Artrooms fair London 2019 成果報告 -⓶
vol. 11 2019-01-23 0
前回、ロンドンで繋がりが出来たギャラリーのうちのひとつ、Vessel galleryについてお話しました。
ディレクターのAngelとは、今週また契約についてのやり取りをする予定です。
日本でも、ギャラリーとしっかりとした契約を交わした経験はないので、どんなやりとりになるのか未知数です。噂によるとものすごく分厚い契約書類を渡されるのだそうで。
今から緊張しています。
Vessel galleryとは別にもう一つ繋がりの出来たギャラリーについて、
今回は話したいと思います。
そのギャラリーの名前は、
TOAD gallery。
アンティークとアートを扱うギャラリーです。
Instagramで繋がりのある作家さんが紹介してくれて、私自身直感的に「素敵なギャラリーだな」と感じメールを出してありました。
ですがここに関しては、Vessel galleryとはちがって、渡英前にメールをだしてあったものの、返事はなかったのです。
返事がないギャラリーへは足を運ぶつもりはなかったのですが、弱気な私の背中をぐいっと押してくれたのが、イギリスでお世話になった通訳さんでした。
通訳さんの導き
事情がよくわからないわたしは正直なところ、ロンドンに行くまで、メールの返事がきていないところへは、行ってはいけないのだろうと思っていました。
ところが初日(1月10日)お世話になった通訳さんは、
「そんなことを気にしていたら、何も進まないでしょ」
「行きたいギャラリーを正直にリストアップして、明日からのフェアに来てもらいたいこと伝えましょう」
と、わたしに言ってくれました。
10日は開梱と設置の日だったので、その作業が終わってからギャラリーを巡りました。
しかし、待っていたのは厳しい現実
そうしてピックアップしたギャラリーをどんどん回ることになったのですが、
それでもやっぱり、反応のよくないことばかりでした。
リーフレットを見せると、面白いねと反応はしてもらえるものの、じゃあ実際にフェアに足を運んでもらえそうかというと、そうではありませんでした。
【メールを出しても返事がこない】それがロンドンでは普通みたいです。
これは、ロンドンへいってみてわかったことなのですが、メールを送ってあったギャラリーを回ってみると、「忙しくて」「迷惑メールが多くて」メールは見られない、ということがほとんど。
それから、これが一番の理由だと思うのですが、「実際に見てこちらから連絡する」のが普通なのだそうで、作家がギャラリーへ直接売り込みに行くなんてことは、皆無に等しいようです。
ロンドンでは毎週どこかでアートフェアが開かれているらしく、作家とギャラリーの繋がりはほとんどそういう場でつくられるみたいです。
そんなわけで、メールでアポイントを取るということも、困難なことなわけです。
午前中から6件巡り、7件目がTOAD galleryでした。
一日の最後、時間はすでに18時を回って、日没後、気持ちも街も暗く傾いてしまっていました。
通訳さんだけは、いつでも「どうなるかわからない」と前向きでした。
彼女が最後、粘らせてくれなければ、わたしはTOAD galleryまで辿りつけていなかったと思います。
TOAD gallery
TOAD gallerへ入ると、オーナーのPiersさんが迎え入れてくれました。
名前を言っても、すぐに反応がなかったので、
「実は彼女(わたしを手で差し乍ら)先日、ギャラリーあてにメールを送ったんです」、と通訳さんが伝えると、
オーナーはすぐにメールを調べてくれて、メールの内容を確認してくれた上で、わたしの話を聞いてくれました。
今回のフェアで展示される作品を観に来てもらいたいこと、、これをきっかけにロンドンで作品を発表できるようになりたいこと、また、フェアで作品が売れなかった場合の引き取り先を探しているということなど、わたしがなぜここに来たのか全て正直に話しました。
するとPiersさんは、その話を聞きつつメールへ再度目を通し、わたしがフェアに出している作品は「触れてもいい」というところに気持ちを惹かれたらしく、それについての質問をしてくれました。
通訳さんに、「作品に触れてもらうことで、より親密に作品と鑑賞者がつながることができればと、言葉による理解ではなく、身体の感覚によって作品を感じてほしい」と伝えてもらうと、
Piersさんは「面白いね」と仰ってくれました。
「陶芸は質感が重要だから、触れさせて作品を理解させるというのはとても理に適っていると思うよ」と仰ってくれました。「彫刻的な作品でそういったことをしている作家がいないから、とても興味深いね」とも。
