袈裟(けさ)について
vol. 25 2022-07-25 0
僧侶(お坊さん)が着用する衣服のことを「袈裟」といい、もとはサンスクリット語の「カーシャーヤ」 (kāṣāya) がその語源で、「壊色、濁った色」を意味する。
お釈迦さまの時代、使えなくなって捨てられたボロ布や、汚物を拭う位しか用を足せなくなった布を集めて作ったといわれている。このことから「糞掃衣(ふんぞうえ)」とも呼ばれる。「糞」を掃除する衣という意味だから、あまりきれいな名前ではない・・・。
そして本来の「袈裟」には、もう一つ違う呼び名がある。それは布をつなぎ合わせた袈裟が、田んぼの畦に似ていることから「福田衣(ふくでんね)」というもの。これは「田んぼに種をまけば収穫が得られるのと同じように、信仰の種をまけば幸福がもたらされる」という意味が込められているというのだ。だから「福田さん」という苗字の人は、「福」をもたらす田んぼを持っているという意味で、とても縁起のいい名前なのである。
今度福田さんという苗字の方にぜひこの話をしてみたら、喜んでいただけるのではないでしょうか?
金襴の布地
さて、インドで修行僧(お坊さん)が身に着けていた衣服は、中国へ伝播する頃になると装飾的なものとなっていく。そして日本に伝わる頃には、さまざまな色糸(いろいと)や、金糸(きんし)を使用した織物を「袈裟」と呼ぶようになり、やがてお坊さんの着物である「法衣」の上に着用するものを「袈裟」と呼ぶようになった。
七條袈裟とは
清見寺には開山岌山上人の「カシャ除けの袈裟」が大正時代まで大切に保管されていた。妖怪カシャから鹿野和泉守の遺体を護ったとされるこの袈裟は、僧侶(お坊さん)が着用する衣服「袈裟」の中で、葬儀などの正式な場で着用される「七條袈裟」と呼ばれる種類のものである。地域によっては棺にこの「七條袈裟」あるいは金襴の布地をかけるというが、これはカシャから遺体を護るためだと考えられる。
さて、「袈裟」はタテに繋いだ條の数によってその重要度が異なる。例えば五條袈裟より七條袈裟のほうが上位とされる。
七條→九條→二十五条というように條数が増していく(二十五條が最上位)と重んじられる度合いも高くなるというわけだ。現代の男性の正礼服でいえば、燕尾服やモーニングコートであるが、伝統的なお坊さんの衣装もそれと同じで「礼服からカジュアルまでのランクがある」といえばわかりやすいかもしれない。
ちなみに江戸時代以降(現代においても)、一般的な葬儀で着用される袈裟といえば、七條袈裟(五條袈裟を着用こともある)である。九條袈裟や二十五條袈裟は本山での伝統的な儀式を除いてはほとんど着用されることはない。
※五條袈裟には上の写真のようにいくつか種類がある。
三衣一鉢(さんねいっぱつ)
お釈迦様の時代、出家者は質素な生活を旨としていたので、必要最低限なものしか所持を許されなかった。それを「三衣一鉢(さんねいっぱつ)」といい、3種類の「衣」とひとつの「鉢」(托鉢のための容器)だけであった。
「三衣」とは、出家者が着ることを許された三種類の衣服のことをいう。下の図を見ていただきたい。
上から順に①僧伽梨(そうぎゃり)、②鬱多羅僧(うったらそう)、③安陀会(あんだえ)という三種類。それぞれの名前はあまり聞きなれない言葉である。それもそのはずインドの古い言語、サンスクリット語が語源だからである。お釈迦様の教えが中国語に訳出される時、その音を漢字に当てはめたから。
上の図にあるように③は衣服の下に着用するいわゆる「下着」。そして②は「普段着」。続いて①は「訪問着」つまりフォーマルに相当する。
それぞれ五條から二十五條まで、袈裟の種類も③②①それぞれに当てはめられている。③五條は「小衣」、②七條は「中衣」、①九條・二十五條は「大衣」とも呼ばれる。
このプロジェクトで復元を目指しているのが「カシャ除けの七條袈裟」。つまり②鬱多羅僧「中衣」に分類される袈裟で「普段着」に分類されるけれど、本山の正式な儀式以外で一般的に使用される正装といえばこの「七條袈裟」なのである。
如法衣(にょほうえ)
さて、「七條袈裟」とよく似ているものに「如法衣」がある。この「如法衣」は修行中、あるいは通夜などで着用されるもので、「七條袈裟」とは兄弟といってもよい。
なぜ「如法衣」と「七條袈裟」が兄弟のようなものかといえば、袈裟の形状は同じであるが、使用される布地の色の違いだけだからである。つまり「如法衣」は「壊色(えしき)」(破壊された色・濁った色)を使用したもの、「七條袈裟」は「顕色(けんじき)」(原色、明るい色)を使用したものという違いだけだからである。たとえて言えば「光」と「影」、あるいは「月」と「太陽」みたいなものといえばよいだろうか。
『仏説阿弥陀経』が織り込まれた如法衣
まとめ
仏教が日本に伝来して以来、貴族社会と寺院との関わりの中で、「袈裟」も次第に発展を遂げ、職人の卓越した技術による工芸品となっていく。今でも僧侶(お坊さん)が着用する袈裟それぞれに伝統的な技法がいくつも注ぎ込まれている。
また「袈裟」に織り込まれることの多い「宝相華」や「鳳凰」などの文様は、もともと正倉院宝物に描かれたものである。こうした文様が約1300年の時を経た今でも用いられている。「袈裟」は歴史を感じさせてくれる芸術作品なのである。今度ぜひ、葬儀や法要などの際にはお坊さんの着けている袈裟をご覧ください!
そして「カシャ除けの七條袈裟」が完成したら、ぜひ清見寺へ足をお運びいただければ幸いです。
近日中に「七條袈裟」制作中の写真をアップデート記事にて公開いたします!
また次回、お楽しみに!