【なぜ“津島”なのか】①きっかけはNHK番組「赤宇木」
vol. 8 2023-03-22 0
東京で、「津島」の名前と場所を知っている人はほとんどいないだろう。福島県阿武隈山系の広大な山間に広がる人口約1400人の小さな共同体「津島」。「なぜこんな無名な場所の映画を作ったのか」と問われたら、「人に惹かれたから」と私は答えるしかない。
きっかけは、2016年にNHKで放映されたドキュメンタリー番組「赤宇木」だった。2時間の番組の中で、放射線量のとりわけ高かった赤宇木を、江戸時代から事故5年後までの歩みを丁寧にたどった名作である。
その中の中心人物が赤宇木の区長、今野義人さんだった。毎月、赤宇木各地の放射線量を測り続け、その結果を季節の便りを添えて福島県内外に避難した元住民に送り続けていた。さらに100年後の子孫たちに遺すために赤宇木の「歴史書」の編纂し続けている人物だった。「『仏様のような』穏やか表情で、失った故郷を語るこの人に、直接じっくり話を聴いてみたい」―それが津島との出会いのきっかけだった。
(写真・今野義人さん/撮影・土井敏邦)