バリアフリー上映実現への道(3)
vol. 16 2022-01-04 0
第三回目は「バリアフリー日本語字幕版」についてお届けします。
「視覚障害、聴覚障害の方にも映画館でダンスを体感して欲しい」という熱い思いを、クラウドファンディングで皆様からのご支援を賜りながら始動しました。
その模様を数回に分けレポートしていきます。
<<バリアフリー日本語字幕版をなぜ制作するのか?>>
日本の映画で、日本公開なのに、なぜ日本語字幕?と思われる方が多いのではないでしょうか。
バリアフリー日本語字幕というのは、聴覚障害の方だけに向けて作られるもので作品の台詞や音の情報、話者名や効果音、音楽などを文字で説明する字幕のついた作品のことなのでしょうか?
今回は、字幕制作・翻訳を行う株式会社アウラさんに字幕制作をしていただき、お話を伺いました。
熊谷真弓さん(熊谷)、山本真帆さん(山本)、上田雪乃さん(上田)と表記します
■バリアフリー日本語字幕とは、どういうものなのでしょうか
上田:私たちが制作しているバリアフリー日本語字幕は、必ずしも聴覚障害の方々だけに向けたものではありません。耳が聞こえる方に見ていただいても新しい発見があるものです。映像の中の話者の後ろで聞こえる「音」を字幕にすることで、作品の内容が理解しやすくなります。また、リピーターの方の中には、バリアフリー日本語字幕版を鑑賞してより深い情報を得ている方が多くいらっしゃるようです。
熊谷:制作者は、作品を理解しやすくするために、台本に書かれているト書き(台本で登場人物の動きや場面の状況などを台詞の間に書き入れたもの)を元に「音」を文字にして字幕をつけていきます。バリアフリー日本語字幕版は、聴覚障害の方だけでなく、シニアの方や、音声が聞き取りづらい方でも目で字幕を読むことで情報を補完し、理解を深めていくものだと思います。
■「音」の情報を文字情報にするのにどんなご苦労があるのでしょうか?
上田:台本に書かれていない映像の情報を文字にすることが難しいです。
熊谷:また字幕の文字量が多いと、読み切れなかったり、映像をみる時間がなくなってしまいます。ですので、その作品にあわせての字幕演出、文字情報をどこまで入れるかのバランスが、とても重要になります。
上田:作品によっては、ネタバレにならないように、ト書きの出し方にも気を使います。原作に基づいて「私」「わたし」「ワタシ」などキャラクターに合わせて使い分けて字幕をつけます。そうすることで作品のファンの方々にも納得していただけるものになります。
■「名付けようのない踊り」は、音がとても重要な要素である作品ですが、注意したこと、難しかったのはどんなことでしょうか?
上田:今回は、効果音を字幕にするのに悩みました。台本のト書きにはない不思議な「音」をどういう字幕にするか、難しかったです。
山本:田中泯さんの「踊り」は、視覚で訴えている映像なので、文字情報を入れすぎず、映像の邪魔にならないように字幕を入れる位置にも気を使いました。
日本語字幕入り本編
■監督が監修されるのは珍しいのでしょうか?
犬童監督の過去作品にもバリアフリー日本語字幕版がありますが、監修までしたことはなく、この作品が初めてだと聞いています。
熊谷:バリアフリー日本語字幕制作は、本編の公開前でお忙しい時期というこもあり、監督がはじめから関わるというのは、とても珍しいです。 音声ガイドの場合は、台本に抵触することがあるかもしれないので、監督立ち会いが多いということですが、日本語字幕の場合は殆どありません。今回は、自主制作作品ということもあり、監督には、英字幕版制作からずっと監修いただいておりまして、私たちも作品への理解や思い入れも深くなりました。貴重な機会をいただき、大変嬉しく思っております。
山本:監督に監修していただきながら作業をしてきたので、達成感もあります。
熊谷:バリアフリー日本語字幕は、聴覚障害の方だけのものではありません。作品の音声情報を字幕でフォローしているものです。音声が聞きづらい方、日本語が聞き取りづらい外国人の方、もう一度内容を確認したいというリピーターの方たちも鑑賞しています。バリアフリー日本語字幕がオプション的なものではなく、どのような方にも不平等がないように、作品を同じ公開時期、上映時間に鑑賞できるようになればいいですね。
バリアフリー日本語字幕は、あまり気に留めていなかっただけで、消音にして映像だけを上映している銀行の待合や、空港などで我々が既に触れているものでした。聴覚障害の方だけのものではなく、音声が聞こえづらい方や、多くのリピーターにも鑑賞されているものでした。「名付けようのない踊り」が多くの方々に映画館で体感し鑑賞していただけるように広がって欲しいです。
皆さんにも、ぜひ、「名付けようない踊り」のバリアフリー日本語字幕版をご覧いただきたいです。今後、どのような方でも一緒に鑑賞できるような技術開発が更に進むことを願います。
■「名付けようのない踊り」バリアフリー日本語字幕版の上映に関する情報
公式ホームページの劇場情報欄に掲載されます。1月28日の公開直前の情報公開になりますので、ご了承ください。
取材協力 株式会社アウラ https://www.aura-net.jp/
取材・記事 佐藤啓(共同プロデューサー/クラウドファンディングスタッフ)