犬の話を少し…
vol. 11 2021-06-13 0
このプロジェクトは…山川海の自然がかなり好きで野を歩いたり水にさわる日々を過ごし、気づけば狩人(りょうし)となって暮らしている(生きている)日常を紹介や体験出来たり、食や生き物を語れたり、集えたり。の場所を創るためなのですが…
狩人として立場があるのは『犬』のおかげです。狩人の紹介よりも先に犬の話はするべきでした。
猪狩りにおいて犬は「一狗二脚三四がなくて五に鉄砲」と言われるほど重要な存在で振り返れば彼らとの時間がプロジェクトの発端とも言えるのです。
「自然の礎を考えさせてくれた犬」
犬の起源や今居る犬達の系譜等は猪ノ穴で喋ることにしますが、猟歴で決して忘れないエピソードをひとつ。
猪狩りを始めた当初は先輩方の教えでとにかく犬と山に入るのが第一で場数を重ねました。犬の出来が猟果に繋がることは解っているので若い犬が徐々に成長していくのが楽しい数年でした。
単独「一銃一狗」で猪を獲らせる技量が備わるまで育つ犬はそんなに多くはありません。中でも意志の疎通まで感じれる相棒はこれまでに2頭だけです。その1頭が…
職業猟師としてスタートした年の1月終わり、順調に猪肉のストックも確保出来ていてその日も午後から山に入り良い猪を撃ち登った山をそのまま降りる省力的な狩りが成立しました。
獲物を引いて下山中、谷を挟んだ向かいの尾根を登って移動中の群れ猪(子が3親が4)を見つけました。(銃声で起きたのか別の理由かは解らない)。相棒はおそらく目視で群れ猪を確認して反応しかけたので自分は獲物の綱から銃に持ち替え奴の初動を待つ。
相棒は谷を渡らず降りてきた尾根をまた登って…先回りに出たはずでその間に頭をよぎったのは「また獲れたら猪2頭を下ろさなければ」… 予想通り数分後には相棒のひと声と威嚇する猪の唸りが山に響き、群れの1頭を相棒は自分の前に引き連れてきました。狙いを定め引金をひくだけの一瞬前に「ノルマは達しとるからやめとこ」と閃いたと同時に相棒と目が合いました。 そして、それまでのトーンとは異なる吠え方に変わり猪を追い返していきます。100mほどで相棒は戻ってきたので自分は問いました「お前、俺の頭の中がわかったんか?」と。
もちろん返事はしませんし嬉しそうな素振りもなく、車の方向に相棒は先を歩いたのでした。
1日に複数の猪を獲る事はありますし特に巻き狩りの場合はメンバーになるべく多くの発砲機会をつくるのが勢子(犬を使う役)の使命であるので狩りの質が変わりますが、繁殖期を迎えた雌猪達が率いる群れ。それを猟果がすでにあるのに撃つ、損得勘定で言えば正解の選択、を相棒犬が理解したなら「意志の疎通」を確信にした出来事でした。
「一銃一狗」は相棒犬との信頼関係でなり立つ伝統猟だと思っています。 首輪に無線機やGPSといったハイテクを使う狩りでは辿り着けないゾーンです。(電池切れならなんの役にも立たない)
狩りに興味がない方にはつまらん、焦点の定まらぬ話ですみません。
でも、山の肉に秘めるエネルギーの基には理由がありそのストーリーの一部には犬(昔は狼)も加わっています。
皆さんに山の肉を食べていただく機会が増えるなら、もっと猪犬の事を知ってもらえるなぁ。と楽しみにしています。
自分は愛犬家ではありません。猪犬のブリーダーでもありません。飼った犬達が幸せかどうかに断言出来る答えもありません。
ただ、手掛けた犬達が山を駆ける姿の美しさを知っているし、不運にも戦死した奴等が残す山の静けさも知っています。
語彙が足りませんが… 『山はすごい』です。