アルマ望遠鏡が目指すもの
vol. 4 2015-04-13 0
国立天文台の平松です。前回、アルマ望遠鏡がどのような経緯で作られるに至ったかをご紹介しました。今回は、それほどの労力をかけてアルマ望遠鏡が何を見ようとしているのか、何が見えるのかをご紹介したいと思います。
「望遠鏡」と聞いて多くの方が想像するのは、白い筒の先にレンズがついていて、反対側にあるレンズをのぞきこむ、というかたちのものではないでしょうか。こうした望遠鏡は、目に見える光を集めているので「光学望遠鏡」と呼びます。一方でアルマ望遠鏡は宇宙からやってくる電波を観測する「電波望遠鏡」です。アルマ望遠鏡にはのぞきこむレンズはありません。そのかわりに、望遠鏡で集められた電波を電気信号に変換する装置がついていて、その信号をコンピュータで処理することで人間の理解できる「天体画像」が作られます。映画『コンタクト』では、主人公の電波天文学者エリー・アロウェイが電波望遠鏡で得られたデータをヘッドホンで聞いていましたが、実際の電波天文学者は信号を聞くのではなく、コンピュータ上に表示させた画像を見て研究を進めています。
「宇宙からの電波を観測している」というと、「宇宙人探し?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、アルマ望遠鏡の目的は宇宙人探しではありません(まじめに地球外知的生命体からの信号を探している望遠鏡は他にあります)。アルマ望遠鏡が観測している電波は、星々の間に浮かぶ「雲」のようなものから自然に出てくる電波です。こうした「雲」は星や惑星の材料であるため、その観測によって星や惑星がどのようにして生まれるのかを調べることができるのです。最近では夜空に輝く星のまわりにも、地球や木星のような惑星がまわっていることがわかってきました。アルマ望遠鏡は、星や惑星が生まれる現場をこれまでにない解像度で詳しく見ることによって、どんな星のまわりでどんな惑星が作られるのか、惑星のバリエーションはどうして作られるのかという謎に迫ろうとしています。
写アルマ望遠鏡がとらえた、惑星の誕生現場。若い星「おうし座HL星」のまわりに、惑星の材料となる塵が幾重にも回っている様子がはっきりと写し出された。この写真の解像度は人間の視力に換算すると「視力2000」となり、惑星の誕生現場を写した写真としては史上最も高い解像度を達成しています。Credit: ALMA (ES0/NAOJ/NRAO)
アルマ望遠鏡の大きな目的のふたつめは、1000億個もの星々が集まる巨大な天体「銀河」の誕生を探ることです。私たちの住む太陽系も「天の川銀河」と呼ばれる銀河の一員ですが、138億年前にビッグバンで宇宙が始まった後、いつごろ、どのようにして銀河が生まれ、どのように成長して私たちが今見ているような銀河になったのか、という謎にアルマ望遠鏡は迫ります。天文学では、遠くを見ることは昔を見ることに相当します。例として、100億光年のかなたにある天体を観測することを考えてみましょう。この天体から地球に電波が届くまでには100億年の時間がかかりますから、いま私たちが見ている電波は100億年前にその天体を出発した電波です。つまり、この天体の100億年前の姿が見えていることになります。アルマ望遠鏡はその絶大な感度を活かし、これまで見ることができなかった遠くの天体を観測することで、宇宙初期にどんな銀河があり、そこでどのようなペースで星が生まれているのかを調べることができるのです。これまでにアルマ望遠鏡が観測した最も遠くの天体は、131億光年の彼方。宇宙誕生から7億年のところまで迫っていることになるのです。これから観測が進めば、もっと遠くの天体も観測することができるだろうと世界中の天文学者が期待しています。
地球から117億光年の距離にある銀河SDP.81をアルマ望遠鏡が撮影した画像。リング上に見えているのがSDP.81で、この銀河と私たちの間にある別の銀河(青い銀河:ハッブル宇宙望遠鏡が撮影)の重力によってその姿が引き伸ばされている(重力レンズ効果)。Credit: ALMA(ESO/NAOJ/NRAO); B.Saxton NRAO/AUI/NSF;NASA/ESA Hubble Space Telescope
アルマ望遠鏡の目的の3つめは、生命関連物質を宇宙に探ることです。宇宙人を探すのではなく、宇宙人のもとになるような物質を探ろうとしているのです。私たちの体はタンパク質でできており、そのタンパク質はアミノ酸からできています。このアミノ酸は、太陽系の外ではまだ見つかったことがありません。生命の材料ともいえるアミノ酸のような複雑な有機分子がもし宇宙のいたるところにあるのであれば、地球外生命存在の可能性をより具体的に議論できるようになることでしょう。アミノ酸があれば生命が生まれる、というほど生命は単純なものではありませんが、少なくとも生命誕生の舞台が整っているかどうかを、アミノ酸が放つ電波を探ることによってアルマ望遠鏡は確認できるのです。
アルマ望遠鏡は他にも、ブラックホールや死にゆく星の姿をこれまでになく克明に描き出すことができます。まさに、今回のクラウドファンディングプロジェクトのもとになったのは、寿命を終えつつある星「ちょうこくしつ座R星」のデータでした。データが興味深くて寝るのを忘れて研究に没頭した、画像を見た瞬間に飛び上がって喜んだ、など、アルマ望遠鏡のデータを手にした研究者のエピソードからは、アルマ望遠鏡がまさに天文学の新しい扉を開きつつあることが伝わってきます。
ALMA MUSIC BOXプロジェクトメンバー・平松正顕