本屋大賞ノンフィクション本大賞について川内有緒からのコメント
vol. 8 2022-11-15 0
こんにちは、川内有緒です。先週の金曜日、『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』が「Yahoo!ニュース|本屋大賞 2022年ノンフィクション本大賞」を受賞いたしました!大きな喜びと、そこに輪を大きな驚きとともに受けとめています。
受賞の第一報は、担当編集者の河井さんからの電話でした。その日は週末の朝で、娘とふたりでぼやっとしながらコーヒーを飲んでいました。あれ、週末の朝に電話?なんだろう、珍しいな。おっ、まさか、増刷か!?と思いながら電話をとると「受賞」という話で半分腰が抜けそうなほどびっくりしました。終始低いテンションを崩さないことが魅力の河井さんですが、この時ばかりはファに♯がついた程度には声が弾んでいました。
わたしはしばらくは信じられない気持ちでした。だってこれは、ドラマもクライマックスも困難も恋も涙もない本です。白鳥さん、私、そしてマイティの3人が、基本的に淡々とした日常を送りながら、好きな美術館に旅をして、好きな作品を見て、友達とおしゃべりをして、ビールを飲む、そんな本です。
こういった本が受賞することに、私はむしろ希望のようなものを感じました。それは誰かの「好き」や、ありのままの日々を肯定すること。誰とも違う自分自身の人生にイエスということ。わたしの人生にもあなたの人生にもすばらしい価値がある。全ての人生には価値がある。わたしはこれまでもずっとそういう思いで本を書いてきました。「パリでメシを食う」も「バウルを探しても」も「晴れたら空に骨まいて」も。
人生には希望に満ちた瞬間もあるけれど、本当に絶望したくなることもあります。だいたいにおいて、明るく元気なひと、としか見られない私の人生にも困難な瞬間というのはけっこうありました。だからこそわたしは希望や楽しさ、夢、愛を拾い集めるようにして本を書いてきました。今回、ああ、こういう本を書いていっていいんだなあ、よかった、よかった、という気持ちになりました。
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受賞のことは贈賞式の11月11日まで内密にということでしたので、多くの方に当日まで報告もできないままでした。わたしはスピーチをする予定があったので、珍しくひどく緊張していました。でも楽屋には白鳥さんもマイティもいたし、河井さんもいたので、終始楽しくおしゃべりをして過ごしていました。なにしろ我々はバンドメンバーのようにあらゆるところを一緒に旅してきた仲間ですから。
会場にあったのは、たくさんの書店員さんが送ってくれた手書きポップ。すごい、すご!!何しろ、子どもの頃から暇さえあえば、本屋さんで時間を過ごしてきた私なので、ああ、本当にこの本を好きになってくださった書店員の方がこんなにいるんだ・・・と実感しました。そして、本屋大賞の事務局の方は本当にリアルな現役の書店員の方々でばかり。本当にこれは書店員さんのお祭りなんだ、うわあ!最高!!
本当はその夜、みなさんと飲みかったです。
書籍『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』は、文字通り白鳥さんと一緒に時間を過ごしたわたしたちの物語です。一方の映画『目の見えない白鳥さん、アートを見にいく』のは、アートを見る旅をする白鳥さん自身を追ったもの。だから主人公はあくまでも白鳥さん。
本を読んでから映画を見るのがいいのか、映画を見たあとに本を読むのがいいのか。それは当の私にもわかりません。言えることは、本と映画は同じところもあれば、まったく違うところもあるということです。どちかが主でどちらかが従ではありません。原作と映画という関係とも違うし。意外とこういう映画と本の関係ってなかったり?
とにかく、今ままで本を読んでくださったみなさま、映画を応援してくださった皆様、ありがとうございます!