完全解剖!甚五郎の道具箱
vol. 21 2022-08-12 0
スタッフをとっても萌えさせた、甚五郎の道具箱。その魅力的な道具箱の全貌について、監督の川村と、美術を担当しているTECARATの能勢のインタビューです!
川村:
「日本建築技術史の研究」これが噂の大工道具歴史図鑑ですね。
能勢:
これはもうバイブルですね。1300年代当時の寺社仏閣を作ってる様子が描かれてたりするんですよ。その頃にはもう槍鉋(やりかんな)、木槌、鑿(のみ)、釿(ちょうな)とか使ってたんですよね。今回甚五郎の大工道具を作るにあたって、この本に描かれてる内容を参考にしてます。
川村:
僕らの時代設定が1600年代、江戸の家綱時代の話だから、1300年代にあった道具は甚五郎の時代にもあるはずで、それらは入れてもらっている感じですよね。
能勢:
そうですね。
今回甚五郎の道具箱には入っていないんですが、墨壺なんかは当時大工さんがそれぞれ作っていたらしく、いろんな形があったらしいです。これが腕の見せ所というか、大工のおしゃれアイテムだったらしいですよ。
川村:
お前の墨壺かっけーな、みたいな(笑)
能勢:
そうそう。本当は今回の道具箱にも墨壺入れたかったんですけど、まぁきっとこの引き出しのどこかに入ってるのかもしれないですね(笑)
川村:
きっとそうだね(笑)
今回道具箱について、僕は「甚五郎はでっかい大工道具箱を抱えていて、普段使ってる道具類と、秘密の義手が3本くらい収められてて...」みたいな話をしてスタートしましたよね。その後みんなで「その道具箱がガシャンガシャン!って変形するといいよね!」みたいに夢を描きながらしゃべってて(笑)。道具の選定とかは能勢さんの想像力にお任せしたんですが、今話してたように、かなり時代考証にのっとって細かく作っていただいてましたね。
能勢:
はい、そうですね。甚五郎の道具箱ってどんなだろうねって話してた頃には、もう甚五郎の人形はできていたから、そのサイズから、甚五郎が現実的に背負えて、猫が乗ったりすることができる道具箱の寸法が見えてきた。ざっくりその箱を作ってみて、中がどんな風になってるのか、どんな風に開くのかっていう模型を僕が暫定で一回作りながら、みんなとシェアしていきましたね。
川村:
いろいろな想像を膨らませましたよね。どのくらいの変形ならば尺をかけずに見せられるか?でも何段階か変形させたい...という鬩ぎ合いで。
能勢:
そういうすり合わせがあって、箱は短時間で変形ができる今の状態に落ち着いたんですよね。
じゃあ中に何を入れましょうかってなった時に、甚五郎がいたとされる年代だと大工道具はどんなものが使われていたのかなとか考えるにあたって、僕はこの本を参考にしていて。書かれている道具を見ながら、この道具だったら年代的にも合うし、甚五郎の道具箱に入ってそうだな...とか、そういう検討を各道具ごとにやっていきました。この本には柄の太さとか金具の部分がどのくらい、角度はどのくらいとか、めちゃくちゃ詳細に寸法が描かれているんですよ。
能勢:
これを当時の道具の参考として、必要な道具をピックアップして作り始めました。
川村:
入れる配置ではなく、物体を大量に作った上でどう収めるか考えていったんですね!
能勢:
そうそう。この大きなノコはここだろなぁとか。
川村:
甚五郎が手に取りやすいように、ノコはスコッと手前に下りてきて欲しいなぁとか話してましたね。
能勢:
そうそう、斧とかノコギリとかは、甚五郎の立ち位置的にこのへんに入ってるといいんだろうなぁとかみんなで話してたから、リクエストに応える形で収める位置を決めて。
向かって左の定規っぽいものも、出来上がった道具たちを並べて見て、どういう風にひっかけてあるのかを考えながら配置を決めていきました。
川村:
実際の道具箱に宮大工の方がこんな風に入れてるかはわからないってことですよね。
能勢:
わかんないですね。このかんじだとだいぶガチャガチャするし、この運び方はしないだろうなっていう(笑)
川村:
道具箱って、大体肩担ぎくらいのサイズが多いですもんね。横にガサッと並んでるような。
能勢:
いろんな道具箱をリファレンスとして買ったりしたんですけど、大体ガツッと肩担ぎする形のもので、おっしゃる通り大きさもちょっと長いようなかんじのもので。
川村:
今の時代の道具箱も横長ですもんね。
能勢:
置いて広い面積が見えるっていうのがスタンダードですよね。
川村:
それでいうと、甚五郎の道具箱ってめちゃくちゃな道具箱ではありますね(笑)
能勢:
でもビリーバブルかつかっこいいっていうね。
川村:
ノミが揃ってたりするのは整然としてて素敵ですよね。
能勢:
憧れますよね〜
川村:
あと鉋(かんな)とかもサイズ違いがあったり、かわいい。。。平らな指矩(さしがね)類がかなり萌える。。。
能勢:
収り上、平たいものを集めたかったってのもあるんです。
川村:
この下のカービーな物は、雲定規みたいにアールをとるための定規なんですか?
