最終日:監督インタビュー【3】
vol. 24 2021-11-30 0
いよいよクラウドファンディング最終日。本日23:59までとなりました。
昨日に引き続き、上映実行委員会スタッフが行った、伊藤有紀監督のインタビューを掲載させていただきます。2020年4月21日・6月29日に収録したものを、再構成してお届けします。
皆さま、今日までありがとうございました。そして、明日からもよろしくお願いいたします。
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写真:今年閉館したアップリンク渋谷にて(2017年)。春風亭一之輔さんと伊藤監督(左)
ー 最近なにやってるんですか?
二年くらい前から劇映画の脚本を書き始めていて、もう完成して、推敲もだいぶ進んでいます。
ー なるほど。
で、今年の2月に、僕の劇映画のプロデューサーをやってくれることになっていた
三重県の方と東京に行って、大手映画会社やプロダクションのプロデューサーと会って…こう、劇映画の道筋をつけるということになっていたんだけど。その頃から日本でコロナのニュースが少しずつ出始めて。
その三重県の方がとてもシビアにそれを受け止めて…東京行きが当日朝に中止になった。
ー あ〜。
そのうちコロナの影響が拡大してきて、企画を一時停止させよう、ということになった。一回仕切り直して、世の中の動静を見ようと。コロナはその辺りからだから、かれこれもう二ヶ月以上か…。
ー 止まっちゃいましたね。
いや、「一時停止」だね。
直接的に劇映画のことは今はやってないけど、ちゃんとやることはやっているつもり。
ー それはどんなことを?
今年完成したドキュメンタリー映画をいくつかの映画祭にエントリーしていて。そういうことをやっていくことで「火を絶やさない」というか、いつか劇映画にもフィードバックされていくと思うんだよね。
ー なるほど。それでは今年完成した、その作品についてお聞かせください。
タイトルは『おれらの多度祭』といって、三重県桑名市多度町の、 "上げ馬神事" というちょっとユニークな、激しいことをやる祭、「多度祭」を追いかけたドキュメンタリー映画です。その町は、僕の出身地でもあります。
ー 新作は、何作目の監督作品になるのですか?
福岡県八女市の古い町並みでの暮らしを撮った『まちや紳士録』、大阪のベテラン落語家さんを追いかけた『人情噺の福団治』に続く三作目ですね。ドキュメンタリーにっぽん三部作、というくくりにしてて、今後、当面はドキュメンタリーを作るつもりはないです。今のところ。
ー それは、なぜ?
ドキュメンタリーは、生半可な気持ちでは作ることのできない、作ってはいけない媒体だと思うから。もちろん、劇映画はいい加減でもOK、という意味では絶対にないですよ。
実在の人物や出来事を撮影し、ドキュメンタリーを作っていくわけだけど、撮影させていただく対象の方々は、それぞれの人生を切実に生きておられる方々ばかりで。そこに、一定期間カメラを持ち込んで、たった数時間の「作品」にすることがドキュメンタリー作りだと思っていて。
ー はい。
だから、ドキュメンタリーの作り手一人ひとりが、自分なりの筋の通し方、覚悟の据え方をして、制作にあたっていると思う。僕は、三作目にして自分の生まれた町の祭や人々…いわば自分の「ルーツ」と向き合うことができたわけ。これ以上、自分の芯から向き合える対象ってあるのかな?ないんじゃないかな?と今は思ってるんです。だから、当面はドキュメンタリーを作れないなと。
ー わかりました。では『おれらの多度祭』の 制作期間は?
2016〜2019年の四年間、多度祭を追いかけたんだけど、16〜18年の三年間を中心に構成しています。
最初は映画にしようという気はなくて、一作目、二作目と映画を作っていく中で、ある時ふと「あ…自分は、生まれた町のことをほとんど知らないな」と思うようになったんです。よそにばかり目移りして、足もとのことを何も知らないな、恥ずかしいなって。そこで、僕の地元・多度町小山地区の当時の区長さんにお願いして、多度町に帰省した際、小さなカメラを持って地区の会所にお邪魔するようになった。それが2016年の4月やね。
ー 伊藤監督は多度町に住んでいた頃、多度祭には参加してなかった?
うん、映画ばかり観てた内気なガキだったから。
で、2016年から毎年、祭の時期には帰省して、撮影にうかがうようになった。思いついた時にパソコンを開いて、撮影した映像をちょこちょこといじったりはしていたけど、これは映画になる、映画にしたい、とはっきり思うようになったのは、だいぶ後やね。
ー なるほど。
撮影して、撮った映像を見たり、いじったりしながら自分の中で繰り返し反芻…ということをずっとやり続けていた。ガガッと形になり出したのは、2020年になってから。コロナが出て劇映画の企画が停まり、そこからは明確に「多度祭のドキュメンタリー映画を次の作品に」と決めて取り組んだ。それまでの数年間があったから、下地はできていたので、60分の完成形に落ち着くのはけっこう早かったかな。
ー すでに映画祭も決まったそうですね。
はい。スペインのマドリッド・インディー・フィルムフェスティバルの中編部門と、大阪の門真国際映画祭のドキュメンタリー部門にノミネートされてる。マドリッドの映画祭は、長編部門に日本の劇映画『山中静夫氏の尊厳死』(主演:中村梅雀)もノミネートされてて、部門は違えど海外の同じ映画祭で、低予算のドキュメンタリー映画と有名俳優出演の劇映画が肩を並べるというのは、うれしかったね。
写真:上二枚 門真国際映画祭(2020年)
【2020年4月21日・2020年6月29日 収録】
2021/11/30
映画『おれらの多度祭』上映実行委員会