メンバー寄稿vol.1「みんなのデータサイト」の存続をかけて
vol. 31 2021-05-13 0
市民による放射能測定の実情や、10年間にわたり活動を続けてきた測定室について、また今回のクラウドファンディングの目的について知っていただきたく、プロジェクトメンバーによる特別寄稿を3回にわけてお送りします。
第1回は全国の市民放射能測定室ネットワーク「みんなのデータサイト」事務局長の小山貴弓からみなさまへのメッセージです。今回このプロジェクトが発足した経緯と、みんなのデータサイトの運営状況をお伝えします。ぜひお読みください。
●子どもたちを守りたい!沸き上がる思いがつくった「市民放射能測定室」
東京電力福島第一原発事故が起きて、各地にできた市民放射能測定室。放射能の専門家でもない市民が、まさしく自分たちの「生存権」をかけて民主主義的に立ち上がり、科学的にデータを蓄積するため集ってつくられました。
今目の前にある食べ物は安全なのかを知り、子どもたちと安心して食卓を囲むために、お母さん・お父さんたちが集まって、自分たちで高額(1基約400~1,000万円)の測定器を購入し、設置場所となる事務所を確保し、正しい測定方法を身に付け、市民の皆様から検体と測定料をいただくことにより、地域のどんな食べ物なら安心できるのか必死の思いで測定して確認してきました。
そして、その全国にある市民放射能測定室が測った貴重なデータを統合して公開しようと誕生したのが「みんなのデータサイト」です。
どんなデータでも登録できるのではなく、極力正しく測定されているデータのみが登録されるように独自の検定制度をつくったり、機種ごとに異なったフォームで出力されるデータを、いかにわかりやすく統一的なデータとして公開するか、どんな品目のテーブル設計なら入力も検索もしやすいか、多くの議論や技術的な壁を乗り越えることが必要でしたが、諦めずに来られたのは「これが絶対に必要とされている」という確信があったからです。
市民の市民による市民のための放射能測定データが待ち望まれていました。
私たちが目指したのは、何でもかんでも汚染しているのではない、科学的データに基づいて考えたり、分析したりして、事実を自分たちの手でつかみたい、知らせたいということでした。国が示す偏ったデータでは理解できなかったその試みは多くの方に届き、「みんなのデータサイト」という名前が徐々に知られるようになりました。
そして、食品測定だけではなく、政府が一向に始めない土壌測定に着手するのが、全国ネットワークであるみんなのデータサイトの使命なのではないかと思うに至ったのです。
資金も土地勘もない中、どうやって市民の皆さんにご協力頂き、統一手法で土壌を採取していくか、紆余曲折の末、コミック版(マンガ)によるマニュアル・虎の巻を作成、「資金」と「採取」を別々にご支援頂くという手法で、全国100回以上に渡る説明会を実施して、「東日本土壌ベクレル測定プロジェクト」という巨大な山を動かしました。
地道に地域で土壌採取をしてくださった方、車を出して現地をご案内頂いた方、寝泊まりする場所をご提供頂いた方、せっかく来たのだからとご馳走してくださったり、お土産をくださったりと、各地の皆様からの御恩は決して忘れる事はありません。そんな1ヶ所1ヶ所、おひとりおひとりの積み重ねによって、2014年から実に3年半をかけ、原発との距離ではなく、プルームの流れと雨や雪が落ちた場所で、東日本17都県の広域にまだらに放射能汚染が拡がっていることをマップにして実証することができました。
みんなのデータサイトスタッフによる測定のようす(映画監督 鎌仲ひとみさん「カマレポ」より)
● The 10th FUKUSHIMA, Nippon AWAKES の始動
2012年の発足以来、一貫して市民の皆様からの測定料またご寄付と、各ファンド様による助成金によって支えられて来ましたが、実は「東日本土壌ベクレル測定プロジェクト」が完了した2017年の終わりには、資金はもう底を尽きかけていました。そこでみんなのデータサイトが絶対にやっておきたいこと、後世にこの記録を遺すこと、国会図書館にデータを保管してもらうため、「図説・17都県放射能測定マップ+読み解き集」をつくることに全精力を傾けることとなりました。
この時、既に事務局維持費を確保することはできず、最後の印刷費には絶対に手を付けないという約束で、スタッフは半年以上無給で決死の覚悟で執筆作業に臨むことになりました。
すべてをクラウドファンディングに託すという形の賭けでもありましたが、担当となってくれた柳澤史樹さんの尽力で、この本をこんなにも待っていてくださった方がいたのかと、奇跡のV字回復を果たすことができました。