能勢:
そうです。しかも当時の大工さんは自分で作ってたらしいんですよ。自分がよく使うラインのカーブ定規を自分で自作していたらしくて。だからこの定規にも、一個一個、甚五郎の名前が書いてあるんですよ(笑)
川村:
そうそう!よーく見ると、映像上見ても絶対わかんないと思うけど、ちゃんと「甚五郎」って入ってるんですよぉ!
能勢:
全体の配置の仕方は、Pinterestとかで、道具をシステマチックに収めているような参考画像を探したりして決めていきましたね。ストレージとか自分の家の棚みたいにまとめられてるのをいっぱい見て参考にしてました。
川村:
それが活きてますね。そういう棚だったり、ルイ・ヴィトンのトランク(お酒とグラスを運べるようにカスタマイズされたもの)みたいなのとかをリファレンスとして出してましたね。最終的には、旅行用にカスタムしたトランクや大工さんの道具箱や収納棚の間の子みたいなのがこの甚五郎の道具箱になってる。
あとは、収められている道具一個一個が全部アルミとかちゃんとした素材でできてるっていうのがもう変態的で素晴らしいですよね(笑)
能勢:
ありがとうございます(照)
道具はアルミを叩いたり削ったりしてます。直径10mmのアルミの線材を削って、叩いて、やすりかけて成形して。。。っていう流れで刃を作っています。柄の部分は丸棒を旋盤で加工してます。
能勢:
あと見所としてはこれですね。この小さい釿(ちょうな)に使っている木、柚子の枝なんですよ。
能勢:
やっぱりまっすぐな木材から曲がってるように切り出すと、木目がおかしいことになるんですよ。でもこういうアールのある木ってなかなかなくて、曲がってる枝を中根が探しに行って、このスケールの釿(ちょうな)に合いそうだなっていう枝を探してきて作ってくれました(笑)
川村:
枝拾いに行ったんだ!やばーい。
本来の釿(ちょうな)の木も、大きい木を曲げて使ってるんですよね?
能勢:
釿(ちょうな)は牛殺しの木(別名:カマツカ)っていう木を使ってるみたいなんですが、最近あまり生えてないらしいです。曲がって育ってるのもあるらしいんですけど、釿(ちょうな)の持ち手の場合は、いいかんじのカーブを作るために、育てる段階で引っ張って曲げて育てて、育ったら刈り取って乾燥させて...って感じで作ってるらしいんですよね。
川村:
ナチュラルなカーブじゃなくて、矯正して育ててるんですね。
能勢:
矯正して育ててるけど、しっかり曲がったものになるという。
川村:
甚五郎の釿(ちょうな)はある種それの縮小版なんだね。曲げて育てたわけではないけど。
能勢:
まぁ、近いものをたまたま見つけられたっていう(笑)
川村:
すごいなー、ミラクルだ。
そういえば八代さんは「釿(ちょうな)を使ってる人初めて見たよ」って言ってましたね(笑)
能勢:
僕も今回初めて使ったし、現代の大工さんもほとんど使ってないみたいですよ。
川村:
あとはエイジングもそうだけど、ノコギリの紐とかのディティールが本当に素晴らしいですよね。
能勢:
やっぱりこれがあるのとないのではリアリティが違いますよね〜
川村:
やっぱり素材をアルミとかで作ると、カメラで見た時の質感って違いますよね?
