「どんなに小さなことでも、きちんとやるってことが大切」 対談:松本春野さん(絵本作家)×稲葉剛
vol. 10 2014-08-05 0
稲葉: 今日のゲストは松本春野さんです。
松本: よろしくお願いします。
稲葉: 松本春野さんは絵本作家として活躍されていますけれども、今回、新しく立ち上げた「つくろい東京ファンド」のマスコットキャラクターである、繕い猫の「ぬいちゃん」を作って下さいました。本当にありがとうございます。
松本: たくさん、いろんな所で使ってもらっていて光栄です。
稲葉: これから「ぬいちゃん」のいろんなキャラクターグッズも作って行こうと思っているんですけど、まぁ、この「ぬいちゃん」のコンセプトはですね、社会のセーフティネットの穴を縫っている、繕っている猫をキャラクターにして欲しいとお願いしたところ、本当にイメージ通りのものを作っていただいたということで・・・どうでしたか?作ってみて」
松本: 稲葉さんの頭の中にあるものを、ただただ絵にしただけでしたので。コンセプトが明確だったので、すごくやりやすかったですよ。何も迷わずに。
稲葉: これまでにも春野さんが投票率を上げるキャンペーンなどで猫のキャラクターを使っているのを「かわいいなぁ」と前々から思っていて。
松本: 猫好きの人の拡散率が高くて。絵本でも犬よりも猫の方が売れるんですよ。猫好きはお金を落とすっていうか、行動に出るみたいで。(笑)
稲葉: そうなんだ。そこまでは考えていなかった。(笑)
松本: それで、裏をかいて「投票に行こう」の時にも猫を一個入れといて。(笑) まぁ、猫、好きなんですけど。
稲葉: もともと松本春野さんとは、多分2006年ころだったと思うんですけど、もやいで「こもれびコーヒー」という自家焙煎事業を始めたときに、コーヒーの販売に使ういろんなキャラクターやイラストを描いていただいたというところからご縁が始まったんですけど・・・。
松本: 何者でもない私を使っていただいてありがとうございます。
稲葉: いやいや。最初はサロンに遊びにいらしたんですよね?
松本: そうなんです。ちょうど、あの頃、反貧困フィーバーみたいのありませんでした?
稲葉: 2006~7年頃くらいですかね。
松本: やたらメディアを賑わしていて、本もたくさん出てて。連日、非正規雇用の派遣切りとか、ああいうものが報じられていて。あの時、私は大学を卒業して、イラストレーターとして何とかやって行こうとアルバイトをしながら生計を立てていたので、それって正社員でもないし…。だから自分のこととして、本当に実家がなかったら路上の世界だなっていうふうには思っていたんですね。本当に自分とはかけ離れた世界というふうに思っていたものが、何かこう、知れば知るほど、すぐそこの世界という感じがして、他人事じゃないし、(生活困窮者は)私のような生活をしていた人達だったんだなという見方をするようになったのは、やっぱり自分が非正規でアルバイトしながらその日その日で暮らしていたような生活だったので。先も見えなかったし。何かこう、夢を追いづらい時代で、非正規がダメとか、正社員にならなきゃダメとかいうプレッシャーが強い中で、「何で絵なんか描いてるんだろう?」ってすごい罪悪感を持ちながら、でもいつかこれで生計を立てたいから何とか頑張るぞって思ってたんですけど、たまに心が折れそうになると、自分のためにもセーフティネットはしっかりしてないとなって。
稲葉: 貧困問題は美大生だったころから関心があった?
松本: そうですね。美大ではそんな社会のこととか教えてもらえるような授業って無くって、せっかくなら絵を描くにしても世の中のためになるようなモノづくりをしたかったし、そのためには世の中のことを知らなくてはいけないなと思って、東大の「法と社会と人権ゼミ」という過労死を扱う川人博弁護士のゼミに2年間潜らせてもらって、そこでいろんな人権問題を勉強して、問題の根底にあるのが貧困問題かなって自分で何となく思って。どんな問題も結局、貧しい人とか力のない人たちが当事者になって被害者になって抜け出せない。これは格差の問題だと思ったんですね。 なので、その流れで「もやい」に行きました。
稲葉: 特にここ数年、311以降だと思うんですけど、社会に余裕がなくなっているような気がして、例えばヘイトスピーチの問題もそうですけれども、貧困や格差が広がる中で、本来貧困を生み出している原因に対して「どうにかしろ
って言うのではなく、お互い足を引っ張ったり、叩き合ったりするという動きが広がってきているなぁと懸念しているんですけど。
春野さんは311以降の福島の問題も含めていろんな活動をされていますけど、よかったらその辺のところを…。
松本: そうですね、できることがあればと思って。311という、すごく大きなことがあったので、まず一番に福島がやはり心配だったので、福島に足を運んだんです。その現状を報道する機関はいっぱいあったんですけど、子どもの心っていうものをきちんと伝えるのは新聞とかテレビっていう機関じゃないなと。やっぱりそこで絵本の出番かなって思ったんですね。で、そういう場でもきちんと記録して、伝えるってわけではないのですけれども、書き記していかなくちゃいけないかなって思って、続けています。
稲葉: 絵本作家になられたのは、やはり…?
松本: 祖母が絵本作家の岩崎ちひろという人だったっていうのはやはりあって。岩崎ちひろ美術館で育ったっていうのもあって、絵本は身近だったんですけども。
稲葉: 美術館の中で?
