甚五郎のキャラクターデザインと造形について②
vol. 8 2022-07-15 0
今日もキャラクター造形について、引き続き監督の川村×木彫人形制作を務めたTECARATの八代のインタビューをお届けします!
八代:
今回甚五郎の体型は、ちょっとゴリゴリッとしたゴツい感じは作りたいし、木で彫るならそのゴリゴリ感を他の場所にも活かした方がいいなと思ったんです。例えば髪の毛は普通膨らみがあるものだけど、逆に彫ってへこませることで膨らんで見えるような「錯覚」を使った方がおもしろかいなと思って。その面白さが見てる人に伝わるといいなって思っていました。
川村:
それは活きてた感じがしますね。ノミ跡がそのままテクスチャーになってて、なんか苦労してきた顔になってるという。
塗装とか仕上げはどんなものを使ってるんですか?
八代:
木の質感の中で、例えば古くなることで、ちょっと粉を吹いてくる/乾いた様にカサカサする部分と、手油とかがついたりして、しっとりしてくる部分っていうのがあって。色はさておき、その質感の差っていうのがうまく絡んでると綺麗だなと思って。例えば白髪の人であったら、粉吹いた方を髪の毛に使って、若い人であれば逆にしっとりした方を髪の毛にしたりとか、分けていくんですけど。今回甚五郎は、白い髪の方に思いっきり白い色をつけて、肌はいろいろ混ざってるようにしてるかな。白い色は、日本画なんかで使う白い土とアクリル絵の具的なものをつなぎとして混ぜて、実際に木に布とかブラシでこすりつけてますね。
(こちらは犬丸の子分のお面の制作の様子ですが、同じ白い土を使って色付けを行いました)
川村:
そんな塗り方なんだ!人はこういう風に古びていくかもなぁって見える感じで塗られてたり、肌感を出してもらえてて、ものすごいナチュラルですよね。キャラクターデザインも大事だけど、今回は木彫ってこともあって、質感もやっぱり超大事なので、すごく素敵だと思ってます!
八代:
これ、結構難しいから、そこを見て感じてもらってるととっても嬉しいですよね。いつも一応目標とする人間の肌とか髪の色があって、実際の素材でそれに見立てられる質感をいかにして作っていくのかっていうのが毎回悩みどころで。顔に近い木の塊をスタッフに作ってもらって塗りのテストをしたり、顔も、1回本気で作り直したりしてるんですよね。
川村:
前も八代さんと話しましたけど、人の肌と木肌って近いから、例えば若い子だったらもっと白木の新しい木で彫ったり、その人のキャラクターに合った木の質感を選ぶみたいなのは面白いよねって話とかもしてましたよね。
八代:
そういう意味では甚五郎の位置付け的にもね、旅の中日に当たり、風雨にあたり〜...
川村:
そうそう!もう、ボロボロ...!
八代:
ボロボロでいいし、逆に味が出る方向になっていくよね。
川村:
それが活かせてるのは、本当に何か人生を感じられる。そこが見どころだなとは思うんですよね。
八代:
あとすごい挑戦だったのは、木彫の人形だと同じものを2つ作るってないんですよ。
川村:
それな、双子な〜
八代:
木の塊のすぐ真隣を使わないと、木目が変わっちゃうので同じに人物に見えなくなるし。
川村:
いや、本当すいませんねぇ。誰だよ木彫でやろうって言ったの(笑)
予算とスケジュールの問題で、甚五郎は2体必要だっていう話になってお願いすることになったんですけどね...
八代:
比較的早い段階で、プロデューサーの松本さんから「今回のテーマは、2セット/2体の人形を平行して撮影っていうのが木彫パペットでもできるかです!」って言ってて、えぇ?と思ったけど、ちょっと面白いなと思って。俺も実はそれ、いつか試しておかなきゃいけないと思ってたんです。
川村:
まぁアクション映画で言うところのボディーダブルみたいなことですよね。側から見た感じは、1号2号ともに同じ人に見えるんで。
川村:
あとは俺が謝らないといけないのは瞼ね。
八代:
普段は人形のサイズが小さいし、その中に入れる目も小さくなっちゃうから、僕らテカラはあまり瞬きの演技を入れて来なかったんですよ。でも小川くんとしては、演出として瞬きを入れようとしていて。あとはストーリー上、甚五郎は瞼に「五」の刺青が入っているっていう設定だったから、大変だろうが何だろうが、瞼を作らないといけなかった。
川村:
でも、やばくなったら刺青はおでこに移そうかって話をしてたんですよね(笑)。
八代:
そういう話をちらっと言ってくれてたのが実は心の中の安心にはなっていて。駄目だったら違う方法もあるんだと思うと、とりあえず進めていけるから。それで、結果瞼は一個ならできる!ってなったんだよね。ただやっぱり目が、、、、
川村:
米粒みたいなサイズですからね(笑)
八代:
そうそう。甚五郎の頭のサイズに対して、目をあまり大きくしたくなかったというのもあって、目のサイズが小さいんですよね。なので瞼も細長くて、それに書かれるのが「五」っていう、横に3本線のある漢字でね(笑)
川村:
本当に申し訳ないなと思いながら、ある日瞼が出来上がっててすごく嬉しかったっていう。。。
ストーリーの管轄をしてる身としては、人形の顔のヨリも見せたかったんですよね。木目が見えるシーンっていうのを1ヶ所は入れたくて。結果、この瞼ができたことで顔にガツンと寄れるカットが作れて、顔の彫りなんかも見せることができるようになった。
八代:
やっぱそこまで寄っても見える質感を見せられたっていうのは、作った甲斐があった。
川村:
まぁそうですよね。3Dプリントとかだと、ばれちゃうかというか、木で作ってないと耐えられないと思いますよ。あのヨリは。
八代:
瞼の話でもうひとつ、この「五」っていう文字、僕の中でも最も細かい線が引けたなと思ってるんです。この文字、漆で書いてるんですよ。
八代:
普段日本画の土とか、漆とか顔料とかを色付けに結構使っていて。今回本格的にそういう素材で甚五郎の肌の色を作ろうと試したんだけど、漆は黒さの具合のコントロールが効きづらくて、結局甚五郎の肌には使わなかったんです。でもその過程で、漆は伸びがいいということに気づいて、この「五」とか、犬面の細かい線なんかも意外と引きやすかった。
川村:
へぇー!漆塗り!発見多いですね。張力とか粘度みたいなことですかね?
八代:
粘りと伸びですね。
川村:
そうだよね、滲んだり広がりすぎるとこんな風に書けないですもんね。
八代:
実際、漆じゃなくオイルステインなどの一般的な塗料を使う時も、使い方だけは漆の、例えば布で拭き取るように木目を生かす「拭き漆」とか、粉っぽいものを後から樹脂で固めていく使い方とか、漆を手本にした使い方をしています。
川村:
奥様、漆器の作家さんですもんね。
八代:
ときどき手伝うフリをして技を盗んでいます(笑)。