能勢:
違いますねー!刃物がわかりやすいんですけど、プラスチックで作ると、ジャキンってとんがらせられないんですよ。
川村:
なるほど。エッジのところだ。
能勢:
はい。エッジが丸くなってしまうと、絵に結構映るんですよ。見え方が結構違う。
川村:
なるほど、切れそうじゃない見え方になるんだ。
能勢:
そうです、説得力が落ちてしまう。かなりマニアックなところですけどね。
川村:
いやーでもそれ大事。特にこのスケールだとその差は結構出そうですよね。実寸大だったらでかいぶんバレないかもしれないけど、ミニチュアの世界だと1mmアールがあるだけで見え方が鈍くなるというか。
能勢:
そうなんです!わかってくれて嬉しいです。ギランとさせたかったんですよ。
川村:
道具箱は、古材を使った上でエイジングしてるかんじですよね?めちゃくちゃ年季入ってていいですよね。
能勢:
最初の頃から話してましたけど、セットのコンセプト的にも古材とか使ったらおもしろいかもねって話してました。質感を大事にしているTECARATとしても、古材を使ったセットっていいねって話になってて。
川村:
道具箱なんか本気で何十年間旅し続けてきたダメージ感もありますよね。
能勢:
実はこの道具箱も、江戸時代とか明治の初めから使われていた中古の水屋箪笥を買ってきて、解体して作ってるんですよ。もう箪笥として使えるようなものではなくて、引き出しもないようなジャンク品を整材して使ってます。
川村:
いやー出せないダメージですよね、これは。。。
能勢:
そうなんです、出せないんですよ。。。これを手で出そうとすると胡散臭くなっちゃうんで、本当の素材を使う良さっていうのがあるんですよね。
川村:
素晴らしい。。。この箱自体のデザインもすごくいいし、この裏の持ち手の部分もまたセクシーですよね。この作り込まれてる背負子の部分、ほとんど出てこないけど(笑)。すごいですよね。これもちゃんと手編みで作ってるんですよね?
能勢:
はい。手編みで、リアルサイズの背負子の肩紐をモデルにしてミニチュアの背負子紐を作っています。
川村:
工芸品や。。機能的ですよね。デザイン的にこうなってただろうなっていう気がするというか。
能勢:
当時の一番フィットする肩紐はきっとこれだったんだろうなと思う。
戦うタイミングで紐がパッと外れるようにしたいっていう話もあったんで、そういうこともできるようにしています。
川村:
見えないところまで機能的にできている。。。。
で、道具箱は、結局観音開き&スライド方式になったんですよね。
川村:
一般的な道具は外側にあって、中央の壱弐参って書かれてるのは謎の義手格納スペースで。こんな道具箱は絶対存在しないもののはずなのに、本当にあったかもしれないかんじになっている。
能勢:
昔の薬売り屋さんが背負ってた薬箱とか、行商箪笥とか参考にしてましたね。
川村:
存在してたような気にさせてくれるのはこういうののフュージョンだからかもしれないですね。
義手の収納場所はサイズ的にも3本になり、猫が押す上のボタンの配置も3つにして。
川村:
ボタンのすぐ下の引き出しの中にきっと何か機構が入ってるに違いないとか、一番下の引き出しには猫の砂トイレが入ってるとか話してたよね(笑)
能勢:
猫の水入れ用茶碗とかね(笑)
川村:
そういうどうでもいいこととか、かわいいものも入ってるとかね(笑)。
能勢:
一角はきっと、にゃんごろう用なんですよね。想像が膨らみますね。
川村:
そうですね〜、本編の時はそういうのも使いたいですよね。
いやー本当に素晴らしい道具箱だ。
能勢:
これはいいのができたと思いましたね。できた時に、これかっこよ!って思いましたよ。
川村:
本当にこれはかっこいいですよ。
あとは、箱の天面に実は眠り猫が爪とぎした痕があるんですよね?
能勢:
やっぱりこのいい感じにエイジングできてた板と、他の部分とで、一緒に使った時に、この紋が入ってる面に対して天面の板が綺麗すぎたんですよ。古材をそのまま使ってるんですが、綺麗すぎて、なんか汚しが必要だなと思って。いろいろこねくり回してるんですが、猫がいつも爪をといでるって設定で少し傷を入れたりしました(笑)
川村:
夢と暴力の詰まった道具箱だなぁ(笑)