塩出監督短編「日常エンド」の事
vol. 39 2015-03-20 0
塩出監督との出会いは、ニューシネマワークショップ(NCW)の私のクラスを受講した時だった。ちょっと生意気なHIP HOP系?の関西人という印象。シナリオの選考に残り、3人の監督に選ばれ短編「偶然の惨髪」を作るのだが塩出監督からは妙な自信がみなぎる。映像表現の才能はあるが登場人物が織りなすドラマが感じられない事を講評すると彼からは反感を持たれたみたい。
それでもNCWのOBシナリオコンペに応募したり、NCWを起点としての制作は続き、シナリオを私に見せたりする。あれだけ反感を買っても・・・。
そのシナリオコンペで選ばれて制作したのが短編「日常エンド」である。世紀末を思わせる夢を見たヒロインが周りに“大変だ!”と言って回るが誰一人信じない。そして地震の様な轟音が聞こえる・・・。地球破滅映画はハリウッド映画でも隆盛を極めた時期があり、その自主映画版とも思った。タイトルの「日常エンド」もはじめて観た2010年には響かなかった。
塩出監督の評価を一変したのが東日本大震災だ。震源地からこれほど離れている東京ですら、日常が終わった時を過ごす事になった。その時「日常エンド」の意味が突き刺さる。「日常」が終わる事はないと思って観ていた虚像の映画を楽しむ事はなくなる。塩出監督は来るべき日常エンドに向けてメッセージがあったのだろうか?
そこまで塩出監督が深いメッセージを込めたのかは今だに聞いていない。
塩出監督の作品は、ハイテンションコメディ映画であり、メッセージ性が感じられない軽い映画として見られており、本人も「難しい映画は、それを作れる監督に任せて、自分は今の様な映画を作り続ける」と東京国際映画祭で発言している。
塩出監督は兵庫県西宮市出身。20年前に阪神淡路大震災を経験しているはず。それも多感な時期に。そう思うと「日常エンド」が重みを増して来るのだ。
独特のコメディに含まれる短編「カリカゾク」の死んだ目のヒロイン広子、本作「死神ターニャ」では死神の視点を通じて“人間”を実感するヒロインみゆきなど“日常エンド”からもがき這い上がるヒロインが魅力的に描かれる。“最悪”から上を向き走るヒロインがいるのだ。
これらの事が私自身が「死神ターニャ」の制作、公開に携わった理由なのかもしれない。
短編「日常エンド」はリターン特典で是非、ご覧頂ければ幸いです。もちろん「死神ターニャ」も楽しんで観てください。
2015/3/20 露木栄司