古材を使ったセットデザインについて①
vol. 23 2022-08-17 0
今回はセットデザインについて、監督の川村と、美術を担当しているTECARATの能勢のインタビューです!
川村:最初に八代さんがセットのリファレンスを集めてくれたり、コンセプトアート的なものを描いてくれたんですよね。
川村:
八代さんから「完全に厳密な日本家屋の作り方を守らなくてもいいから、エッセンスをうまく混ぜて、実は建築的には正しくないかもしれなくても、雰囲気としては正しいものがいいのでは」という問いかけがあって、それにみんなで納得してスタートしましたね。今のセットを見てると、その通りになったようなかんじもしますよね。
(「正しさに頼らない」が合言葉に)
能勢:
確かにあの頃の会話の内容は間違いなく残ってますよね。
川村:
今のセットも、撮影上都合いいように梁とか配置してるけど、全然リアルに見えるっていうか。セットは、リアルな正しさに頼らない「自由解放宣言」みたいなところから始まったけど、最初に能勢さんに描いていただいたプランは、今思うとめちゃくちゃ野望に満ち溢れてましたね。甚五郎が敵の本拠地に乗り込むみたいな話にしてたんだけど、庭とか裏山とかも描かれてて、これは大丈夫なのかみたいな(笑)
能勢:
そうですね、何から考えていったらいいかなと考えた時に、まず設定を考えないとかなって思ったんだよね。どういう土地なのか、どういうところに建ってるのかとかを探り探りやっていったかんじでしたね。
川村:
この世界観があったからちょっとずつ絞り込んでいけた感じもしていて。確かに庭があるといいよね、甚五郎が入ってきた扉の抜けが満月の夜の庭だといいよね、壮大だな〜、でもそもそも現実的に庭まで作り込めるのかー?みたいな、いろんな話をしましたよね。
能勢さんには作り始める前にリファレンスとなるような資料をいろいろと集めていただいて、みんなで見ながら「これ近いね、あれは違うよね」とか言いながら詰めていってて。いろいろ話した結果、庭とか外のセットはなしにして、まずは主戦場になる場を考えようっていう話をして。
川村:
こういうリファレンスはめちゃくちゃ参考になりましたよね。土壁とか、木の梁とか、なんか古い使い古されてテロテロしている表面になっちゃってる木とか。
能勢:
懐かしい。この頃から、古材使いたいね、みたいなことは言ってたんですよね。
川村:
この間の道具箱の時にも話したけど、やっぱり質感が作れないですからね~。いい選択だった。
能勢:
何度も言っちゃいますけど、作られたものって、どうやっても何百年もの質感には敵わないんですよね。新しいもの買ってきて、エイジングを施してっていうのじゃとてもやっぱり敵わない良さを古材は持っていて、その良さがカメラにも映る。例えば大きいハンマーで叩いた跡みたいなものって、今回のスケールだとめちゃくちゃでっかいハンマーで叩かれた跡みたいなことになるんだけど、それはそれで質感のひとつと捉えるっていう考え方で作ってました。
川村:
そういうサイズ感の違う跡みたいなものもちゃんと効いてるし、別に違和感なかったんですよね。ノミの跡とか、削り跡とかが、実際の縮尺で考えると、この世界においてはデカ過ぎちゃうんだけど、でも気にならず、見えているっていうのはすごいバランスだなと思って。
能勢:
ということで古材集めしてきたんですよね。
川村:
これ、古材の天国ですね(笑)
能勢:
山翠舎さんていう古材専門の会社さんで、多分ここが日本で一番大きいんじゃなかな。長野県大町市、この時はまだ雪が降ってました。
川村:
うわーすごい!日本で古材といえばここに行けというかんじだ。
能勢:
大きさで分かれて置かれてるんですよ。3寸角、5寸角、板材コーナーみたいなかんじで。
川村:
じゃあもうサイズで目星つけていって、あとは掘りまくって気に入った質感を探すみたいな。
能勢:
そうですね。都内だと置かれている木材の数が少ないから、とりあえずは一度材料を見てみたいというか、素材がいっぱいあるところで材料ディグりたいなと思ってここに行ったんです。材料ありきで、出てきた材料の寸法合わせでセットを作っていこうっていうのが一番初めに考えたことですね。
川村:
特にやっぱり柱とか、生のままの木を使うものを基準にしてるみたいな。
能勢:
そうです。逆に通常の美術セットを作る時みたいに、図面をきっちり描いて、何寸角何本とか、色はこの色でみたいな詳細を決めてからその材料を探すっていうのは今回においては至難の技で、だからその順番を逆にしたんですよね。普通のいつものデザインプロセスと逆の方法をたどって、材料を先に見つけて、この材料を使って作れるセットはどんなものかを考えていった。
川村:
なるほど。それはやっぱり材質感というかテクスチャー優先で?
