演出家・ペーター・ゲスナーさんから推薦メッセージが到着!
vol. 9 2025-01-08 0
ご支援頂いた皆様、ありがとうございます。
1962年旧東ドイツライプチヒ生まれ、1993年に来日し、劇団「うずめ劇場」を旗揚した演出家のペーター・ゲスナーさん。著者ウリと年齢も近く、同時期を中欧で過ごしたペーターさんの目に『今日が人生最後の日』はどのように映るのだろうかと思い、ドイツ語版を読んだ感想を頂きました。
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この作品を読んで最初に思い浮かんだのは、かつて私たちが「東側」にいた頃、ブダペストへヒッチハイクして映画『ヘアー』を観に行ったことです。当時「西側」の人々はイタリアへ向かっていました。私もそうしたかったのですが、目の前には有刺鉄線が立ちはだかっていたのです。ブダペストから戻った翌日、私は『ヘアー』の主人公のように国境警備隊へと徴兵されました。
さて、この作品についてですが、日本で人気の「私小説」というジャンルに分類されるもので、美しく生命力に満ちた物語です。
17歳の少女がどんな状況下でも人生を経験し楽しもうとする姿は、(ボサボサの)彼女のヘアースタイルに象徴されるだけではありません。たとえそれが道徳的には問題視されるものであっても、挑戦的な状況に身を置きながら責任を引き受けて生き抜くことで、「本当の大人」になるチャンスをつかむのです。
この物語は、細部まで緻密に描かれたイラストと小さな要素が融合し、まるで映画を見ているかのような感覚を与えてくれます。きっと誰もが自分の好きな場面を見つけられるでしょう。
たとえば、ウリが海で泳いだ後、初めて髪型が崩れる場面は、普通のかわいらしい少女らしい姿が印象的です。また、旅の途中でお金を使わず水着を作る際に、母のアドバイスの大切さに気づくシーンも微笑ましいものです。
さらに、あるジャンキーの言葉も忘れがたいものです。「悪党どものあいだじゃ、名誉が大事なのさ。だが警官に名誉はない。あいつらには気をつけるにこしたことはない」また、ディーテルの「内側へと目を向けるべきだ!」という言葉に対し、ウリが「やっと現実の世界に出られたのに!」と返す場面も心に響きます。
この物語は、今日の社会においても重要なメッセージを持っています。しかし、現代の道徳的な価値観を守ろうとする人々は、若い女性が男性との間で体験するつらい出来事を指摘し、それがどれほど悪いかを語るかもしれません。レイプの経験は決して軽視できないものだからです。
それでも、この本は苦しみを生命力に変える女性の姿を描いています。シチリアで自らの誇りを守り、決してそれを裏切らないウリの姿は、「女性の英雄」としての力強い自負を与えてくれるのです。「ドラゴンの血を浴びたあとのジークフリートのように強い――わたしはそう感じていた。」という言葉がそれを象徴しています。
読者として、私はこうした「通過儀礼の旅」に果敢に挑む女性たちに心から共感し、憧れを抱いています。しかし、スマートフォンがあらゆる体験の探求を奪い、善悪の判断まで行う現代では、こうした旅はますます難しくなっています。
ウリの声を借りれば、「何週間かストリートにいて、ありったけの本で何年も勉強したことより、たくさんのことを学んだの。旅がしたい!ぜんぶ試してみたい!静かに座らなきゃならないなら、やりたい気持ちで爆発しそう!」
私は今の世界にも、ウリのような17歳がたくさんいることを願っています。
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プロフィール
ペーター・ゲスナー
1962年、旧東ドイツライプチヒ生まれ。国立ベルリン俳優学校エルンスト・ブッシュで学び、ハレのターリア劇場で4年間演出、俳優を勤める。ライプチヒ大学で演劇学修士取得。’93年に来日し、北九州市を拠点に劇団「うずめ劇場」を旗揚。現在は東京に拠点を移し活動を続ける。
2000年、第1回利賀演出家コンクールにおいて「紙風船」(岸田國士作)で最優秀演出家賞を受賞。2008年~2011年、調布市せんがわ劇場芸術監督。現在は桐朋学園芸術短期大学演劇専攻科教授を務める。2009年より、「プロジェクト・ナッター」プロデュースによる演劇活動を展開。ザ・スズナリなど都内複数箇所で公演を行ってきた。また、近年ではオペラの演出も行うなど、活動の範囲を広げている。
前作「砂女←→砂男」では、少年王者舘の天野天街氏と共同演出。街ぐるみの企画を複数プロデュースし、伝統ある下北沢ザ・スズナリで記録的な観客動員を実現した。
★うずめ劇場 第41回公演
「ニッポン人は亡命する。」
―― けっして福井県高校演劇祭での『明日のハナコ』事件に取材しているわけではない喜劇
戯曲/鈴江俊郎 X 演出/ペーター・ゲスナー
<スケジュール>
◆東京・両国 シアターX
2025年1月24日(金)~26日(日)
◆大阪・ウイングフィールド 旅劇
2025年1月30日(木)
◆福岡・東八幡キリスト教会
2025年2月1日(土)
【公演ホームページ】https://uzumenet.com/exilefromjapan/