犬丸と手下たちの造形について
vol. 15 2022-07-29 0
今日はキャラクター造形について、監督の川村×木彫人形制作を務めた八代のインタビューをお届けします!
川村:
大男である甚五郎に相対して犬丸はチビで、でっかく顔に「犬」って描いてあるっていうオーダーを小川さんに出してたら、チビゴッドファザーみたいなのが上がってきたんですよね。最初は、虎を連れてるから犬丸は虎柄のコートを着てるとか、そういう話もしてましたね。それで悪役感をどういうレベルにするかでいろいろ悩んだ結果、あんまかっこよくない方がいいんじゃない?っていう話になって、ちっちゃいんだけど、なんか極悪みたいな、そういう変なキャラにしようぜって話になったんですよね。
八代:
犬丸はこのイラストが一つのキャラクターバイブルとして比較的はっきりしていましたね。甚五郎と同様に木の首は活かしていこうとか、毛皮のファーはどうしようとか、立体にする上でのトライはあったけど。犬丸に関しては、僕としては意外と小川さんのスケッチをそのまま作ったらこうなったみたいなかんじでした。
川村:
なんか素直に八代化してもらったかんじがします。
八代:
造形的に悩んだのは、衣裳のファーを首元の木のからくり構造の中に入れるか外に入れるか、その辺くらいですかね。
川村:
この時点では甚五郎の人形がほぼほぼできてたから、この世界で生きている木彫の生き物たちはこういう感じなんだってのが見えた上で、犬丸の造形に移れた感じですよね。でも絵と比べてだいぶ凶悪になりましたよね〜
八代:
でも実は小さいかわいいおじさんって部分も併せ持ってますよね。眉が飛び出してるので、ぱっと見ると眉が目にかかって凶悪なんだけど、眉が目にかからない角度だと少し可愛く見えるんです。川村さんに見てもらって、マイルドな方がよさそうなら、眉がかからない下からのアングルを多めにして、この怖さがよければ、伏目のアングルを多用して撮影してもらおうかなと思ってました。
川村:
なるほどね
八代:
今回人形を作ってる時に調べてたんですけど、能面って、光の当たり方で表情を出すって言われるんだけど、ちゃんと演技のやり方に名前がついてて。顔を上を向けるのを「テラス」、下を向けるのを「クモラス」と言うらしいんです。偶然ではなく意図的に角度を精密にコントロールするんです。それを知った後に犬丸の制作に取り掛かったので、表情を造形で作り分けなくても、角度で変わるようにすればいいんだと思えるようになって、一気に迷いなく作れました。
川村:
犬丸って「悪いチワワ」って呼んだりしてたぐらいで、スケール感的にも既におもしろいし、すごいキャラ立ちしてるなって思う。この隈取も相当うまく入れてもらえてて。
八代:
当初彫りながら少しずつこの模様を描き入れてたんだけど、彫りながら作業してる途中で、この隈取りは黒く中に落ちてると面白いかもって思って、模様も深く、大きくしてみました。
川村:
悪役によくあるような、すごい不健康そうなやつみたいなのがうまく出せた感ありますね。あとしゃくれ顎ね。かわいい。
八代:
これを作ってた頃にVコンの後半も出来てきてて、犬丸が「お前、甚五郎か!?」って言ってるシーンは、小川さんが描いた絵もちょっと劇画タッチっぽく描かれてて。この表情、驚きはどうやって出せばいいかな?なんて思ったんですよ。それで、まだ彫刻の途中のタイミングでドワーフの原田くんと、昼飯食べながら目玉の作り方の話になって、原田くんが知ってるやり方と組み合わせたら、目玉が飛び出る構造を作れるな、あの驚いた顔に使えるかもって思ったんですよ。
川村:
いや、やばいっすね。目玉が出ることで表情が相当リッチになるっていうか。目が飛び出すっていうのは漫画表現ではあるけど、奥行きを使ってまさか目を出すとは。パペットでマジで目が出るんだなっていう。
八代:
犬丸は目の周りがちょうど黒いから、目を出したり引っ込めたりする時に普通は見えると不都合な構造も目立たずに目玉を飛び出させられるし。思いついちゃった!と思って。
川村:
それもすごいっすよね〜。あと顔に目が行くんですけど、体の構造もすごいなと思っていて。真っ当に作るとこういうバランスにならないようなことを、いい具合ではしょってくださって、必要最小限でこの悪者を表現していただいている。
八代:
中はあまり人形の形してないですね。
川村:
でもね、外のフォルムで見ると、きちんと完成されてるのはすごい素敵な端折り方だ。めくるとちょっと恥ずかしい(笑)
川村:
あとあのキセルすごい良かったっすね。本当のキセルと同じように作ってるんですよね?
八代:
うんちょっとキセルを〜って上野くんに頼んだら、まぁあっという間に本気で作ってくれて。でもそしたら重すぎちゃった(笑)
川村:
いやーすごいな。他の回でまたピックアップしますけど、道具箱の道具とかも本当いちいちアルミ叩いて作ったりしてて、なんかもう頭おかしいよな(笑)
八代:
よくあれやってると、プロデューサーに怒られそうって思っちゃう(笑)
川村:あははは!
