【なぜ“津島”なのか】⑪/40年で獲得した“故郷”
vol. 17 2023-05-03 0
社会もほとんど知らず21歳で嫁いだひろみさんにとって、津島は「今の私を形づくったもの」と実感する。「もしあのまま東京なんかで暮らしていたら、コミュニティというものを考えることはなかったかもしれない。こうやって離れてみて、『あのコミュニティが私にとって一番大事なものだった』と思えるんです」
津島に嫁ぐということは、自分は一生そこで暮らす覚悟だった。死ぬまでここで生きる、つまりそこでの人間関係も死ぬまでずっと続く関係だと信じていた。ひろみさんは「津島は自分の“故郷”になっていた」と思い知ったのは、原発事故でそれを失った時だった。
津島を追われた直後、避難先に自衛隊の音楽隊が慰問に来た。演奏の最後に歌「ふるさと」を合唱した。しかしひろみさんは途中から涙で歌えなくなった。「ああ私は40年かけて故郷を手に入れていたんだ」と実感した瞬間だった。