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後編解禁！TV出演多数の精神科医 名越康文氏と天野友二朗監督による対談！(後編)
vol. 7 2018-07-09 0
来年春公開予定！
映画『脂肪の塊』徹底分析対談 後編を解禁！
対談の記事後編を解禁。これにて、対談の全容が明らかとなった。
記憶喪失・トラウマ・強迫性行動など、脳内の精神医学的病理を斬新に視覚化した本作。
先月、精神科医の名越康文氏を迎えて、天野監督との対談が行われた。(後編)
精神科医・コメンテータ 名越康文先生(右)(「シューイチ」他TV多数出演)と本作監督 天野友二朗(中央)・宣伝配給プロデューサー 小林和仁(左)による対談(後編)
◆映画『脂肪の塊』特報はこちら↓
(※こちらは前編で紹介済みの予告編ではなく、特報です)
⑥映画で挑戦したいのは免疫としての毒。ハッピーエンドに潜む虚構とは。
名越先生：
「劇中の花子のトラウマ、自分の中に閉ざした罪悪感、他人に対する攻撃的な欲求など。
そういうものを、皆が自分で分析して受け入れる。
あるいは、『あなたもそうか』『僕もそうだよ』と語り掛ける。
普段働いている、昼間の社会では出さない、そうした闇の側の心理を受け入れないと、僕たちは救われないと思う。
『昼の心理学』ではなく、『夜の心理学』こそ、映画でみんな描いてほしいなと思っていて。」
天野監督：
「皆、そういう人間に潜む脆さ・弱さは、自分とは無縁だとフタをして、目を背けて強がって生きている感じがします。
強がって生きていても、しょうがない。
もちろん、『弱さ』を描く映画はあります。
でも、それは商業的に脚本を書くアプローチに過ぎなかったりします。
まず最初、主人公に課題や困難を与える。
そこから一旦落として、主人公の弱さや脆さを見せておいて、その後、困難を乗り越えることを見せる、脚本上のテクニックです。
消費的な表現だと思うんです。
だから、本作は、救いのあるハッピーエンドにはしたくはなかったです。」
天野監督：
「今のお客さんは、すごく賢いです。
僕は、普段、映画とは違う仕事をしています。
周囲の人たちと話す中で感じるのは、一般社会の皆さんは、きれいごとには、もう飽きているんですね。
30～40代になって、『夢は叶う！』と映画で言われてもなぁと。
お客さんは、『あぁ、はいはい、そういう元気づけるための映画ね』と、最初から消費すること前提で、製作サイドの意図を理解して映画を観ことが多いです。
それを観て、『俺は本当に人生が変わった！夢は叶うんだ！』なんて思う人は、あまりいません。
作り手も、観る側ともに、最初から消費されること・消費すること前提だと目標が低いと、僕は思います。
だったら、僕は映画を通して、見る人に、免疫的にちょっとした毒を入れたほうがいいかと。」
名越先生：
「抗体を作るわけだ。
すごいな！予防接種だ！
寺山修二などのアングラな人たちがその時代に対してやろうとしたこと、やれなかったことを全く違う角度からやっているような気がします。」
⑦花子とユキのラブストーリー
天野監督：
「会社のシーンは実際のオフィスを借りて撮影しています。
現実的なシーンにしたかったからです。
でも、花子が家に帰ると、花柄の壁紙や、オレンジや青い照明があって。
あれは、花子の日常というより、家に帰った花子の精神世界を描きたかったんです。
そういう美化された空間の中で、ユキとのラブシーンを入れたかったんです。
ラブシーンをリアルに生々しくしなかった理由は、花子にとってのユキとの関係というのは、『他人が触れちゃいけない領域』だからです。
『絶対に不可侵な二人にとっての美しい場所』です。
だから、二人の精神世界をあの部屋に落とし込みました。
ただ、全部の描写を精神世界みたいにしてしまうと、地に足の着いてない映画になってしまう。だから、会社のシーンを入れて、日常と非日常のバランスを取りました。」
名越先生：
「一つ言えば、箸休めができるシーンがまったくない。
どこにも逃げこませないよね。
ある種、監督のアーティストとしてのサディズムですね。」
⑧「正義VS悪」への違和感
天野監督：
「これ、色んな監督にやってほしいんですけど。
どちらかと言うと、『正義』ではなく『悪』寄りの映画を撮る場合。
『正義に反抗する』という反抗の美徳というスタンスは、少し形式的で古い気がします。
反抗できるということは、ある意味、それだけ責任がない立場だから出来たりする。
なので、反抗すれば良いわけでもないし、従っていれば良いわけでもない。
だから、『正義VS悪』という図式は少し古い気がします。」
天野監督：
「例えば、鼻につく、実用的ではない偽りの『正義』は確かにあります。
でも、そういう『正義』を嫌い、その粗を血眼で見つけては、集団で叩く人はどこにでもいる。これは集団だから叩けるわけであり、個人単位になった時、個々人が責任を持って発言をしているかと言ったらそうでもない場合もある。
さらには、偽善的な『正義』を嫌い、血眼で叩こうとするあまり、実は、その人自身が、一番自分が忌み嫌う『正義』的な存在になっていたりする。」
名越先生：
「まったく実効性がないと、僕も思いますね。」
