甚五郎のキャラクターデザインと造形について①
vol. 7 2022-07-13 0
今日はキャラクター造形について、監督の川村×木彫人形制作を務めたTECARATの八代のインタビューをお届けします!
川村:
今回は木彫だし、甚五郎の作品のように木のパペットでいきたいっていうのが僕の中ではコアにあったので、八代さんにキャラデザインをお願いしたいって思ってました!
小川さんのキャラデザを受けて、八代さんにもまずはデザインをあげてもらいましたよね。八代さんと話してみて、やっぱり若くてかっこいい感じよりは、ジジイで、年輪を感じるのがいいんじゃないかという話になりましたね。
八代:
僕は自分が監督する作品ではあんまりデザインスケッチを描かないんですよね。実際に粘土でマケット作ったり、すぐに彫り始めたりというのが多いです。
今回は先にスケッチをしながら、人間だったらどういう人なのか、顔にはどんな皺がある人なのかっていうことを考え始めました。今回は三船敏郎、仲代達也、ジャン・レノとかとのイメージが近いなと思っていて、川村さんと小川さんとも擦り合わせて、このイメージでいけるねとなった。次はやっぱり立体にしないと、ここからは机上の空論になっちゃうので、粘土で立体に起こしていきました。
川村:
デザインもよかったんだけど、八代さんが立体化を念頭に作ってるんで、絵から立体へのジャンプのデカさがすごかったんですよね。
八代:
粘土と木だとまた違うんですけど、でも木で作ったらこうなるっていうイメージが共有できたかなぁって思ってます。
川村:
最初はちょっと華奢だったんですよね。ここから最終的に1.5倍くらいになった。
八代:
小川くんが描いたデザインの中に、肩幅が極端にでかい逆三角形的なフォルムのものがあったし、自分の立体も、もっとボリュームがあって体格がごつい方がいいなと思った。
僕は自分で自然に作ると、腰周りをきゅっと小さく作っちゃうんだけど、小川くんのデザインは腰回りがガボッとでかいのがよかったから、1回ボリュームを思いっきり膨らました。
川村:
粘土だから、足したり引いたり、バランス変えたりがやりやすいですね。
八代:
キャラデザインと造形デザインっていうのを、意識的に区別して造形のデザインを進めました。
川村:
あとは義手ね!サイズ感がどんどんデカくなっていった(笑)
八代:
自分でアニメーターをやるってなると「こんなにでっかいものをどうやって支えるんだ!?」って心配が先にきちゃうけど、とりあえず粘土で作ってると「粘土は軽いし、でかくなってもいいか」ってなっちゃって(笑)
川村:
(爆笑)
今回は八代さんが自分でアニメーターをやってない分、自由に考えられるというか。
八代:
そうなんです。普段は逆で、自分で自由に考えて人形を作って、あとはアニメーターに「お願いします」って振るなんて無茶振りすぎて、とてもできない。
今回はいつもと違くて、自分の技量だとこれは難しいということでも、(今回のアニメーターの)稲積さんとかは、逆にそういうのを喜んで楽しんでるように振る舞ってくれてて。「楽しんでくれるならばいいか!」っていう思いや、「俺にはできないけど、稲積さんなら何とかやるだろうな〜」なんて思いながら自由気ままに作れました(笑)
川村:
そうやって八代さんを解放できたのは嬉しいんですけどね。
八代:
人と一緒に作りながらジャンプしてくって自分の苦手分野だなと思ってたけど、今回は、人と一緒に作ることで大きくジャンプできましたね。
川村:
いやーそれは嬉しいな。本当に、いいキャッチボールができてるような感じがしてた。どんどん良くなっていくから、本当びっくりしたしね。
その後は結構早かったですよね。急に粘土の体が服を着て、木の頭がポンってついて。
八代:
うん。これでいこうってなったから木でちょっと作ってみて。
そのときに具体的に顔のどこが動くのかとか、目玉も入れるし瞬きもするから、まぶたのサイズはどのくらいだとか、いろんな話をしてる過程で、甚五郎のサイズはもうちょっと大きい方がいいんじゃないかということになった。
でもこれまでの経験上、テカラで作るとしたら、最初に作ったマケットのサイズ(30cmくらい)が限界だなと思ってたんだけど、骨組みを作ってくれるドワーフの原田さんが「でかくてもいけますよ!」って言うから、じゃあでっかくしようかってなって(笑)結局40cm超えましたね。
