監督インタビュー【2】
vol. 23 2021-11-29 0
クラウドファンディング、残すところ二日となりました。
今日も、上映実行委員会スタッフが行った、伊藤有紀監督のインタビューを掲載させていただきます。時間軸としては、昨日アップしたインタビューから少しさかのぼることになります。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
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写真:日本大学芸術学部映画学科 卒業制作の劇映画より
ー日本大学の大学院では春日さんと一緒だったんですよね?
うん、春日くん(映画史・時代劇研究家の春日太一氏)は大学院にいる時から、もう東映の撮影所に取材で入ってたから、僕なんかとは気構えが違う。彼は論文のために取材に入ってたけど、たぶん、いつか本にするって頭がすでにあったと思う。当時から、しっかり社会と繋がっていた。
僕はといえばモラトリアムで、もう二年学校に残って、ちょっとこの先の人生とやらの様子を見てみます…という感じだった。
大学院生には「研究室」って部屋があてがわれていて。サロンというか部室というか…そこで打ち合わせしてもいい、一人で勉強してもいい、みたいなちょっと大きめの部屋。授業が終わったあと、とりあえずみんなそこにふらっと顔を出す。
春日くんとは、その研究室でよく話していた。彼の、日本映画や時代劇についての豊富な知識を、マシンガントークで浴びていた僕は、幸福なリスナーだったと思う。学生の映画談義で括ってしまうには、いま聴いてもかなり味わい深い話をしていたんじゃないかな。
ー その当時、映画会社の入社試験を受けたんですよね?
大学院在学中に東映を受けた。最終の会長面接で落ちたけど。
ー 東映の何を受けた?
東映が正社員として、新規に助監督を募集してたんよ。確か、助監督と脚本部を。で、助監督を受けた。(うろ覚えだけど)基本的には面接の繰り返し。最終面接では、「助監督というのは何をする仕事か?」と訊かれたんじゃないかな。落ちたのは、中途半端に学校で映画をかじってたのが鼻についたんだと思う。
今は、入らなくてよかったと思ってる…というか、東映に入ってたらきっとダメだったよ僕は。潰れてたと思う。40歳を超えた今だから客観的に見えることかもしれないけど、自分は組織の中で這い上がっていくタイプではないからね。
ー 24歳で学校を出た後は?
2004年の三月に大学院の修士課程が終わった。で、秋くらいに「助監督を探してる監督がいるけど会う気あるか」と知人に言われて、東映の教育映画などをやられていた太田実監督に会う。そして、初めてのプロの現場に、フリーのサード助監督として入った(CSサイエンスチャンネルの医療ドラマ『季節が変わる時Ⅲ』)。
ー どんな体験でした?
う〜ん…「体験」なんて言えるような、そんな生易しいものじゃなかった。
ー 怒られました?
怒られた怒られた。温厚な太田監督には怒られなかったけど、周りのスタッフの方にめちゃめちゃ(怒られた)。そりゃそうやわな、何にもできないし、生意気だし。ただただ使えないスタッフ。
会社に入ったんじゃなくて、フリーだから、作品ごとに集められるわけ。この作品では確か、2004年の十一月から一ヶ月ちょっと、監督と事務所にこもって準備をお手伝いして、十二月に入って一週間ロケ。計一ヶ月半くらいの拘束だったんじゃないかな。
ー その時は、どこに住んでたんですか?
東京都北区の十条。
ー いいとこですね。
うん、東京の、北の下町。エレカシとか真心ブラザーズ、ピーズが好きだったからね(どれも北区と縁が深い、日本を代表するロックバンド)。
僕の部屋は、六畳一間の、風呂無し共同トイレの古い木造アパート。
で、『季節が変わる時Ⅲ』の撮影は一週間、東大病院という所であった。早朝に集合して深夜3時くらいに解散、でまた朝5時半集合…みたいな地獄のスケジュール。当時は初めてだから、それも当然くらいに思っていたけど、強烈なスケジュールだよね。今なら、いい仕事できるわけないって思う。予算的にそのようにしか組めなかったんだろうね。
部屋に風呂がなくて、普段は銭湯通いをしていたから、撮影中は銭湯の閉店時間に間に合わず、連日、風呂に入れなかった。だから、タオルを濡らして体をこする、水道の蛇口で頭だけ洗う…そんな昔のバンカラ学生みたいなことをやっていた。でもそんなんじゃ、日に日に汚くなっていく。目の前には有名な俳優さん達…結局、自分のプロ意識の欠如と言えるのだけど、まあ、しんどかったよ色んな意味で。
ー なるほど。
その後もいくつかの現場に参加したり、制作会社にお世話になったり…やがて、スカパーの番組のディレクターをやり出してメシが食えるようになっていったり…。
迷惑かけることも多かったし、そこは今でも冷や汗が出るくらい申し訳なさを感じるけど…当時、もがけるだけもがいておいたのは、良かったという気がしています。そんな日々の結果、今の自分があると思うので。
写真:大学の三年実習の制作現場より
【2020年4月22日 収録】
2021/11/29
映画『おれらの多度祭』上映実行委員会