瀬戸内国際芸術祭、粟島レポート
vol. 2 2019-10-16 0
粟島芸術村 "言葉としての洞窟壁画と、鯨が酸素に生まれ変わる物語
Cave Mural as a narrating the story and story of whale being reborn as oxygen."
Maki Ohkojima and Warli brothers (Mayur & Tushar & Vikas) Photo by Fujio Yamada
こんにちは! メンバーの小金沢智です。
今回のアートブックでは、鯨を主題にした複数のプロジェクトを掲載いたしますが、作品や展示会場の写真のほか、それがどのような背景のもとに制作されたのか、ということも文章化して記載する予定となっています。私は、大小島さんから素材をもらい、話を聞きつつ、解説を執筆する役割を今回担当しています。
さて、そのためには実際に作品を見る必要がもちろんあり、先日、瀬戸内国際芸術祭2019秋会期の粟島へ行ってきました。大小島さんが前回投稿していた展示を鑑賞するためです。
行ってまず驚いたのは、その投稿の写真を見て、「粟島には洞窟があるのか。すごいところを会場にしているな」と思った場所が、廃校になった教室だったということです。使われなくなった教室を洞窟のようにするために、木材で土台を作り、土や砂も使いながら、洞窟のような空間を作り出していたのでした。そこに、鯨の骨を模したインスタレーション(これも本物の鯨の骨ではありません)があり、インドのワルリ族の壁画が描画されており、全体として、いわば「生命の循環」を表現するものとなっています。
(洞窟内入り口)
(洞窟と鯨の始まり。廃校になった粟島中学校の技術室)
私の職場の太田市美術館・図書館(群馬県)にて、大小島さんには、2017年、「絵と言葉のまじわりが物語のはじまり」に参加していただきました。大小島さんが鯨を主題にした作品を発表したのはこのときがはじめてで、以来約3年、大小島さんは鯨を主題にした作品を制作し続けています。そのなかで、大小島さんはベースである絵画の形態や手法だけではなく、今回のような立体物による鯨のインスタレーションの制作も取り入れながら、「生命とは何か」というきわめて大きな問いを、作品を通して考え続けているようです。その変遷は、アートブックを編集するなかで、ハッキリとしてくるでしょう。
今回の洞窟のような空間や、さらには鯨の作品自体が、粟島の人たちの多大なる協力も得て制作されたということも重要です。粟島で大小島さんの作品のガイドをしてくださった方は、「これまでも沢山アーティストが来たが、彼らの多くは最初の数ヶ月はリサーチだった。けれど大小島は最初から作品を作り始めた。だから力になりたいと思ったんだ」と言っていました。学芸員である私自身、展覧会を企画し、作家と準備を進める上で、時間をかけてリサーチを行い、共同して考える機会は多くあります。そして大小島さんも同様に、作家として、制作にあたっては数多くのリサーチを行っています(粟島には作品のメイキングの模様や資料も展示されています)。
(洞窟作りの材料になっている新聞紙)
一方で、そう話す方がいるように、大小島さんは、最初から明確にここですべきことを考えてもいたようです。周りの人たちも巻き込みながら制作するパワフルさと意志の強さこそ、大小島さんならではのものです。「共同する」ということは、彼女の作品の大きなキーワードに近年なりつつあると感じています(現在、青森県美術館の企画展で発表されているのも、他者との共同によって生まれた作品です)。
粟島の展示の模様はもちろんアートブックに収録しますが、私としては、ぜひ会場で見ていただきたい! 会期は11/4までと、あまり時間がありませんが、ここでしか体験できない作品がそこにあります。
今後、個々の鯨の作品は移動し、別の場所で展示されることもあるでしょう。しかし、海に囲われた瀬戸内のこの場所で見ることに意味があるのではないでしょうか。先日も痛ましい災害があったように、津波や台風など、「水」はときに私たちの生命を脅かします。一方で、生命の揺籠としての場所でもあることを、つまり海や川がその両極を同時に持つ場所であることを、大小島さんの作品は改めて考えさせてくれました。
小金沢智
粟島より