川村:
このサイズ感、結構驚かれますよね。
八代:
そうですね。例えば長さが2倍になれば、面積は4倍に。体積、つまり重さは8倍にと如実に増えていきます。でもその重さを支える骨の強さは針金の断面積やアーマチュアの摩擦面積なので、4倍にしかなりません。だから人形が大きくなると骨の作り方が一気に難しくなるんですよ。これまでの骨組みの作り方の限界値を大きく超えていったのが今回だと思ってます。
今回の人形の骨格造形はドワーフの原田さんと、テカラ作品をいつも一緒に作ってくれているフリーの上野くんが一緒に作ってるんだけど、部品部分から検討して話し合ってくれて、大きさの割には重さは軽く作ってもらっています。
川村:
一般的なモデルを流用して使うのではなく、カスタムで全部作らないといけないから大変ですよね。中がちゃんと機能して、人形がアクションできるように、可動域とか全部計算して作り上げていかないといけない。
八代:
普通の人形だと、その足で人形自身の体重を支えることができるんですが、今回の人形の特殊なところは、木でできた関節を見せるっていう美のために、足に骨が入っていなくてプラプラしているところです。つまりアニメーションさせるのがとても大変になる。
川村:
この造形にしたら到底重量は支えられないし、足は接地してるように見えるけど、実はそこでは支えていない。
八代:
一般的な人形は、少なくとも二本でまっすぐ立ってバランスをとれば、ちゃんと自立することができる。でもこの甚五郎は絶対に立てないので、作ってる途中も大変という。
基本の方法論から相当外れてるんで、僕と原田さん、上野くん、稲積さん、オカダさんと、ずいぶんいろんなアイディアを出しましたね。
川村:
あーいい話...。造形を良くしていくのもあるし、その造形で動かすために必要な構造を考えて作るという。こだわりですね。
八代:
通常よりもかなり形の美しさ優先でいってます。性能よりも見栄え(笑)。強そうで、しかも木であることを誇張していくために、関節も積極的に木の関節にするとなると、アニメさせる時に一生懸命がんばらないといけない。
川村:
そうですよね。着物で隠してるってのはあるんですけど、肩関節とかもおかしいですよね。
八代:
肩は結構ヘンテコですよね〜(笑)。見る人見るとなんだこりゃって思うと思う。今回腕の根元も動かしたいんだけど、首回りに木をごっそり使ってるから、その木を避けるように、脇の下のあたりからグゥーッと出てくるような構造にしてます。
川村:
そんな裏側の苦労があっての今の形っていう。
八代:
今回それで言うと、この首の構造の辺りの発見も大きかったなあと思って。
実際の洋服と体の間に木の枠というか、窓みたいなのを作って、その中に、何か硬いものが複雑に絡んでるっていう状態を見せると、すごく「からくりらしさ」が出せるなと。木とか、鉄でできた機械が持っている美しさが見えるなあと思って。これを発見できたのは良かった。
川村:
全体的にそれが踏襲されてる感じはしますよね。からくり人形っぽさもあるけど、なんか生きてる感じもあって、ゴリっとしたキャラと合っていて、すごいなと。
八代:
体と服を紐で縛り付けていくのも本当の人間とかではあり得ない。木と布っていう素材としての関係性をうまく引き出せて良かったなと思ってる。実際に紐で縛るのは大変で、衣装制作でこの部分は結構時間かかりましたね。衣装は以前から集めてた古い素材を使ってます。
川村:
雰囲気いいですよね。大工っぽさを出す法被は、最終的には革を染めて作ったんですよね?
八代:
そうですね。これはアニメによく使う方法のようで、サイズが小さくても服の重さ感を出すことができるのが革の質感なので、革の素材を使ってます。デザインのプリントは、狙ったデザインを出せそうだっていうことでシルクスクリーンの方法を使っています。素材は相当ヤスったりとかして質感を出してますね。
川村:
やっぱり流浪のね、数十年間旅を続けてボロボロになったみたいな、いい味が出てるよね。
八代:
小川くんのデザインスケッチで、衣装の生地がはためいてる絵が印象に残ってて、それを衣装でも表現できるように作ったら、稲積さんがテスト撮影ですごく素敵に動かしてくれていい絵になってた。川村:
またいいパス周しを。わかってるねー、みたいな(笑)
草履とかもすごくよくできてますよね。あれも手編みですよね?
