「地獄会議~それはアイデンティティを賭けた闘い~」
vol. 43 2020-04-21 0
どうも、モラルです。
なかなか、人と会うこともこともままならない毎日ですが、皆様元気にお過ごしでしょうか?
僕は夜な夜な浴槽にアロマキャンドルを持ち込んでは、ひとりで「バチェラーごっこ」に興じています(余談ですが、シーズン3は歴史に残る傑作だと僕は思います。未見の方、是非是非この機会に!)。
さて今日のテーマは、我が花まる学習会王子小劇場が毎年密かに年末に行っている、「地獄会議」というイベントについてです。
ご存知の方も多いとは思いますが、当劇場には「佐藤佐吉賞」という、一年の間に劇場やスタジオで上演された作品の中から、特に優れていた人や物を部門ごとに選出して贈呈する賞がございまして、それを決めるために劇場スタッフが集まって話し合うのが、地獄会議なのです。「地獄」と言われるだけあって会議は長時間に及び、10時間なんてのはザラ、長い時には日を改めて延長戦が行われることもあります。
まあ、基本的には皆、いい大人ですし、自分の意見を主張しつつも相手の意見にも耳を傾け、なるべく誠実であろうと意識しているわけですが・・・ぶっちゃけ、そんな当たり前のこと、優等生的に言われても面白くないですよね。やっぱさ、楽しいのは、ドロドロした、人間むき出しの話だよなーっ!!!
ということで今回は、なるべく不穏な方向にバイアスをかけながら、この地獄会議というものについて、好き勝手に語っていこうと思います。
まず前提として当劇場は、自身もクリエイターとして活動する職員が多いものですから、それぞれが「自分のセンスが一番」と信じているわけです。例えば日々の、
「ちょっとそのボールペン取って~」
「オッケー」
という何気ないやり取りでも、本音の部分を含めると、
「ちょっとそのボールペン取って~(俺の方がお前よりセンスあるけどな!)」
「オッケー(アンタより私の方がセンスあるけどね!)」
というやり取りになります。各々、理性によって、カッコ内の部分を口に出さずにいるに過ぎないのです。
ですが地獄会議という場は、その性質上、理性の仮面をつけたままでは何も話が進みません。いくら、ニュートラルに物事を判断しようと努力したとしても、やはり、表現に正解・不正解なんてないわけですから、最終的にはどうしても「自分はこれがいいと思う!」という、感性の話になってきてしまうことは否めないわけですね。
その結果皆、推しの作品を、もはや作り手くらいの熱量で熱くプレゼンし合うことになります。何年前だったか僕は、「この中で今、俺だけが正しいことを言ってる!何で誰もそのことに気付かないんだよ!」と言った記憶があります。今思えば、恐ろしいほどに自分勝手な発言ですが、そういう気持ちになってしまうのが、地獄会議というものなのです。
とはいえ勿論、声がでかいやつの意見が通るということはなく、民主主義的な話し合いによって決まっていくわけですから、それぞれ様々な手を使って、自分の正当性を主張しようとします。
その中の、ひとつの手段が、「さりげないマウント取り」です。
・・・いや、ごめんなさい。これは正直、このコラムを少しでも盛り上げようと思って大げさに書いてはおります。でもね、うん、認めましょう。僕達は日々、生きている中で、無意識のうちにマウントを取っていると。人間だもの、マウント取り合ったっていいじゃないか。マウント取りマウント取られて生きるのさ。
ちなみに僕の必殺技は、「これは六年前の事例で言うと・・・」と、自分しかこの劇場にいなかった時期の話を持ち出す「秘剣・古参マウント」です。が、これは、後輩職員が生み出した「奥義・『今は今なんで』返し」によって破られ、今や必殺技としての機能を失っています。
他にも「我流・俺は初演バージョンも見てますマウント」や「忍術・自分もこのテーマ過去に扱いましたマウント」など、当劇場には様々なマウントの使い手がよりどりみどり!
いやはや、クリエイターが集う場所というのは、何とも面倒くさいものでございます。
また、賞の選出は基本的に、ひと部門ずつ話を進めていくわけですが、例えば演出部門の話をしているときに、「そういえばさっきの脚本部門は・・・」と、話が戻って再検討になることもあるため、いかなる瞬間も油断できません。一度は決まったはずの自分の推しが覆された時の、職員の取り乱し方はすごいです。「そこにメスを入れるのは違うだろーッ!」という咆哮が響き渡ります。
さらに、そろそろ会議もまとまりかけた頃に、今まで決めたことをすべて覆す意見を誰かが出すようなこともあったりして、またその意見が「確かに・・・」と思わせる部分もあったりして、そうなると全員、腹を括ったようにコーヒーやエナジードリンクを身体にぶち込んで、再び一から話が始まったりします。
それでも、それぞれの考え方は違えど、なるべく多角的に、話せるだけの話をしたうえで、「全員納得」の原則のもと、各賞の選出が決まっていくのですね・・・。
が、しかし―。
年末という性質上、この話し合いの後はそのまま、劇場職員の忘年会になることが多いのですが、僕に言わせれば、その飲み会こそが、真の地獄会議なのです。
基本的に、会議が終わればノーサイドの精神ですから、皆、和やかにグラスを傾けてはいますが、心の中は穏やかではありません。誰一人、「自分の意見が全部通った」なんてことはあり得ませんから、全員、何かしらの炎がくすぶっているわけです。
何気ない雑談から、ふとした瞬間に「さっき、お前さあ・・・」と話を蒸し返したくなるのを、誰しもが抑えている―。
そして、都合よく「全部水に流して年を越しましょう」なんてことにはなるはずもなく、しっかり皆、お互いの発言を覚えたままで翌年を迎えることになるのです(笑)
以上、完全に私の主観による、地獄会議の紹介でした。
つまるところ、私の言いたいことは二つです。
一つ目は、サイヤ人が傷ついて回復するたびに強くなるように、こんな会議を毎年繰り返している我々劇場職員の絆は、なんだかんだでメチャクチャ強いということ。
そして二つ目は、やはりこれだけ地獄会議で我々が熱くなってしまうのは、本当に面白い作品を作る劇団さんが、当劇場を利用してくださっているからだということです。
毎度毎度のお願いで恐縮ですが、是非、中止となった今回の佐藤佐吉演劇祭のクラウドファンディングにご協力いただけますと幸いです!