松本: そう、中で育ったんです。自宅と美術館がくっついているような、自宅を改装してどんどん増設してっていう美術館だったので。今は違うんですけど。バリアフリーにするのをきっかけに一家で隣の駅に引っ越したんですけど。
稲葉: それまでは美術館に。
松本: 高校生までは美術館に住んでました。だからいつでもいろんな世界の絵本を見られる環境にあったし、あと勉強が嫌いだったので。
稲葉: 絵を描くのは好きだったんですか?
松本: 落書きが好きでした。だけど、すっごくだらしない子だったので、いつも絵具セットとか忘れちゃうんで、図工の時間とかはずっとお喋りしていて、きちんと評価されるようなことは何一つやってませんでしたけどね。
稲葉: でも、自分で描くのは…
松本: そうですね。人を描くのが好きで、人の生活とか。人間が好きだったんですよね。
稲葉: それが一番ですよ。
で、福島の絵本も出されて、絵本作家として社会の問題にも関わってという活動をされていますけども、つい最近のことですけど、7月1日に集団的自衛権の閣議決定がなされたということもあって、私も連日官邸前の抗議に参加していたんですけど、ツイッターとかFBで見ていると、春野さんも何度か駆けつけて声を出していたようですね。同じ場所にいたんだろうなと思うんですけど。
松本: 私も運動家じゃないんで分かんないんですよ。ああいうことがどれくらい効果があるのかとか。冷やかに見る人たちもたくさんいるじゃないですか。でも、何もやらないよりはやった方がいいというスタンスで。人に笑われようが。困ることには「困る!」とひとこと言っておきたいし。アレと投票以外にやり方が分からないんですよね。投票はなかなかちょっと、それだけだと・・・。
稲葉: そんなしょっちゅうあるわけでもないですからね。
松本: 何かいい方法ありませんかねぇ?
稲葉: 私たちも日常的にもロビー活動やったりとか。私たちも生活保護の問題とかで議員さんのところに行ったりとか、厚生労働省に申し入れをしたりとかはしていますけど、まだまだこう、いろいろな方法を開発していく余地というのはあるんだろうなとは思っていますけどね。
松本: 何かあの、柳澤協二さんっていう元防衛官僚だった人の話を聞きに行った時に、集団的自衛権に反対していて、「デモって官邸からどういうふうに見えてましたか?」って質問したんですよ。そしたら、その時は「ケッ!」って思ってたんですって。「そんなの何にも変わんないよ」って。でも、今、彼は反対する立ち場になって、とにかくメディアがきちんと情報を載せて、世論調査に響くようなことになるのであれば何でもやって欲しいって言っていて。若い人はSNSも使いこなして必死でやってくれって。「ケッ!」って思っていた人でも、反対する立ち場になれば、必死でデモも肯定するんだなってことが分かって、ああ、意味あるんだなって。
稲葉: 聞こえてますもんね。テレビでやってましたけど、官邸の中で取材していて外のデモの声が聞こえていたりとか。私も議員会館とかでロビー活動していると、外の抗議活動が聞こえてますから、意識はせざるを得ないと思うんですよね。
松本: そう、あとは世論を動かすってことがすごく重要なんだって元官僚は言っていました。(笑)
稲葉: 今日はその時に官邸前に持って行かれたプラカードを持ってきてもらいました。これ実物ですよね。これ持って電車に乗って来たんですか?
松本: そうですよ、異様ないでたちで。何でこっちの面に文字がないかというと、文字が多いプラカードの中では、絵だけのプラカードは結構目立つので。あと海外のメディアが撮ってくれるんですよ。だから、(周囲に)文字が多い時は絵の面を使って、少ない時は文字を書いた方を使ってって、リバーシブルでやってるんです。(笑)
稲葉: 私、今回公式サイトを作って、今回の対談も掲載させていただくんですけども、まぁ、貧困の問題だけでなくて、平和の問題も含めて、いろいろなテーマで発信させていただこうと思っていますんで、また是非連携させてもらえればと思っていますし、今回「つくろい東京ファンド」でキャラクター作っていただいたということで、いろんな形でコラボできればと思っています。最後に「つくろい東京ファンド」に聞きたいことを。
松本: 最初私も何が何だか分からずに「描いてください」って頼まれて、これがどれくらいの規模のものなのかということも分かってなかったんですよ。クライドファンディングというのも、聞いたことあるけどどんなものなのかは。まぁ、私もやってみました。ちゃりちゃりーんって。(笑)
稲葉: ああ、ありがとうございます。
松本: きちんとこうやって行動を起こすと、メディアがそのあと取り上げてくれたりして、活動を広げていくのも抜かりなくやってらして・・・。
稲葉: この「ぬいちゃん」のお陰です。
松本: どんなに小さなことでも、きちんとやるってことがどれだけ大切かっていうことを稲葉さん見ていると教えられて、これを批判しようと思えば、「こんな部屋数じゃあ足りないじゃないか」とか、いろんなことを言う人がいると思うんですけど、この行動はこの先もきっともっと広がって行くんだろうなと、見ていて思いました。応援しています。
稲葉: ありがとうございます。そういえば、雨宮処凛さんがこの「ぬいちゃん」を見て、「かわいすぎる!」って絶叫に近いようなツイートをされていて、結構そういう効果もあって広がったのかなぁと。
松本: 本当ですか?あー、嬉しい!!稲葉さんの頭の中が、こんなかわいいメルヘンで出来ていたお陰でこれができましたので。(笑)
稲葉: 今後ともよろしくお願いします。
松本: よろしくお願いします!