また、Websiteの作品の中から特に大きな作品を見つけて、「これは座っていいの?」
壁付けの作品をみて「これは照明?」という質問をくれました。
また、「僕らは見て楽しむだけでなく、機能性ももった、ファンクショナルなアート作品を作ることが出来る人を探しているんだ」と、教えてくれました。
通訳さんには事前にわたしの作品を見せて、どんな思いを持っているのかを伝えてあったので、通訳さんがすかさず、「彼女は作品として触れてもらうことはもちろん、暮らしの中で、人々の感覚を刺激する装置としても働いてほしいと考えているし、勿論それらの作品は座ることも可能です」と伝えてくれました。
TOADでは、自分たちでもプロダクトを作っているそうで、すでに「彫刻的にも見えて、しかも機能性があるカタチ」を実現しています。
通訳さんがしっかりとわたしのことを伝えてくれたおかげで、
彼等のコンセプトと、わたしのしようとしていることとがとても近いところにあるということをお互いに理解し、今後なにか一緒にできたらという話になりました。
Roll 2017 w60 d60 h45 cm
The moon w21d7h46cm
ただし、形態に関しては、ミニマルなものが求められており、「cosmos」のシリーズのようなかたちや、「Be」のようなかたちが好みだと言われました。
「具体的な何かを想起させない抽象的な表現が好みなんだ」、ということでした。
cosmos 2018
Be 2017
また、やはり本物を見たいということで、小さいものでも実物を持って来てもらえたらなと残念がられました。そこは自分も強く反省しています。
今回は小さい作品をもっていくスペースをスーツケースに作ることが出来なかったのですが、やはり実物を行ったその場ですぐに手にとってみてもらえることが重要なのだと痛感しました。今後はそれを前提にした制作(マケットのようなもの)も意識的にやっていかないといけない、と思っています。
実はこのやり取りの中で、「フェアを観に行くよ」といっていただけていたのですが、
彼等も都合がつかず結局フェアにきてもらうことは叶いませんでした。
とはいえPiersさんからは「Please keep in touch」といってもらえているので、まずは小さな作品を送ってみるなどして彼らとじっくり関わりを深めていきたいと考えています。
Vessel galleryは、「a whale」や「stream」のようなかたちを好み、独創性のあるカタチを求めるのに対して、TOAD galleryは「cosmos」のような、どんな空間にも馴染むシンプルなかたちと機能性を重視する。
ギャラリーによって趣向が違うのは当たり前のこととはいっても、こんなにきっぱりと違うというのはわたしには新鮮で、それぞれと面白い出会い方をしたなと感じています。
(順序としてはTOAD galleryのあとにVessel galleryへいったわけなのですが)
どちらのギャラリーにも、通訳さんがきちんと私の思いを伝えてくれたので、相手としっかりコミュニケーションをとることができました。
彼女がいなければ、わたしも相手の思いを受け取ることは困難だったでしょう。
わたしの立場をよく理解し、また初めてわたしの作品を観てすぐにわたしのファンになってくれて、最善を尽くそうと全力を尽くしてくれました。
彼女の存在にわたしは心から感謝しています。
彼女は坪内えつこさん。イギリスに住んで30年以上。
アーティストの通訳のほかに、医療系の研究をしている人の論文を書くサポートや、子供の受験のサポートなどもしているそうです。
そして、何より、忘れてはいけないことがあります。
通訳さんを雇うことが出来たのは、他でもない、支援をしてくれたみなさんのおかげです。
このような機会をつくることが出来た根本には、応援してくれたみなさんの力があります。
それなしに、わたしは渡英できていません、まして通訳さんに同行してもらってギャラリーと交渉するなど、在り得ませんでした。
お金に換算できないくらいの貴重な経験をし、尊い縁を繋ぐことができました。
本当に、みなさんには感謝しています。
作品を置くだけではなく、わたしがフェアの現場にいられたことも、いわずもがな素晴らしい経験となりました。
わたしがフェアへ行っていなければ、繋がることが出来なかった縁、出来なかった再会がありました。
それが、
Fonderia Artistica Versiliese
イタリアのブロンズ彫刻のスタジオを運営している財団で、わたしがローマで知り合ったブロンズの彫刻家の女性が経営に携わっていて、彼女自身その工房で制作もしています。
これについてはまた次回お話したいと思います。
今回は、ここまで。