そして、出版社をつくったことで、累計2万部の大ヒットによりお陰様でそこから2年間は書籍の売上でデータサイトを維持することができました。
その間、日隅基金大賞に続いて日本ジャーナリスト会議のJCJ賞を頂いたこと、英語版ダイジェスト「CITIZENS’ RADIATION DATA MAP OF JAPAN」の発行で海外にも実状を知らせることができたことなどで、組織としての自立性を高く評価されることとなりましたが、同時に放射能に関する助成金が少なくなったことと相まって各種助成金を得ることが難しくなったのが、今日の現状です。
そんな中、新たな試みとして近づくオリンピック開催に伴って、インバウンドの客層になんとかして福島第一原発事故の実態をあらためて知らせたいと、場所を確保し、前述の柳澤史樹さん、中筋純さんとデータサイト有志が一緒になってアートによる仕掛けを準備していました。ところが、突然の新型コロナウィルスの出現で、リアルでイベントを実施することが難しくなってしまいました。しかし、ここで諦める訳にはいかないと、コロナを逆手に取って継続してやれること、WEBサイトによる新しい発信の場をつくろう!と、「The 10th FUKUSHIMA, Nippon AWAKES」が誕生しました。
今まで出会えなかった広範な方々に、放射能や測定のことを伝え、見たり聞いたりすることの出来なかったアーティストの皆さんの3.11に寄せる作品への思いや人生観を覗いてみようというこの試みは、2021年4月1~8日に東京の船堀で緊急事態宣言の合い間を縫って実施された中筋純さん率いる「もやい展TOKYO2021」で、アートと測定(みんなのデータサイト)を一連の流れで展示をし、コロナ禍に4,200人もの来場者を得たことで、確信をもって体現されました。そして、現在実施中の「The 10th FUKUSHIMA, Nippon AWAKES」のZOOM企画によって、それが引き継がれています。
●「市民活動とアートの融合」という新しい試み
真面目で地道な市民活動と、自由な発想をもったアートとは一見接点がなさそうにも思えますが、STAND ALONE(ひとりでも立つ)という意味では、根っこが実は深く結びついており、思いの行きつく先がほとんど同じなのだということがひしひしと感じられ、多様に交わることがお互いにとって非常に有意義だということがわかりました。
むしろ、生き方としての実践を挑戦的に行なっているアーティストの皆さんの心意気に、こちらが励まされることの方が多く、市民活動は幅広い柔軟性を獲得していくことが重要だと、学ぶこと多しです。
測定室の理事でありながら、そんなアーティストの皆さんとの貴重な接点を持っている、ふくしま30年プロジェクトの平井有太さん、通称有太マンが「The 10th FUKUSHIMA, Nippon AWAKES」のリーダーに名乗りを上げ始まった、10thのクラウドファンディング。
目標額600万円の内、300万円をみんなのデータサイトの維持に充てたいと、あと残り1ヶ月に迫ったクラファンに初挑戦、拡散に尽力してくれています。
みんなのデータサイトがこのところ頑張ってきた、タケノコ測定、キノコ測定、山菜測定など、検体の購入費や測定費、新たに準備している書籍の執筆費や印刷費、全体を維持管理しみんなのデータサイト出版の実務をこなす事務局費など、各測定室とみんなのデータサイトの維持には大きな金額が必要となります。
現在、タケノコと山菜のハイシーズンであることや、食品基準値問題の奔走でクラファンとを同時に行なえないみんなのデータサイトの代わりに、10thが頑張ってくれている格好です。
コロナ禍で、すべての皆さんが苦しんでいる中、大変心苦しいのですが、データサイト事務局スタッフもこの1年間4人で月額20万円程の固定費で頑張るしかないところまで追い詰められて来ました。
それでも、立ち上がった民主主義の灯を消さないよう、「放射能測定」という見えないものを見える化して、判断のためのものさしを提供する活動、市民が自分で考えられる活動を存続させ続けてきました。オタクだけれど一番弱い者に寄り添おうとする仲間たちの地味で地道な作業が継続できるよう、測定室の存続に力を貸してください!
是非とも、10thのご支援をどうぞよろしくお願い致します。
みんなのデータサイト事務局長:小山貴弓
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最後までお読みいただきありがとうございました。
市民による放射能測定を支援する同プロジェクトのクラウドファンディングは現在目標600万に対して1,285,000円、達成率21%。残りは29日です。シェア&ご支援をお願いいたします!