖とかダムとかに流木を拾いに行って、それをはつって加工してるんすけど。ちなみに「はつり」って何かっていうと、釿(ちょうな)でひっぱたいて木を加工するっていう昔ながらの方法なんです。
川村:
誰に頼まれたわけでもなく、あえて釿(ちょうな)という誰ももう使ってない道具で(笑)
能勢:
でもここがビシッとまっすぐの材だったら、僕は本物じゃないって思うんですよ。それがどれだけ画角の中に入るんだ?ってのはあるんですけど、でも絶対違うんですよね!
あとはその構造と、材料のあり方とかも考えて、本当に構造として機能する梁材をこのスケールで表現するのにどうしたらいいかってなったら、もうその梁を作るしかなかったっていう感じです。
川村:
飾りじゃなくて、ちゃんと本当に支柱として機能している梁ですからね。
能勢:
それでもやっぱりいい感じの丸太とかってなかなかなくて、なんとかかんとかうまくやりましたねぇ。
川村:
構造的にも見た目にも大事なんすけど、梁が機能してないと駄目だって言ってたみたいに、僕らが今、俗称「アニメーターの穴」「お風呂」って呼んでる穴があるじゃないですか。パカッて外れる床板みたいな。あとはセットが半分にパカッて分かれるとか、あの辺の設計はどういう流れで今の形になったんですか?
(左右に分割できるセット)
能勢:
セットを半分に分かれるようにしてたのは、トラックに乗らなかったという問題もあったりするんですよ(笑)
「お風呂」に関しては、単純にやっぱりアニメーターの手が届く範囲っていうのは限界があるんで、それを考えた結果ですね。
川村:
ストップモーションの場合は、人形を置ければいいだけじゃなくて、人形を置いて、演者の人の手がちゃんと届いて、ポーズつけて、アニメーターがちゃんと逃げられるようになってないと撮れないっていう...特殊ですよね。
能勢:
セット分けたり、「お風呂」準備したり、こんだけやっとけばアニメーターは何とかアクセスして対応できるだろうっていう形にしたかんじですね。
川村:
それでもオカダさんは大変そうですよね。穴の中で、穴のヘリとカメラと美術と、何かいろんなものを挟まれながら頑張って、ちょっと動かして、カメラに映らないようすぐに逃げる。アニメーターが下に隠れられないといけないいけないから上げ底になってるんですよね?
能勢:
そうですね。最初の頃に、アニメーターがどうやってアクセスするかを話してた時に、床置きだと体勢がきつくなるから、長期間の撮影ということも鑑みて上げ底にしようみたいな話をしてましたよね。今回は一般家庭のテーブルと同じ高さで、700mmにしています。
川村:
なるほど、ちょうどいい高さだったんですね。でも天井ギリギリでしたね(笑)
能勢:
そう!二階建てにしたらライト入れられなかったから危なかった(笑)。TECARATは天高が高いから、あそこでセット建てて見てた時は、上はまだまだ余裕だなって思ってたんだけど。ドワーフに移動して建ててみたら、上がパンパンになっちゃって。横幅もスタジオのサイズギリギリですよね。
川村:
現実世界でいうと8畳ぐらいなサイズだから結構でかいですもんね。
能勢:
そうです。このセットは4m×4mのサイズで、4.5分の1スケール。
川村:
絶妙な比率ですね。
能勢:
変な比率ですけどね。
川村:
いやーでもこの世界は、目に見えるものがちゃんとデザインされてますね。お宝たちも、おかげで豪華絢爛さが出ましたよね。
能勢:
桃太郎とか出てくる「金銀財宝」って、結局実際何なんだ?みたいなのがわかんないから、とりあえずそれっぽいものを何個か買ってみて並べたら雰囲気つかめるかなと思って集め始めたんですよ。
川村:
犬丸の後ろにある金屏風も見つけたんでしたっけ?
能勢:
金屏風は、五月人形にくっついてきたやつですね。
川村:
たまたまちょうど良いサイズで、あれはあってよかったなと思ってます。犬丸自体は小さいから、何か背景というか、壁が必要だけど、ただの壁にはしたくないねって話してたしね。
能勢:
金屏風バックってのも、悪い奴って感じしますよね。犬丸の背景としてちょうど良かった。
金屏風も含めて小道具周りはいくつか買って並べてみて、この方向でいけるなって掴めてきましたね。
川村:
素晴らしい。そういえば、買った米俵があったけど、藁編み込んで、新たに手作りしてましたよね。あれは数が足りなかったんですか?
能勢:
あれね、素材がビニールだったんですよ。やっぱり、ゴザのあのパサパサした質感とかがね...ほしいじゃないですか...
川村:
こだわるなあ...!やっぱりミクロの世界だから、材質出ますよね。そこをちゃんとこだわらないとって思ってくれるのが本当に正しいし素晴らしいことだと思いますね。
能勢:
ありがとうございます。そうなんです。綺麗だからこれでもいいんですけど、ちょっとCGっぽいんですよね。作ったものの良さもCGの良さもあると思うんすけど、やっぱり米俵らしさというか、あのバサバサッとした質感の方がいいから、そんなに手間もかからないし作っちゃいました。
川村:
あと、セット外の奥に、提灯ついた柱とかだけ置けるように、自由に動かせる柱を何本か用意してもらいましたよね。それで奥行きがまた生まれた。
能勢:
そうですね、まだ部屋が繋がっているように見えるようになった。でも今のセットの良さって、照明の効果も大きいな~。
川村:
反射とかもすごい綺麗ですもんね。何年も踏みしめられ黒光りしてる感じの床みたいなのがすごくうまく出てる。今回照明はもちろん普通に入れてるわけなんですけど、江戸時代だからってわけじゃないですけど、間接照明とか提灯とか、なるべくそこにあっただろう光で作ってる感じにしようって話してて。トップダウンじゃないから、ちょっとした木材の凹凸や削り跡とかがすごい効いてると思うんですよね。表面がトゥルンとしてなくて、ちゃんと質感を感じる。やっぱりこだわっていただいたおかげだなって思います。
能勢:
ありがとうございます(照)