八代:
はい。ミニチュアって、本物と同じ製法で作ればリアルになるかっていうと、一概にそうとは言えないんですよ。特に編んでるものは、本当に編むと硬くなりすぎて、草履の感じが出ないこともある。今回はサイズが大きかったので、編みの良さが出ましたね。
川村:
やばいっすねそのディテールのこだわりは。あと編んでるといえば、トレードマークのちょんまげね。
八代:
最初はもうちょっとボリュームあって、筋斗雲みたいでしたね。
川村:
先っちょにふわふわ感があって、どうアニメーションするんだろうみたいな(笑)
でも今の最終形の髪型はすごい良かった気がします。きっと長旅で切らなかったものを結びあげているんでしょうね。あとこの眼球もやばいんですよね。
八代:
そうね、眼球は、僕らテカラの作り方とドワーフの最新の作り方をちょっと組み合わせていて、3Dプリントで作ってるものを使っています。
僕らはいつもシンプルにできるだけ塗膜が頑丈なペンキを使って目を作っていくんですが、どうやっても瞼の内側と目玉が当たると、目玉の塗装がハゲてしまう。つまり常に目玉をダメにするリスクを持っていて、撮影の途中で目玉を交換すると、ちょっとした黒目の違いでキャラクターが少し変わってしまうこともあります。また眼球と瞼が当たらないように、眼球を奥めにしておかなきゃいけない。でも今回はドワーフの3Dプリント技術を生かして、瞼に当たっても壊れない目を、ベストな位置に仕込むことができて、人形を作りやすかったです。
川村:
甚五郎が感情を表すのは目と口だけど、目にちゃんと命が宿ってる感じがしてすごいなと。
あとはもう義手ね!義手が出てきたときは、もうみんなどよめいたっていう。
八代:
これはね、今だからバラすと、何か作れるだろうとは思ってたけど、明快にこうやって作れるっていう確信はなくて(笑)。義手以外の甚五郎のパーツが出来上がった後で、やっと落ち着いて義手に向かってみた時に、思いつきのままに作られていったかんじですね(笑)
川村:
僕、なんかすごい前から何か考えたのかなぁって思ったけど、そうでもなかったんですね(笑)。すごかったですね、そのスピード感っていうか。
八代:
そうですね〜(笑)。今となってみれば、ヒヤヒヤだったなぁって思うけど、与えられたスケジュール内に「驚きのもの」と言われるものを出すことができてよかった。
川村:
本当にすごい、何か発明に近いデザインが出てきたよなぁ。
八代:
結構成り行きでしたよ(笑)。まずひとつパーツを作って組んで、いけたと思ったら次に別の関節を作って、あっ、歯車があった、入れると動くなー、とか考えながら。
川村:
あーなるほど、根元から先の方へと向かって作って行ったんですね。
八代:
はい。歯車を入れてみたけど、歯車だと江戸時代のものにしてはちょっとハイテクな感じがしたから、アナログなものはないかと思って、紐を見えるように付け足して、、、なんてかんじでやってた。
川村:
良い発見をしたらそれを見せていくっていうのも素晴らしいですよね。構造と造形美と、なんか全てがうまく一緒くたになってる。
今回、面白くもあり難しかったんじゃないかって思うのが、木彫で命を描くってことをしているんで、既にメタ的っていうか。生身のはずの左手も木彫だし、義手の右手も木彫やんみたいな。それが面白いんだけど、どう差をつけるかとか、答えなく僕は丸振りしてしまった気がしてですね。
八代:
意外とその問題は最初から川村さんから提示されていて、いつも気にかけてはいましたね。義手はどんどんメカニックにして、生身の手は素材は主張させないっていう方法もあったんだけど、やっぱり木くずが飛び散る世界だし、木であることをうまく出さないといけない。
義手じゃない方の生の手を見ても、それなりにメカニカルな見た目ではあって、造形としてはいい物ができていると思うんだけど、作品の中の位置づけとして、この造形を川村さんがどう捉えるかなぁって思ってドキドキしてましたけどね(笑)
川村:
生身の方の手と義手の対比は、本当うまいところに着地できたし、本当に素晴らしかった。義手はどんどんデカくなっていったけど、結果いい違和感が生まれて。
八代:
そうですね。回数重ねてどんどんでかくなって、良かったですよね。
川村:
うん、でも嘘すぎないサイズっていうか、左右でなんかちょうどいい、変なサイズの違いが出ていて素敵だなあと思ってます。
八代:
絵の状態で義手について話してたら、きっと迷っちゃったと思うから、早いタイミングで一気に作り始めてよかったと思います。
川村:
プロトタイプ見ながら話せたんで、議論の内容がディティールの話に終始できたのはよかったな。
八代:
義手以降、いろんなところに動かせる機能をつけてアニメーターに渡してきたんですけど、「取捨選択して動かしてください」って感じで出すと、110%ぐらい動かしたテスト動画が返ってくるんで、逆に「じゃあここまでは動かせないでしょう!」って感じで機能を追加して出すと、またテスト撮影とかで全部やり返してくれて、「じゃあこうしてやる〜!」ってなんかまた機能を足して、それの繰り返し(笑)
川村:
結構いいケツの叩き合いというか、引っ張り上げ合いというか。
僕もテスト動画見て本当びっくりしたし、みんなもどよめいたのは、義手で刀をパキンって割る時に紐が一回ひゅるん!ってなってなるとこで!!
八代:
それやるか〜!っていうね(笑)
川村:
機能的には紐を緩めたりとかできるけど、そんなことやっちゃうんだーーー!って感動ね(笑)
本当に、八代さんの造形からアニメーターがインスパイアされて、動きが生まれて、そこからまた造形もちょっとアプデされて...みたいなかんじでここにたどり着けてるから、なんかもう最高かよって感じなんすよね!
(つづく)