【応援メッセージ】金沢大学准教授・井出明さん
vol. 32 2019-02-17 0
一つの旅行の概念にダークツーリズムというものがある。
大まかに言うと人類が刻んだ過ちの歴史、悲しみの歴史を訪ねる旅の形態を指す。日本で言えば、広島の原爆ドームを始め、知覧の特攻平和会館などが有名な場所であろう。
ヨーロパではその概念は広く行き渡っており、過ちの歴史を繰り返さないための「学習の場」としてダークツーリズムは取り入れられている。専門の学問分野もあるほどだ。
日本でのダークツーリズム研究の第一人者・金沢大学の井出明准教授。
実は、主催・中筋とは大学の先輩後輩の仲。気だるい体育の授業で一緒にテニスをやった関係なのですが、その後再会したのは東日本大震災の後のこと。
企画を練っていたダークツーリズム関係のムック本の編集時の再会ということもあって、すぐに監修者としてお招きをし、「ダークツーリズムジャパン」を仕上げ2冊世に送り出しました。
渡良瀬遊水池建設で消滅した旧谷中村取材風景(2015年10月)
福島第一原発事故は果たしてダークツーリズムの対象になり得るのか?
同胞の悲しみを現在進行形で抱える対象だけあって、一つの結論をなかなか導き出せない状況なのですが、同じことを繰り返さないためにも、「見て」「知る」こと、そして「記録」し続けることは、我々が享受してきた「近代」をどう捉えるかの思索の第一歩になることは間違いない事だと思います。
そしてアートでの「福島原発事故」にまつわる表現は、その「見て」「知る」行為への第一歩の架け橋になることは言うまでもありません。
井出先生が金沢大学在籍ということで、「もやい展」期間中、3月7日に市内セレクトブックショップ「石引パブリック」にて中筋との対談企画も開催いたします。
井出明先生、応援メッセージありがとうございます。
(中筋 純)
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思索の緒(いとぐち)としての福島第一原発
福島第一原発が事故を起こしてから間もなく8年を迎える。この間、放射能の危険性に関する解釈をめぐって地域や社会の分断が生まれるなど、科学的な問題だけではカバーしきれない悲劇的な状況が出現した。
しかし、この8年の間に日本のエネルギー政策を新しい側面からアーカイブ化する試みとして、端島炭坑(いわゆる「軍艦島」)や三井三池炭鉱の世界遺産化が行われ、一時は単なる「廃坑」であった場所に多くの観光客が訪れている。こうした施設は、日本の近代化を支えた光の側面を持つ一方で、産業施設である以上、健康被害や搾取労働といった影の記憶から逃れることも出来ない。
福島第一原発も、近代化の装置であったことについては間違いない。ただその一方で、文明の象徴とも言える原発が、実は非常に脆弱な安全性しか有していなかったことも結果的に明らかになってしまった。換言すれば、現在の福島第一原発は近代文明社会の限界が具現化された存在であると言ってもよいだろう。このように考えた時、福島第一原発という施設は、単に取り壊すべき対象として在るわけではなく、思索の緒(いとぐち)を我々に与えてくれている。
今回の企画は、多様なアーティストがそれぞれの手法で原発問題に対してアプローチを試みており大変興味深い内容となっている。単に、「反原発か否か」という問題設定ではなく、この展示を通じて鑑賞者とアーティストが原発をいかに解釈するのかというコラボレーションの場としても期待されよう。
金沢大学准教授・井出明
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「もやい」それは、荒縄の強固な結び。3.11から8年、福島原発事故と向き合ってきたアーチスト達の個々の表現が金沢21世紀美術館で結ばれます。絵画、彫刻、写真、生花、造形、詩歌……福島の現実と命の輝きがあなたを包みます。
一人でも多くの方にこのプロジェクトを知っていただくために、引き続きのご支援・そして周りの方への拡散を、何卒よろしくお願いいたします。
https://motion-gallery.net/projects/2019moyai_kanazawa
★もやい展スケジュール★
場所:金沢21世紀美術館 ギャラリーA(石川県金沢市広坂)https://www.kanazawa21.jp/
日時:2019年3月5日(火)〜10日(日)
5−7日/10時~18時 8−9日/10時〜20時 10日/10時〜17時
入場料:100円(各種免除規定あり)