【なぜ“津島”なのか】⑱ 知らない土地で逝った母
vol. 23 2023-05-25 0
「避難しない」と言い張る父、次男さんに「すぐに帰れるから」と騙し避難させたのは母親、順子さんだった。しかし避難先でどんどん弱っていく夫の姿に、嘘をついた後ろめたさが順子さんを苦しめた。しかし避難して半年が経ったころ、その順子さんに認知症の症状が現れはじめた。農作業が大好きで生き甲斐だったのに、避難先では生活環境が大きく変わり、何もすることがなくなったことが原因だと息子の晴男さんは振り返る。
「来月には津島に帰ろう、夏になったら帰ろう」と言い続けていた順子さんは、認知症が悪化すると、外出すると帰り道を忘れ、周囲の人間たちには猜疑心を抱くようになった。
施設に通うようになったが、その施設で突然、急死した。家族は誰もその臨終に立ち会えず、ただ茫然とするばかりだった。「母を知らない土地で、独りで逝かせてしまった。自分はなんて親不孝者だ・・・」。晴男さんは嗚咽した。