犬丸の造形の話に戻るけど、肌が甚五郎と違うじゃないすか。もっとしらっちゃけててより不健康そうな色にしていただいていて、それもすごくいいなと思ったんです。ちょっと死人感があるっていうか。
八代:
暗い中でふわっと顔が浮かび上がる感じは怖さや悪っぽさも出るよね、みたいなことを前にミーティングでも話しましたよね。基本的に使ってる材料は甚五郎と同じで、配分違いで白さをより出して強めに肌に載せてます。犬のお面も同じようにして色を出してます。
川村:
亡霊的なかんじね。
犬のお面の話になったので、これについても話しましょう。犬丸の手下達に関しては、木彫で手下達の顔まで彫ろうとするとスケジュールと工数的に無理だと言われ、何か解決策を考えなくては!となって、お面をつけてる設定にしようか、というところからスタートしましたね(笑)。犬丸のデザインが先にある程度見えてきてて、犬丸の手下だから、犬のお面をつけることで顔を動かさなくていいようにしよう。ショッカーの戦闘員とかストームトルーパーみたいなかんじです!っていう風に決めて、また八代さんに「お願いします!」って投げて八代化してもらったっていう。
八代:
そうですね。当初のイメージは、みんな張子の狐面でしたよね。
川村:
そうですね。能面とか張り子の犬面とか、そのあたりのレファレンスをかき集めて、さてどうしようっていうかんじでしたね。
八代:
狐のお面って怪しい役にぴったりでいいなって想像つきやすかったんだけど、少しシンプルすぎるのかなとも思ってた。その後にいただいた資料に、すごくかっこいいものがいくつかあって、それを意識して作りました。張子ではなくて、木でできた能面の方向でしたね。
川村:
フラットな作りにしようか立体にしようかとかも悩んでて、でもまぁ立体にするのは工数的に無理っしょって言ってたら、一発目で立体のお面が上がってきたっていう。これも衝撃の展開だった(笑)
リファレンスを見てると、狐のお面が結構多かったんですよね。狐と犬の面を見るとあんまり差がわからないんだけど、違いがあるとすると耳なのかなぁとか、いろいろそんな話もしながら、イメージのすり合わせをしましたね。リファレンスで見ていた能面みたいなものが本当に作れるとは思わなかったですよ(笑)
八代:
やっぱり、能面みたいにちゃんと彫って作ってるのはかっこいい。一見つるっとしてるようだけど、ちゃんとディティールがあるところがいいね。
川村:
ちゃんと立体感があるし繊細ですよね。うまくいろいろな要素をフュージョンしていただいていて、リアルすぎて不気味な感じでもないし、装飾的だけどちゃんと犬感も出てるように料理していただいたのがすごいなぁって。
八代:
うまくできてよかったですね。
川村:
隈取りっぽいデザインや、何か呪術的な感じとかもすごくよかったですよね。
八代:
そうね、甚五郎にもちょっと隈取っぽい線を入れてるけど、小川さんが最初にあげてくれたデザインに隈取りが入ってて、実はそれを見て隈取りいいなぁってずっと思っていたというのはありますね。
川村:
あとから制作風景のメイキング写真見て知りましたけど、犬面は3種類作ってたんですね!
八代:
もっと犬っぽくしたらどうなるかとかトライしたり、木目の具合で彫れ具合が変わってしまうのをうまくまとめていったかんじですね。
川村:
バランスの違いは歴然ですね。良い抽象化をされていった感じはしますね。鼻の伸び方とか、口の開き方とか、絶妙に無表情で怖いじゃないすか。
八代:
いい無表情具合ですよね。
川村:
見た目が能面なのがすごくいいし、サイズ感も、能面と同じで人形の顔に対してちょっと小さくなるように作られてて、そのサイズ感も絶妙。そのちょっとだけ小さいのが、装着した時に後ろにちゃんと人がいる感が出ていて素晴らしいなって。
八代:
作ってる人の自己満足でしかないんだけど、パパッと作っていい具合にぴったりはまって、ちょっと座りが良かったりすると快感です。
川村:
でもお面外すとディティールはないけど、なんかいかりや長介みたいですね。(笑)
八代:
お面にするからこの顔は彫らなくていいのに、作業しながら顔をちょっと彫り始めちゃって、そうするとみんなに「八代さんやりすぎです」って言われちゃう(笑)
川村:
ほんのり彫り始めぐらいで止めてもらってる感はありますよね(笑)
八代:
「お面にすることで作業量減らしましょう!」ってことにしてくれた川村さんの立場を悪くする行動...(笑)
川村:
あはははは!結局変わってない!みたいなね(笑)
手下の衣装の色選びもいろいろ話しましたよね。甚五郎は、自然と旅疲れた黒系の衣装で、それとの対比という意味と、地味な色にしても目立たないから、赤系に振ってみるかみたいな。
八代:
ジャガーさんが描いてくれた色のパターンを見ていて、赤いいじゃんって思って
川村:
目立つし、インパクトあるよね。意外と暗いシーンが多いから、赤はパンっと映えるんでよかったですよね。