応援メッセージ 【14】
vol. 39 2020-03-26 0
Mark Salvatus + 平野真弓(Load na Dito Projects, Manila)
もう7年も前の話になるが、マニラにやってきたWadaは、白く淀んで悪臭を放つどぶ川にボートで乗り出すと言いだした。普段私たちが目を背けているどぶ川だ。水に充満する細菌が口や鼻や小さなかすりキズから入り込み、体を侵食してしまうかもしれない。
私たちはWadaに考え直すように何度か伝えたが、そんな周りの心配をよそに彼は一人で川に向かい、何事もなかったかのように撮影を終え東京に帰っていった。病気平癒のご利益があるとされるキアポ教会(の裏道)で売られている聖なる水を飲んだからなのか。こうしてマニラで制作されたWadaの作品には、清いものと汚れたもの、正常と狂気の間にあるあいまいな空間が、強烈な身体感覚とともに立ち上がっていたのを今も鮮明に記憶している。
皮肉なことに「Songs For My Son」の製作と時を同じくして、新型ウイルスが世界を先行き不透明な状況に陥れている。感染はボーダーを超えて急速に拡大している一方で、私たちは社会に根付いた深い病みが露呈されていくのを目撃している。
「Songs For My Son」が完成する頃には、私たちの目の前には全く異なる風景が広がっているのかもしれないと、外出禁止の発令されたマニラのアパートから想像を巡らせている。本作品は、現在の物語を、私たちを待ち受けている未知なる領域へと語り継ぐモニュメントとなるだろう。
地主麻衣子(アーティスト)
和田さんが新作映画を撮っているそうなのですが、制作途中のスチルを見るだけで怖すぎてちびってしまいそうになりました・・・