【なぜ“津島”なのか】⑩/初めて知った濃い“コミュニティ”
vol. 16 2023-04-24 0
石井ひろみさんは北海道生まれだが、鉱山会社の社員だった父の転勤で、福岡県の筑豊、大阪、神戸、東京、横浜と転々し、“故郷”と呼べるもの地はなかった。
短大生の時にアルバイト先で知り合った現在の夫と21歳の時に結婚、津島の旧家、石井家に嫁いだ。「(都会から来た嫁で)珍しかったのでしょうね。一挙手一投足が見られているような気がして、とにかく会った人すべてに、にこやかにあいさつをするようにしました」
何もかも見られている。「批判されないようにしなくちゃ」と必死だった。しかしその周りの眼は温かかった。
津島の人間関係は濃密だった。義母が倒れたとき、すぐに助けを頼める人が何人もいる。隣同士、食べ物のやり取りをする。雨の時、通りかかった人が干していた布団を取り込んでくれる。人間関係が希薄な都会育ちのひろみさんにとって、はじめて体験する“コミュニティ”の温かさだった。