応援コメントが到着しました!⑤
vol. 6 2024-12-21 0
静岡文化芸術大学文化政策学部の加藤教授から、クラファン応援コメントが届きました。
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ミニシアターをめぐって私が体験した二、三の事柄
古い話から始めさせてほしい。もうおよそ35年も前になるが、千葉大学に進学した私は、映画好きの友人らと東京のミニシアターによく足を運ぶことになった。名古屋出身の私は当時、それほど映画に興味があるわけでもなかったが、目利きの友人がいて、彼が映画に誘ってくれたのである。バブル経済の真っ只中の東京を散策する楽しみもあり、彼の後ろをせっせと追いかけていた。まだ渋谷の桜丘町にあった頃の「ユーロスペース」、銀座の晴海通りを横切る地下にあった「銀座シネパトス」、有楽町駅前で入り口がわかりにくい雑然とした場所にあった「有楽シネマ(名前が違うかもしれない)」など、今思い出せば貴重な映画館へ、彼は私を連れて行ってくれた。
その中でも、特に頻繁に通ったのは日比谷の「シャンテ・シネ」だった。当時はミニシアターの全盛期。その中でもとりわけおしゃれで、上映される映画も名作揃いだった。トリュフォー(リバイバル上映があった)やヴェンダースもここで出会った。そういえば、一回だけいつもの友人とではなく、抜け駆けで同級生の女性を誘って侯孝賢の『非情城市』を見に行った。女性と2人で見た映画はこれが初めてだったが、セレクトが悪かったのか私が悪かったのか(後者に決まっているのだが)、その女性と2人で出かけたのはこの時限りだった。どうも苦い思い出である。その後だったと思うが、『冬冬の夏休み』を見た(今もパンフレットが残っている)。いい映画だった。もし彼女とこちらの映画を見に行っていたらどうなっていただろう(多分何も変わらないだろう…)。侯孝賢(の映画)は私にとって、今でも罪な奴という位置付けである。
そこから数十年の時を経て、2012年に浜松の大学に赴任した私は、せっかくだから静岡市を探索しようと考えた。ただ行くだけでは寂しいので、映画館を調べたところ「静岡シネ・ギャラリー」というミニシアターがあるではないか。当時、Googleストリートビューは既にあったと思うが、確認せずに足を運んだ。懸命に映画館を探したが見つからない。だがシネ・ギャラリーはあった。しかも目の前に。おしゃれすぎて映画館だと気づかなかったのである。高級レストランだと勝手に思っていた。おずおずと中に入る。どこでチケットを買えるのだろう。まごまごしている自分自身の姿が頭をよぎり慌ててしまう。現在のシネ・ギャラリーのHPを見てほしい。チケット売り場までの案内が掲載されている。あの時これを閲覧していれば、そんなに慌てなかったかもしれない。
さて、何を見たのか。思い出したのだが(静岡シネ・ギャラリーの上映記録でも確認できた)アッバス・キアロスタミ監督の『ライク・サムワン・イン・ラブ』だ。80代の元大学教授が、デートクラブの若い女性と関わることで悲劇的な結末を迎える映画だ。映し出される元教授の書斎に、私の専門である社会学の書籍があり、研究者仲間で話題になったのを覚えている。ちょうど大学の教員になったばかりの私は、こんな晩年になるのかな、と未来を先取りして見ていた気がする。一体、何の導きだったのだろう。
これが静岡シネ・ギャラリーとの出会いだった。映画館、とりわけその中でもミニシアターとは出会いという言葉がよく似合う。どんな出会い方をして、どのような付き合いが続くのか。毎回違う出会いがある。それは映画の中身のことだけではない。そこへ足を運ぶときの街の景色、誰と見に行くのか、その日の天気はどうか。そうしたことを含めて、その日の映画との出会いだ。いつも、それまでとは違う新鮮な出会いがそこにある。静岡シネ・ギャラリーは、そんな出会いが得られる映画館だ。ぜひ静岡の地で、これからもいろいろな出会いを届けてほしい。
静岡文化芸術大学文化政策学部教員
加藤裕治
静岡文化芸術大学 教員紹介サイト…https://www.suac.ac.jp/education/faculty/culture/k...
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今年の7月、浜松シネマイーラの榎本支配人と一緒にシネ・ギャラリー副支配人・川口は、静岡文化芸術大学に呼んでいただき、加藤教授の授業でお話させてもらいました。
自身は大したお話はできませんでしたが、加藤教授が「映画を映画館で見ることの良さ・魅力」「映画に出会う喜び」を学生の皆さんに伝えたかったということがよく伝わりました。
劇場としても、学生の皆さんにも「これは自分の物語だ」と感じてもらえるような作品に出会ってほしいと思っています。
加藤教授にご覧いただいた『ライク・サムワン・イン・ラブ』(2012)。静岡駅前での撮影時、当館スタッフも撮影に協力させていただきました(エキストラ参加いただいた方もいらっしゃるのでは?)懐かしくよい思い出です。