天野監督：
「だから、僕自身は『正義』を裁く『正義』ではなく、『正義』に反抗する『悪』とも違います。
あと、『狂気と正気』で言えば、『狂気』だけを描くのも、もう古い。
つまりは、『正義VS悪』『白VS黒』『正気VS狂気』という対立構造じゃなくて、本当は全部混ざっている。
全ては地続きで延長線上です。
人は、整理できない感情や物事に対し、『正義』『悪』とかいう言葉で枠組みを作って整理する。
でも、枠を作ったら、結局人は腑に落ちず、納得できないんですよね。
そういうのを解決してくれるのが、宗教や映画だったりするのかなと。
だから、『何々VS何々』という単純な描き方は、少し古い気がします。」
名越先生：
「僕と監督は一世代以上違うのに、激しく共感しますね！
同じ医療関係者だから言うんだけど、例えば独裁者の身体も、博愛主義者の身体も、遺体になったら一緒なんですよ。
そういうことを現場でずっと体感していると、『正義VS悪』といういわば乖離した対立構造というのは、単純すぎて本当に虚しいと思います。
自分の中の余剰なエネルギーを燃やすための、ただの手段なのではと。」
⑨サイエンスとアートの融合。音響へのこだわり。
※おびただしい種類のシンセサイザーと弦楽器の音色を組み合わせて作られた音響効果・心理音により、脳内で起きている精神医学的病理、心理的な不安感を表現↑↓
天野監督：
「サイエンスで培った論理的に組み立てていく話法を、アートにちょっと付加したら、不整合な感情を、より人に印象的に伝えられるんじゃなかなと。
感情をそのままぶつけたら、お客さんは分からないんじゃないかと。」
名越先生：
「確かに、感情にうったえる映画の文脈とは、根本的に違うと思いますね。
監督は無意識のうちに、それを表現していると思う。
普通はどこかにカタルシスという穴を開けてあげたいと思うものです。
気持ちよくさせてもらうことを観客は求めているけど、同時に、なんか誘導されているなと感じることは、観客は嫌いますよね？
でも、この映画は、監督が、意図、つまり人格として現れないと言うか。
だから、怖いんですよ。」
天野監督：
「あと、僕は音楽も全て全パート、全曲作曲しています。」
(※『脂肪の塊』は、監督によるオリジナル劇伴に加え、一曲だけ、マーラーの交響曲第五番『アダージェット』のピアノアレンジをレコーディング。)
※本作の劇伴BGMを演奏している新日本BGMフィルハーモニー管弦楽団はじめとした演奏家の皆さんと、天野監督(中央左)、市原雄亮指揮者(中央右)↓
市原指揮者の元、楽団演奏により、天野監督のオリジナル楽曲が、BGMとして仕上がっていく。弦楽器の生演奏に徹底してこだわっている。↓
前作『自由を手にするその日まで』とは異なり、今回はピアノによる哀しい旋律も響く↓
名越先生：
「は～、すごいなあ。音楽をコントロールできる監督って、ものすごく強みだと思うよ。
下手すれば半分くらい音楽で持っていっている映画ってあるよね。」
天野監督：
「ありますね。
映画製作では、引き算が重要視されるけど、時には少しの足し算も大事だと思うんです。
効果音・心理音とかも全部自分で作っています。
人肉を食べるシーンの不穏な音も、シンセサイザーで自分で入れています。」
名越先生：
「そうなんだ！」
天野監督：
「例えば、神に祈り捧げるシーンは、宗教色を感じさせるパイプオルガンの音を薄く入れたりしています。
外注して放り投げたら、そこまで理解してやってくれないと思うんです。
だったら、自分でやったほうがいいかと。」
名越先生：
「それは、なんか気づいた！
僕も一生に一度はそうやって映画を作って、死にたいですね（笑）」
映画は、来年2019年春公開を目指し、2018年7月23日まで現在クラウドファンディング中。
集まった金額に比例して、公開時のPR力、展開規模が変わってきます。
少しでもご興味を持っていただけた方がいらしたら、ぜひご支援・ご協力のほどよろしくお願いいたします。
◆クラウドファンディングご支援ページはこちらから◆
※本作『脂肪の塊』はYahoo！ニュースにも掲載
※監督略歴
天野友二朗。
1990年9月14日生まれ。鳥取大学 大学院 医学系研究科 修士課程修了。
5歳からバイオリンを習い、在学中はオーケストラに所属していた経験から、劇伴作曲も行う。
大学在学中より、学生映画を監督しはじめる。
(学生時の自主映画の映画祭実績：
TAMA NEW WAVE ある視点部門入選、福岡インディペンデント映画祭2015 入選、JCF学生映画祭グランプリ 受賞)
上京後、深田晃司監督・土屋豊監督主催のNPO『独立映画鍋』に入会。
本格的に映画製作を志すべく、事実上の初監督作として『自由を手にするその日まで』(2017年2月完成)を手掛ける。
※現在、2018年5月2日よりDVDリリースされ、全国TSUTAYA・GEO他レンタル店にて取り扱い中。セルはAmazon、楽天市場他にて取扱中。
(映画祭実績：
ゆうばり叛逆映画祭2018 入選、第一回アジア国際映画祭 正式招待、Kisssh-Kissssssh映画祭2017 最優秀主演女優賞受賞、カナザワ映画祭2017 審査員特別賞)
本作、映画『脂肪の塊』は天野監督二作目。