能勢:
そうですね、テクスチャー優先で考えてた。じゃないとできなかったっていうか、そっちの方が面白くなりそうだなって思って。
川村:
木を集めていく一方で、スタディ模型を作ってくれたんですよね。庭を作る野望を捨てたと思ったら、3階建ての模型になってて、高さ方向に伸びたなー!みたいな(笑)
能勢:
最初の頃はローアングルの絵とかも多かったし、高さあった方がいいんじゃないか?って話もありましたよね。
川村:
うん、あったね。でも3階建てはもう巨大建造物みたいな感じでしたよね(笑)
能勢:
結局この1階部分だけになりました(笑)
川村:
そうですね(笑)。でも模型で見れてよかったですよ!全部実現したいと思ったらこういうことになるんですよっていうのを見せてもらえたので。
能勢:
うん、見せたその日のうちに、「ここはいらないね〜」「そうですね〜」って会話できましたもんね。
川村:
「そこまで労力かけるのやめましょう!」ってなった(笑)
でも、「300」とか「マトリックス」みたいにカメラワークを動かしたい野望もあって、それを最初から言い続けてたから、美術セットのどこまでを作り込むかとか、上の階を作り込むかどうかとか、かなり悩ましかったですよね。
能勢:
絵で詰めていくのが、今回すごい難しくて。セットがどんなものかを探るのに、一回模型作っちゃえ、その方がいろいろ見えていいんじゃないかなって思ってこの模型を作ったんですよね。でも概ねスタディー通りのセットになりましたからね。
川村:
セットの話をし始めた頃に目標としていたところに絵面的には辿り着けたから、僕としてはプロセス的に間違ってなかったなと思ってます。
初期はムードボードの中に襖壁とか土壁とかがあって、それを見て、壁は必要なのか作らないのかを議論しましたね。実際に壁の代わりにカポックを置いてみて、模型の中にiPhoneを入れて雰囲気を見てみたら狭く感じちゃったりとか。あの模型があったから、体感ですごい理解できたと思う。
川村:
それで、いっそ抜けは暗く落として、壁とか襖の代わりに、犬丸組が盗んできた宝物とかが積まれてる倉庫にして、壁じゃなくて物で空間を作ろうっていう話になった。結果、空間を作るだけじゃなくて、こいつらが色々なところからかっぱらってきてる感が出せたのがすごくよかったですね。
能勢:
そうですね。そしてこの後お宝探しになったんですよね(笑)。みんなで話してて、セットに置くお宝を作るより探した方がいいんじゃないかって話になって、五月人形とかいろんなミニチュアをメルカリで買ったりネットで探したり。
川村:
「よく見ると...もしかしてアレじゃね?」みたいなのがあるのは楽しいかもしれないですよね。実際ミニ仏像があったり、壺とかよく見てみると縮尺が違うから犬丸の世界では巨大壺って設定にして許すか、とかね。
能勢:
そうそう(笑)縮尺とかを本当正しさに頼らないで、むしろ質感とか雰囲気を大切にしましたよね。
川村:
そうですね。全然バレてないし、むしろ当たってたような。
(つづく)